図書室 /岸 政彦

ダ・ヴィンチ 編集部から、今年の「プラチナ本OF THE YEAR 2019」に選ばれた本書。どんな本なのかと興味を持っていたところ、たまたま立ち寄った普段とは違う町の図書館で見つけ、折角なのでタイトルのとおり図書館で読みました。表題作の「図書室」は、主人公である50歳の女性がふとしたことから過去の11歳の頃に図書室で出会った少年との交流を思い出す。何かが変わるわけでも無くとも、記憶とはそれでも生きていく寄る辺のような気がする。もう一作の「給水塔」は、名古屋から大阪の街に出てきた著者の自伝的エッセイ。

 

図書室

図書室

  • 作者:岸 政彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/27
  • メディア: 単行本
 

 

Iの悲劇 /米澤 穂信

米澤さんの新刊。合併により誕生した地方の小規模自治体である南はかま市が舞台。6年前に無人となった集落の簑石を再生するために設置された"甦り課」に配属された満願寺と新人の観山、定時退庁が取り柄の西野課長の3人。移住プロジェクトにより12組が移り住むことになり、満願寺はイマイチ学生気分の抜けない観山と共に次々と起こる厄介ごとの解決に奔走するものの、甲斐なく皆やがて去っていってしまう。その裏に隠された思惑と意外な真相。地方自治を取り巻く不条理な現実をテーマにしつつミステリとしての仕掛けもある。ただ居た堪れない。

 

Iの悲劇

Iの悲劇

 

2015年12月の読書メーター

2015年12月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:3837ページ
ナイス数:671ナイス

陽気なギャングは三つ数えろ (ノン・ノベル)陽気なギャングは三つ数えろ (ノン・ノベル)感想
陽気なギャングシリーズ第3弾。4人の変わらないテンポと楽しい会話と、時間の経過とともに少しずつ変わっているようなところも感じられる。ホテルで出くわした週刊誌記者の火尻の財布を久遠がスった事から正体に気付かれ、記事にすると脅されることに。火尻が借金を抱えるカジノグループの大桑たちや過去に火尻の記事に被害を受けた人達を交えて、裏をかき合う騙し合いが始まる。余りの火尻のゲスっぷりに、一矢報いたところで救われない人を思うと、「世の中にはいい話にも悲しい話にも思える思えるものばかりだ」との成瀬の言葉が身に染みる。
読了日:12月30日 著者:伊坂幸太郎
20 (実業之日本社文庫)20 (実業之日本社文庫)感想
5位でシーズンを終えようとしているかつての名門スターズの最終戦のマウンドを託されたのはドラフト6位の高卒ルーキー初先発の有原。回は9回表を迎え、コントロールが定まらないながらもノーヒットノーラン継続中。物語は、有原の投じる20球を、有原本人を始め、監督の樋口、コーチやチームメイトのみならず、試合を見つめるオーナーや新聞記者、選手行きつけのラーメン店主など、1球ごとに視点を変えながら進んでいく。野球ファンなら納得の掘り下げと凝縮ですが、それにしても、乱闘にボークに負傷退場にと詰め込みすぎた感は否めないかな。
読了日:12月23日 著者:堂場瞬一
凍りのくじら (講談社ノベルス)凍りのくじら (講談社ノベルス)感想
気持ちが纏まらず、上手く言葉に出来ない。藤子・F・不二雄先生をこよなく尊敬する芦沢光、理帆子親子が、ドラえもんがすべての読書の原点と言い切る気持ちはとてもよくわかります。SF(少し・不在)な高校2年生の理帆子の前に現れた別所あきら、少しずつ壊れていく前彼の若尾、末期癌で余命幾ばくもない病床の母、世界的指揮者の松永の私生児で口がきけない郁也と家政婦の多恵。ドラえもんの道具になぞらえながら物語は進んでいき、若尾によって脅かされる理帆子の世界が救われるクライマックスでミステリだったと気づかせる仕掛けが見所。
読了日:12月21日 著者:辻村深月
チームII (実業之日本社文庫)チームII (実業之日本社文庫)感想
「ヒート」で描かれなかった、山城と甲本のデッドヒートのまさかの結末からスタート。あれから7年後、突然、廃部の危機に見舞われた山城が所属するタキタが目指す全日本実業団駅伝。そして、因縁のように浦大地が率いることになった学生連合チームが挑む箱根駅伝。故障に苦しむ山城は復活出来るのか?チームの運命が交錯し、手に汗握る展開が繰り広げられる。それにしても、山城の可愛げのなさや傲慢さは変わらないにもかかわらず、浦や青木ら”チーム山城”の面々はこんなにも世話を焼きたがり、読者を含めて皆が山城を愛して止まないのです。
読了日:12月20日 著者:堂場瞬一
ヘブンメイカー スタープレイヤー (2)ヘブンメイカー スタープレイヤー (2)感想
これは”サージイッキクロニクル”という名の、片思いの相手を殺され、自暴自棄になっていた大学生の佐伯逸輝が、突然手に入れたスタープレイヤーの力によって、初めは自らの欲望を満たそうとし、次には弱さを隠しながら虚勢を張り、そして誰かの役に立とうとしながらも、最後まで間違い続けた歴史を記した壮大な物語。しかし、自分も愚かであると自覚し、同じように失敗するだろうと思えるからこそ、共に悔やみながらも応援したくなる。そして、ヘブンメイカーの名の通り、前作で登場しラストで夕月が目指したあの”ヘブン”の誕生史でもあります。
読了日:12月13日 著者:恒川光太郎
先生と僕 (双葉文庫)先生と僕 (双葉文庫)感想
大学で友人となった山田に誘われて推理小説研究会に入ったものの、殺人などの怖い話がからっきし苦手な「僕」こと伊藤二葉。大人びた言動でミステリ好き、勉強を心配する母親をカモフラージュするために二葉を家庭教師に雇う、生徒なのに「先生」こと瀬川隼人。隼人の冴えた推理と二葉の瞬間記憶能力の名コンビが、書店やカラオケボックス、市民プールやペットショップなどで起こる謎を解き明かす。隼人君が二葉への指南役となったミステリ入門書的な側面も読んでいて楽しいです。あと、二葉の「ペットショップなんか無くなればいいのに」には同意。
読了日:12月13日 著者:坂木司
鍵のない夢を見る (文春文庫)鍵のない夢を見る (文春文庫)感想
どこにでも居そうで、誰もが少しは心当たりが有りそうな、それでいて流石にそこまではと思い留まっているような、そんな感情を抱えた五人の女性が主人公の五つの短編。男性読者としては、どんな感想を抱いたら良いのか、見てはいけないものを見てしまったような居心地の悪さを感じるが、このそこはかとない気持ち悪さと恐ろしさ、登場する女性全てに感じるいたたまれなさこそが、著者が登場人物の心の内の暗部を描き切った証であり、直木賞受賞の理由なんでしょうね。それにしても、読んでて疲れた…。
読了日:12月12日 著者:辻村深月
神楽坂のマリエ ヤッさんII神楽坂のマリエ ヤッさんII感想
「誇り高き宿無し」ヤッさんの今度の相棒は、神楽坂のカフェが閉店に追い込まれ失意のどん底にあったマリエ。相変わらず気風のいいヤッさんの元で改めて食について学ぶマリエを見守る料理人や築地の職人たちの暖かさがいい。一方、どこか抜けていて惚れっぽすぎるマリエにはハラハラさせられっ放し。前作のタカオと比べて、マリエの弟子入りを決めるくだりまでが早すぎるのと、失敗した時もちょっと甘い気がするのはご愛嬌?ヤッさんらしく粋なラストには喝采を送りたくなりますが、ヤッさんが啖呵を切るシーンが少し少なかったのが残念かな。
読了日:12月8日 著者:原宏一
スタープレイヤー (単行本)スタープレイヤー (単行本)感想
何でも叶えられる「10の願い」の力を与えられ、異世界へ飛ばされたらどうするか?ファンタジー好きでなくとも、誰もが一度は想像したことがある大喜利のような設定だからこそ、ここまで正面切って挑むのはプロとして勇気がいると思います。能力を持つスタープレイヤーである主人公の夕月やマキオ、ラナログや田中さんのように呼び出された人間の外来民、キトパ族等の現地人、まだ見ぬ未踏の地の数々。RPGのゲームならともかく、現実に自分が放り込まれたら、前向きに進んでいく勇気を持てるかどうか、誰かのために祈る人になれる自信は…無い。
読了日:12月6日 著者:恒川光太郎
ジャイロスコープ (新潮文庫)ジャイロスコープ (新潮文庫)感想
書き下ろしを含む、それぞれテイストの違う7つの短編集。「浜田青年ホントスカ」では、相談屋の稲垣さんと浜田青年のやり取りも可笑しいが、ラストの二転三転の展開に驚愕。パラレル風の「if」や多重人格風の「二月下旬から三月上旬」の、読者に対して明らかに仕掛けられた騙され感も楽しい。なかでもお気に入りは、プレゼントを貰えない子共達の為のサンタクロースシステムを運営する会社という設定もさることながら、結果オーライの申し子である松田君のケアレスミスに、ユーモアと神様のレシピ的な優しさを感じられる「一人では無理がある」。
読了日:12月5日 著者:伊坂幸太郎
スカラムーシュ・ムーンスカラムーシュ・ムーン感想
日本三分の計と医翼主義により国家の治療という大計を目論むスカラムーシュ彦根。その神輿となる浪速の龍こと浪速府の村雨知事に仕掛けられる霞が関からのワクチン戦争を迎え撃つべく訪れた加賀のナナミ・エッグ。ワクチン製造のための有精卵を確保するため奔走するまなみや拓也、誠一たち。一方、彦根はあのモンテカルロのマリツィアが管理するドクトル・アマギの資金や極北の世良医師のほか、過去の第二医師会によるスト蜂起の因縁の決着、ジュネーブからベネツィアまで股にかけ八面六臂の活躍振り。しかし、因縁多過ぎて消化し切れない(>_<)
読了日:12月5日 著者:海堂尊

読書メーター

2015年11月の読書メーター

2015年11月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:4333ページ
ナイス数:783ナイス

七色の毒 (単行本)七色の毒 (単行本)感想
切り裂きジャック事件でもお馴染み、俳優並みの容姿に男の犯人の嘘は絶対見破る一方で、女性にはからっきしの≪無駄に男前≫の異名を持つ警視庁捜査一課犬養隼人が主人公。赤、黒、白、青、黄、緑、紫の7色になぞらえた、人間心理の奥底に潜む毒のような感情を描いた7つの短編集。どの話も、犯人や動機が判明したかと思わせておいて、そこから一捻りして意外性のあるどんでん返しを狙って書かれているうえ、社会的な問題を風刺的に取り入れているのも中山さんらしい。書き下ろしの紫が、赤から繋がって短編集として上手く纏められている。
読了日:11月29日 著者:中山七里
モダンモダン感想
表紙はピカソの「鏡の中の少女」。「ザ・モダン」と言われ、モダンアートの殿堂のニューヨーク近代美術館「MoMA」。そこで働くキュレーターや展覧会ディレクター、警備員などの人達を通して描かれるMoMAの歴史。ニューヨークでおきた9.11や、3.11でアメリカから見たフクシマが題材として取り上げられている。「新しい出口」では、楽園のカンヴァスのティムも登場する。特に良かったのは、私の好きなマシンに登場する初代館長のアルフレッド・バーの言葉「知らないところで役に立っていて、それでいて美しい-それをアートと呼ぶ」。
読了日:11月28日 著者:原田マハ
夜市夜市感想
裕司といずみが入り込んだ、岬の森の中で開かれた<夜市>。そこは、複数の世界にまたがった不思議な場所で、人では無い様々な生き物があらゆる品物を売っており、何かを買う<取り引き>をしなければそこから出る事は出来ない。もう一つの話は、私とカズキが迷い込んだ古の<風の古道>。どこまでも続く古道からは何も持ち出す事はできない。コモリに殺されたカズキを生き返らせるため、古道で出会った青年のレンとの旅を続ける。どちらの話も、淡々とした文体ながらとても幻想的で魅惑的。そして、先の読めない意外性のある展開に魅了されました。
読了日:11月28日 著者:恒川光太郎
残穢 (新潮文庫)残穢 (新潮文庫)感想
著者である小野さん自身と思われる<私>が語り手となり、都内の賃貸マンションに住むライターの久保さんから届いた手紙に書かれた不思議な物音のする部屋の謎を探る過程をドキュメンタリー風に描く。これは正に鬼談百景と対を成す物語であり、伝聞の集約であった鬼談に対し、こちらでは自らが追求していく。それにしても、ショッキングな怖さでは無いものの、日本古来の穢れの意識や土着の風土など、逆に言うと逃れようのない恐怖がいつまでも付き纏う感覚が抜けない。流れで手に取ったものの、その行為が既に残穢による伝染なのかもしれない。
読了日:11月23日 著者:小野不由美
秋の牢獄秋の牢獄感想
最近良くタイトルを目にすると思ったらそういう事だったのか。女子大生の藍が閉じ込められた11月7日という終わらない1日を描いた表題作の<秋の牢獄>。神様として、忘れられた奇跡の家に囚われた男を描く<神家没落>。幻術を操る力を有した少女の幽閉された夜の中で成長し続ける怪物という名の絶望と歓喜を描いた<幻は夜に成長する>。独特の怪しげでホラーチックな雰囲気で、とても面白かった。エンドレスエイトでの長門の苦悩を思い出しながら読みましたが、こちらは11月8日という明日への明るい希望が感じられて良かった。
読了日:11月21日 著者:恒川光太郎
鬼談百景 (幽BOOKS)鬼談百景 (幽BOOKS)感想
誰もが小さい頃などに何処かしらで怖いもの見たさ半分に聞いたことがあるような怪談話を集めたいわゆる百物語的な短編集。短いもので半ページから長くても5ページ程度。何れも伝聞形式を主としており、大抵が「〇〇だった、という。」と締めくくられているため、その後を知りたいような、知るのが怖いような気分にさせられる。場所や時代を特定しないものが殆どだが、六甲山、白樺湖、嵐山は具体的な地名が出てきたように思う。百景としながら、99話で止めているのが、余計にゾクッとします。この後の1話は…。
読了日:11月21日 著者:小野不由美
永遠をさがしに永遠をさがしに感想
逃げた小鳥の名は、母と自分の名前から一文字ずつ取って付けたトワ。父は世界的な指揮者の梶ヶ谷奏一郎、幼い頃から母の時依にチェロを教えられて育った和音。和音がチェロを止めたのは10歳の時。母が突然チェロを置いて家を出て行ったのはその1年後。高校生になった和音の前に突然新たな母として現れた真弓さん。閉ざしていた和音の頑なな心が真弓の着飾らない物言いや態度に徐々に解きほぐされていく。決して幸福ばかりでは無い話ではあるけれども、爽やかに心に響くチェロの音色が届いてくる。和音の永遠のときを求める旅は続く。
読了日:11月15日 著者:原田マハ
愚物語 (講談社BOX)愚物語 (講談社BOX)感想
<物語>シリーズ、オフシーズンにして第19弾となる本作では、老倉育、神原駿河阿良々木月火の愚かなる3人の女子を主役にしたエピローグ的物語。直江津高校から新しい学校に転校した老倉の悉く執拗なまでの失敗の末の阿良々木派、相変わらず部屋が片付かない神原の誰かのために戦う愚か者となって阿良々木暦を超えようとする決意、斧乃木余接ちゃんの懲りない失敗とサービス登場の真宵姉さんに全部話を持っていかれた不死身の月火ちゃん。多分これからも失敗し続けるだろうけれども-大丈夫。でも、やっぱりくどくない?とか言うのは愚問です。
読了日:11月15日 著者:西尾維新,VOFAN
島はぼくらと島はぼくらと感想
とてもいい話でした。瀬戸内の小さな島の冴島が舞台。島には高校が無く、島外の高校に通う朱里、衣花、新、源樹の四人の高校生が主役。そして、もう一つの主題は町おこし。冴島村の大矢村長やコミュニティデザイナーのヨシノ、朱里の母の明実たち島の女性たちで作った会社「さえじま」。さらに、村長の政策によって島にはシングルマザーの蕗子さん未菜親子や、本木たちIターンの若者たちも登場する。人と人の心の繋がりの深さと、島に伝わる「見上げてごらん」の劇の脚本に込められた意味を知った時に、溢れ出る涙を抑えることができませんでした。
読了日:11月14日 著者:辻村深月
王とサーカス王とサーカス感想
さよなら妖精」から10年。友人を救えなかった悔いを胸に秘める太刀洗万智は、新聞社を辞め、訪れたネパールの首都カトマンズで、王宮で起きた王族殺害事件に出くわす。2001年に実際に起きた社会的事件を背景としながら、その裏で起きた軍の准尉の殺人事件を巡り、ジャーナリストとしての万智自身の自問自答の末に辿り着いた真相と境地とは。目に浮かぶほどの精緻なカトマンズの風景や世俗の描写、ジャーナリズムのあり方への問いを含め、非常に骨太な社会派ミステリ。タイトルにも深い意味が込められており、読み応え十分な傑作。
読了日:11月11日 著者:米澤穂信
魔女は甦る魔女は甦る感想
骨と肉片にまでバラバラにされた惨殺死体として発見された外資系の製薬会社に勤める桐生隆。捜査を担当するのは埼玉県警の槙畑と警察庁の麻薬捜査官の宮條。事件の真相を追う槙畑の前に明らかになっていく製薬会社の陰謀と麻薬ヒートの存在、そして宮條の失踪。桐生の彼女の毬村美里とともに乗り込んだ製薬会社跡に踏み込んだ槙畑の前に現れた真犯人とは。スリリングな展開ではありますが、ヒッチコックの某有名映画やバイオハザード的な何かなど、見たことがある要素が組み合わさっている感が否めず、何よりスッキリしないラストにモヤモヤが残る。
読了日:11月11日 著者:中山七里
本日は、お日柄もよく本日は、お日柄もよく感想
何年か前に友人の結婚披露宴で、何故かトップバッターの主賓挨拶を頼まれ、直前の落ち着かなかった日々や御多分に洩れず真っ白になってしまった本番当日を思い返し、その前にこの物語に出会っていれば、もう少し気の利いた挨拶が出来たかもしれないと思いながら読んだ。結婚式に纏わるちょっといいお話をまとめた物語かと思いきや、政治家を志す幼馴染の厚史くんとそれを支えること葉を中心に、伝説のスピーチライターの久美さんや政権交代を狙う民衆党の小山田党首、厚史の亡き父今川代議士など、それぞれの名スピーチが涙を誘う。
読了日:11月8日 著者:原田マハ
ホテルローヤル (集英社文庫)ホテルローヤル (集英社文庫)感想
北海道の釧路湿原を見下ろす高台にあるラブホテル”ホテルローヤル”を舞台にした7編の短編集。しかも、物語は既に廃墟となったホテルから始まる。そして、それぞれの登場人物を絡ませながら、時系列を少しずつ遡るようにして物語は進んでいく。ホテルの経営者、女将、その娘、ホテル出入りのアダルトグッズ屋の男、廃業のきっかけとなった心中事件を起こした教師と女子高生など、男と女が欲望の赴くままに心や体を重ね合う場所だからこそ、そこに描かれる感情や姿はとても生々しく、目を背けることが出来ない切なさが痛くもあり、暖かくもある。
読了日:11月6日 著者:桜木紫乃
炎路を行く者 —守り人作品集— (偕成社ワンダーランド)炎路を行く者 —守り人作品集— (偕成社ワンダーランド)感想
文庫化を待ちきれず。表題の「炎路の旅人」は蒼路の旅人でラウル王子のターク<鷹>としてチャグムを攫うタルシュ帝国の密偵ヒュウゴが、いかにして自らの故国であるヨゴ皇国を滅ぼした国の配下となって生きることになったのかを描いた物語。ただでさえ、各登場人物が重層的に描かれる守り人シリーズですが、ここに滅ぼされたヨゴ皇国の<帝の盾>となるべく育てられた筈のヒュウゴの視点が加わることで、さらに厚みが増す。そして、「十五の我には」では、まだ少女の頃のバルサの護衛士としての厳しい生活の中での、ジグロの温かい姿が印象的。
読了日:11月4日 著者:上橋菜穂子
アイドル新党アイドル新党感想
旬を過ぎたグラビアアイドルが、歯に絹着せぬ物言いで既得権益に立ち向かい、元ヤンの過去を逆手に取って、ヤンママ達をはじめとするサイレントマジョリティの代弁者として、選挙に出馬する。単なるサクセスストーリーでもなく、面白おかしい馬鹿話と切って捨てるほど非現実的でもなく、現実でもマキ党首が閉塞感を打ち破ってくれそうな勢いと期待を感じてしまう。ただ、市議選と国政選挙の繋ぎなどの話の展開の荒さやラストの尻すぼみ感は否めず、もう少しじっくりと市議編、国政編として選挙だけではない地に足着いた活躍を描いて欲しかったかな。
読了日:11月1日 著者:原宏一

読書メーター

2015年10月の読書メーター

2015年10月の読書メーター
読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2380ページ
ナイス数:479ナイス

まぐだら屋のマリアまぐだら屋のマリア感想
老舗料亭の見習い料理人であった及川紫紋が、自らが働く料亭で起きた料理の使い回しや食品の産地偽装、そしてその告発の責任を取って自ら命を絶った後輩の悠太を救えなかったという拭いきれない罪の意識を抱えて辿り着いたのが尽果という名のバス停の傍にある「まぐだら屋」。そこで何も言わず紫紋を受け入れてくれた女主人のマリアもまた過去に取り返しのつかない罪を抱えている。決して赦されることは無いと知りながら、誰かに受け入れてもらえること、認めてもらえることで今日という日を生きていくことができる。そんな暖かさに溢れていました。
読了日:10月28日 著者:原田マハ
ヒートヒート感想
浦とともに学連選抜での箱根を走った後、名実ともに日本を代表するマラソンランナーになったが、相変わらず唯我独尊、自分の記録以外に興味が無い山城。日本人に世界記録を出させるために「東海道マラソン」の実施を画策する神奈川県知事の松尾とその実行を指示された県教育局スポーツ課の音無はいずれも過去の箱根ランナー。選手としての葛藤を抱えながらペースメーカーの役割を超えようとする甲本と、仕組まれたレースに反発しながらも甲本と競い合ううちに熱くなる山城の緊迫したレース展開。なんだかんだで浦には優しい山城が可笑しい。
読了日:10月24日 著者:堂場瞬一
時の罠 (文春文庫)時の罠 (文春文庫)感想
<時>をテーマにした、今を時めく辻村深月さん、万城目学さん、湊かなえさん、米沢穂信さんという4人の人気作家による4つの物語。偶然なのか、最初の辻村さんとラストの湊さんはいずれもタイムカプセルを題材にしたお話。それぞれ完結しているので、時間がないときでもサラッと読めて、それでいて内容は作家の個性も出ていて、深く味わいのある短編集に仕上がっています。
読了日:10月24日 著者:辻村深月,湊かなえ,米澤穂信,万城目学
サファイアサファイア感想
宝石をキーにした短編集。もちろん湊かなえさんらしく、只ならぬ後味を残す作品ばかり。そして、そんな中にもキラリと光る宝石のような希望が見いだせるラストの仕掛けが見どころ。しかし、真珠やムーンストーンなど、読者を引っ掛けようという技巧に走りすぎなことや、これでもかと暴き出される人の裏側の感情に食傷気味なこと、そして何より、表題作であるサファイアなどの一部を除けば各話に宝石が絡む必然性があまり感じられないことで、ちょっと短編集としての統一感を欠いた気がしますので、珍しく?辛目の感想になってしまいました。
読了日:10月20日 著者:湊かなえ
チームチーム感想
箱根駅伝において、唯一、自らの学校ではない襷を繋ぐ異端の存在である学連選抜を描く。奇しくも、来年正月の本戦に向けた予選会の開催日にこの本を読むというのも何かの因果かもしれない。キャプテンを任された浦のリベンジと苦悩、孤高の存在の山城、門脇の懸命な山登り、一年生の朝倉、各区でのスリリングで目を離せない展開に、まるで一緒のチームで駅伝に参加しているかのよう。寄せ集めチームである学連選抜には、様々な意見や選手達の葛藤もあるだろうが、胸の学校名や他の選手達の想いを背負って走る姿は紛れもなく読むものを熱くする。
読了日:10月18日 著者:堂場瞬一
カフーを待ちわびてカフーを待ちわびて感想
舞台である沖縄の離島、与那喜島の中休み(ナカユクイ)のように、ゆっくりと流れる空気とそこに住む人たちの柔らかな雰囲気が、原田さんの文章によってとてもよく表れていて素敵です。島の言葉で、カフー「果報」には、「いい報せ」と「幸せ」のふたつの意味がある。ウシラシ(お知らせ)を告げるまさに神人のようなおばあも神秘的。右手に障害を持つ明青が北陸の神社に残した「嫁に来ないか。幸せにします」という絵馬を頼りに明青の元に「カフー」のように会いにきた幸。誰かを待ちわびること、待ってくれている人がいる喜びをかみしめる1冊。
読了日:10月18日 著者:原田マハ
武道館武道館感想
それを見る人たちに輝きを見せ続けることが義務付けられたアイドルたち。この作品で朝井リョウがモチーフにしたのは「武道館ライブ」を目標とする女性アイドルグループの「NEXT YOU」。自らもハロオタらしい朝井さんらしく、恋愛禁止や某グループでの丸坊主騒動、ネット炎上、握手券付きのCD特典商法、握手会での傷害事件など、現代のアイドル事情がリアルに(っていうかそのまま)盛り込まれている。人気と反比例して、望み通りにはいかなくなっていくままならなさの中、描きたかった未来図は朝井さん自身の思い描く願望なのだろうか。
読了日:10月12日 著者:朝井リョウ
博多豚骨ラーメンズ (4) (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (4) (メディアワークス文庫)感想
殺し屋の街である博多を舞台にしたシリーズ第4弾(こう書くと博多という街に絶対誤解を生む)。前作は林ちゃんでしたが、今作の主役は表紙のとおり、凄腕ハッカーのマッシュルーム榎田くん。相変わらず、殺しや凄惨な場面はあるものの、ハッキングやネットワークを使った知略がメインの戦いがメイン。榎田の父親との過去の確執が明らかになるとともに、使用人兼殺し屋の八木の忠誠心あふれる活躍も見どころ。今回もラーメンズの仲間たちの阿吽の呼吸の連係プレーがお見事ですが、次は魅力あふれるメンバーの誰がメインを張るのか楽しみです。
読了日:10月12日 著者:木崎ちあき

読書メーター

2015年9月の読書メーター

2015年9月の読書メーター
読んだ本の数:7冊
読んだページ数:2017ページ
ナイス数:601ナイス

書店ガール 4 (PHP文芸文庫)書店ガール 4 (PHP文芸文庫)感想
東日本エリアマネージャーとなった理子や本店のMDとなった亜紀から、新しい世代の書店ガールに主役を移したシリーズ第4作。良くも悪くも理子と亜紀無しでは成り立たないのでは?という心配は全くの杞憂でした。契約社員から正社員登用と共に店長就任の打診を受けた彩加と就活を控えて自分の進む道を見いだせずにいるアルバイトの愛奈。二人の等身大の迷いや悩みにもがきながらも前に進もうとする姿にこのシリーズに一貫して流れる仕事への取り組み姿勢や本への愛を感じます。また出番は少ないけど、時折、登場する理子や亜紀の頼もしいこと。
読了日:9月27日 著者:碧野圭
神去なあなあ夜話神去なあなあ夜話感想
横浜で生まれ育った平野勇気が神去村に来てから早や一年。勇気が慣れない林業に奮闘する姿や48年に一度の大祭を描いた前作に比べ、夜話というタイトル通り、神去村の古の神々の起源や大人の夜の恋愛事情、信心深いお稲荷さんの言い伝え、さらには清一さんやヨキの親たちに起きた悲惨な出来事など、まさに深淵な夜のお話。そして、勇気と直紀さんの恋の行方も気になるところ。林業の全盛期も衰退期も知る三郎じいさんが、今の雰囲気が一番好きと語り、希望を感じている姿が嬉しい。それにしても、勇気の一人語り口調はちょっと寒すぎるのでは?!
読了日:9月23日 著者:三浦しをん
ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)感想
下町のフレンチレストラン、パ・マルは、三舟シェフ、料理人の志村さん、ソムリエの金子さん、そしてギャルソンの高築くんの4人で営む小さなビストロ。思わず猫に餌をやって志村さんに怒られたり、マドモアゼル・ブイヤベースとの仄かな恋心など三舟シェフの意外な一面が垣間見れる。お気に入りはブーランジェリーのメロンパン。洒落た店もいいけど、やっぱり変わらず愛され続けるパンの魅力がある。そして、物語の終盤は、語り手を高築くんから移して、三舟シェフの側面や過去を掘り下げ、さらにはあのヴァン・ショーの原点の話が登場する。
読了日:9月17日 著者:近藤史恵
タルト・タタンの夢 (創元推理文庫)タルト・タタンの夢 (創元推理文庫)感想
下町の商店街にあるフレンチレストランのビストロ・パ・マル。長髪を武士のように束ねた無口な三舟シェフに料理人の志村さん、若いソムリエの金子さんに語り手であるギャルソンの高築の4人だけの小さな店に訪れるお客にまつわる謎や不可解な出来事を無口なはずの三舟シェフが解き明かす7篇の短編集。各話のタイトルも秀逸ながら、登場する料理の美味しそうなこと!敷居が高いと思い込んでいるフレンチですが、こんな風に気軽に立ち寄れる店があるといいですね。ラストの「割り切れないチョコレート」の理由がとても優しくて素敵でした。
読了日:9月12日 著者:近藤史恵
何者 (新潮文庫)何者 (新潮文庫)感想
直木賞受賞作。これは凄い。そして怖い。他人から見えているよそ行きの自分と裏側に隠した本音の自分。それに加えてSNSでの着飾った自分。何層もの自分のどれもが自分自身の姿。いい格好をしてみたり、安全圏から傍観者を気取って批評してみたり、他人の失敗を見て安心してみたり。そんな自分を嫌悪しながらも、呪縛から逃れられないのもまた自分。就活やツイッターなどを題材としているがために今時の若者の話と受け取られてしまいがちかもしれないが、読後の居心地の悪さや気まずさこそ、本作が人の心の本質を射抜いている証に違いない。
読了日:9月12日 著者:朝井リョウ
母性 (新潮文庫)母性 (新潮文庫)感想
母、娘、おばあちゃん、義母、祖母、ママ、お母さん。女性に存在する、ある側から相対的に見た名前ではない様々な呼び名。この物語には、そうした名前のない人々が沢山登場する。もちろん、そこは作者の仕掛けどころ。ある日、自殺を図ったとみられる女子高生が自宅の中庭で発見された所から話は始まる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘」と語る母。基本的には母の懺悔の手記と娘の回想によって進められる。さらに「母性について」という第三の視点を交錯させることによって、不安定な状態が作り出されて読み手を撹乱する。
読了日:9月10日 著者:湊かなえ
水の柩水の柩感想
小学校の卒業記念として二十年後の自分に宛てて書いた手紙を入れて校庭に埋めたタイムカプセル。同級生の女子達からいじめを受けている敦子にその手紙の入替を手伝って欲しいと頼まれた中学二年生の逸夫。旅館を営む逸夫の家に暮らす祖母の生まれ故郷であるダムに沈んだ村。誰もが心の奥底に抱える感情や思いを隠すかのように、蓑虫の如く色とりどりの蓑を纏っている。敦子やいくが忘れたかったもの、逸夫が未来に向けて乗り越えなければならなかったもの、それらを水の柩が引き受けることができたのなら、明るい希望と救いを見い出せるに違いない。
読了日:9月6日 著者:道尾秀介

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