2015年5月の読書メーター

2015年5月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3879ページ
ナイス数:596ナイス

温室デイズ (角川文庫)温室デイズ (角川文庫)感想
中学三年生のみちると優子が通う宮前中学校は、ごくごく普通の当たり前のような学校。だから、大小差はあれども、教師に暴力を振るったり、授業をサボる子が居たり、ワルの瞬の告白を断った優子が嫌がらせを受けたり、それをなんとかしようと正義感を出したみちるがいじめの標的になるのもこの世界では当たり前の出来事なのかもしれない。確かに義務教育とはタイトルの通り温室なのかもしれないが、そこで苦しむ子供たちを救うことは大人たちには出来ないのだろうか。結局、変えようが無くても最後まで何とかしようとするみちるの強さに胸が痛む。
読了日:5月31日 著者:瀬尾まいこ
花と流れ星花と流れ星感想
道尾作品は結構読んできたつもりでしたが、ここにきてまさかの真備シリーズを飛ばして本作を読むという失態。しかしながら、本作に上梓されている5つの短編は、真備シリーズが初めての読者にも、人物造形や過去の背景に関する設定がある程度わかるように親切に書かれているため、それほどしくじった感は感じずに済みました。いずれもラストにトリックが隠されている物語で、心の闇や哀しみに寄り添うような話ばかりでした。なかでも、病気を抱えた少年が家の中で起きた殺人に気づくことが出来なかった謎を取り上げた「流れ星のつくり方」が切ない。
読了日:5月25日 著者:道尾秀介
パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)感想
喫茶店を経営する兄の惣司稔と、弟で警察を辞めた(正確には休職扱い)元警部でパティシエの智、県警本部秘書室勤務で本部長から智を連れ戻すよう特命を受けている直井楓巡査。この直ちゃんが惣司兄弟の元へ警察が手を焼いている事件の謎解きを持ち込んでくる形で話は進む。人の良い稔と強引でアクの強いキャラの直ちゃんを中心に智が安楽椅子探偵の如く推理の冴えを見せる。しかし、流石に直ちゃんの超法規的行動が現実味なさ過ぎることや兄弟揃って店を空けることが出来ないため行動範囲が狭くなるなど、自らの設定で首を絞めている感が否めない。
読了日:5月24日 著者:似鳥鶏
一分間だけ (宝島社文庫)一分間だけ (宝島社文庫)感想
自分はペットを飼う派ではないのですが、ひたすら健気に飼い主を信じ続けるリラの姿にやられました。飼い主の藍は、編集者としての仕事に情熱を燃やすとともに、片道一時間以上を掛けてでもリラを飼うために郊外に住み、どちらも全力で真剣。時にはリラの存在を疎ましく思ってしまうのが、読者には身勝手に感じてしまうのだけれども、これが偽りのない等身大の姿なのだろう。そんな藍を包み込むような浩介はただただ優しい。鬼編集長の北條さんと喫茶店で語り合うシーンは涙なしには読めません。
読了日:5月21日 著者:原田マハ
ノエル: a story of storiesノエル: a story of stories感想
「光の箱」と「暗がりの子供」は、いずれもstorysellerとannexで既読でしたが、やはりこうして繋がりのある物語として読むと本来のストーリーの連続性のある仕掛けが感じられるように思います。最後の「物語の夕暮れ」は初読みでしたが、先の2作と同様、最後まで不安を煽られ続けられました。「物語を作ることで強くなれる。自分で作る物語は、必ず自分の望む方向へ進むのだから」という与沢先生の言葉が強く優しく胸に残ります。きっと誰もが、誰かの人生に大きな影響を与えていると信じさせてくれるような優しさに溢れています。
読了日:5月17日 著者:道尾秀介
1000の小説とバックベアード (新潮文庫)1000の小説とバックベアード (新潮文庫)感想
27歳の誕生日に片説家をクビになった主人公の木原。小説家の絶望的で深淵に臨むが如し苦悶ここに極まれりといったところか、あくまで読む側の読者であり、書く側ではない我々にはその産みの苦しみの深さは決して知る由も無い。小説に絶望した先に待つのは顔のないバックベアードが守る地下の図書館。小説を信じることはできるか。自分を信じぬくことはできるか。『日本文学』の前にたどり着いた木原と配川姉妹の前に待つ言葉とは。小説を書くような心で書いたら、それはもう小説なのだ。たとえこの世にいなくなろうとも、言葉は残る。
読了日:5月17日 著者:佐藤友哉
朧月市役所妖怪課  河童コロッケ (角川文庫)朧月市役所妖怪課 河童コロッケ (角川文庫)感想
自治体アシスタントとしてG県朧月市役所に派遣された宵原秀也が配属されたのは、何と妖怪課。朧月市は、かつて日本中にいた妖怪達を封じ込める目的で結界の中に設置された自治体であり、妖怪課は妖怪たちへ対処(退治ではない)するための部署。公務員的お仕事ストーリーと奇想天外な設定で、設定もちょいちょい真実味がありそうなところが面白い。課の仲間達や市のトップである黒乃森市長の不思議な能力や、秀也に取り付く長屋歪をはじめ、登場する妖怪達の何処か愛らしい姿も見所。ラストで秀也の素性が明かされ、次巻への興味が唆られる。
読了日:5月15日 著者:青柳碧人
神様の御用人 (3) (メディアワークス文庫)神様の御用人 (3) (メディアワークス文庫)感想
御用人シリーズ第3弾。今回も四柱の神から御用を聞くことになるフリーターの御用人の良彦。もちろん相棒はモフモフの方位神の黄金に、前巻から天眼を持つ穂乃香が加わった。3巻目を迎え、御用人としての用事を全うする中で変わり始めた良彦の姿、特に一人角力で見せた御用人としての強さは、強く印象に残りました。また、そんな良彦を見つめる黄金の視線に徐々に信頼が宿ってきていることも大きな変化です。童子の柄杓と橘の約束も、神代からの長い絆を感じさせるお話でとても良かった。そして、毎度ながら表紙のイラストが最高です。
読了日:5月10日 著者:浅葉なつ
水車館の殺人 (講談社文庫)水車館の殺人 (講談社文庫)感想
館シリーズ第2弾。大きな三連の水車が特徴の古城のような<水車館>で、1年前と同じように嵐と雨、稲妻と濁流で閉ざされた館で巻き起こる殺人事件と謎の数々。館には事故により車椅子生活を余儀なくされた仮面の主人とその若妻である薄幸の美少女が暮らす。年に一度開帳される絵画を拝謁しにやってくる登場人物たちに、歓迎されない訪問者である島田潔が探偵役として加わり、役者と舞台はこれ以上ない程揃った感じ。物語は1年前と現在を行ったり来たりしながら、徐々に事件の真相と隠された絵画と館の謎が明らかにされていく。
読了日:5月9日 著者:綾辻行人
笑うハーレキン笑うハーレキン感想
誰しもが、自分や大切な誰かを守るため、懸命に今を精一杯生きている。そのために、時には素顔を隠す仮面を必要とし、辛いときほど明るく振舞おうとするのかもしれない。我が子を事故で亡くし、妻に出て行かれ、会社も潰して全てを失い、ホームレス仲間のチュウさんやトキコさん、モクさんやシジタキさんと共に、その日暮らしをしている東口の元に突然現れたナナエ。自らに取り憑いた疫病神との自問自答のような会話やジジタキさんの死、謎の老人からの家具の修理依頼と決死の脱出劇など、カラスの親指を思わせるスリリングな展開は映像向きかも。
読了日:5月6日 著者:道尾秀介
図書館の神様 (ちくま文庫)図書館の神様 (ちくま文庫)感想
タイトルからほんわかした内容を想像していたら、案外ネガティヴσ(^_^;)名前の通り清く正しく真っ直ぐにバレーに打ち込んで生きてきた主人公の清は、ある敗戦から同級生を自殺させてしまう。地元を離れ、高校の国語講師となった清が、赴任した高校で渋々ながら文芸部の顧問となって唯一の文芸部員の垣内くんと出会い、浅見さんとの不倫、山本さんへの供養、バレーでの挫折などから、徐々に再生していく物語。達観しているようでどこかとぼけた垣内くんと清のやり取りが可笑しく、ラストの垣内くんの演説が秀逸。また、弟の拓実の存在も救い。
読了日:5月6日 著者:瀬尾まいこ
僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)感想
子どもが学校に一人しかいない田舎に暮らす舞が、ある日飛ばした手紙付きの赤い風船。受け取ったのは、高層マンションに住み、人並み外れた視力を持つ健一、スナックを経営する母と二人で暮らし、人の匂いで嗅ぎわけることができる麻里安、離婚した父と兄と暮らし、遠くの音まで聞くことができる隼人、という不思議な力を備えた三人。夏休みに舞に会いに行くため作戦を練る三人の前に立ちはだかる様々な障害を乗り越えていく子どもたちの少しファンタジックな冒険物語。ユウジやカンザキ、真屋さんたち大人の手助けも心強い。爽やかな読後感です。
読了日:5月6日 著者:小路幸也
アルジャーノンに花束をアルジャーノンに花束を感想
20年ぶりぐらいの再読になります。サイエンスフィクションに分類される本作は、手術により天才的な知能を手に入れるチャーリー・ゴードンとネズミのアルジャーノンの姿をチャーリーの記録する経過報告という一人称スタイルで描く。余りにも有名なラストの2行もさることながら、驚異的なスピードで知能を手に入れていく様子を描写した訳文が素晴らしすぎます。そして、それ以上の早さで失っていく恐怖から学んだことに必死にしがみつこうとするチャーリーの「おねがいです、神様、なにもかもお取りあげにならないでください。」が只々切ない。
読了日:5月2日 著者:ダニエルキイス

読書メーター