2015年6月の読書メーター

2015年6月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:5034ページ
ナイス数:613ナイス

キネマの神様キネマの神様感想
出だしの1ページ目、エンドロールが流れる様子を映画を旅に例えて表した描写、そしてその余韻を感じさせる劇場の明かりの灯り方、座席や通路の角度や高さへの言及の時点で、映画館派としては、まるでお気に入りの映画館にいるかのような雰囲気に引き込まれました。老舗の映画雑誌が立ち上げた「キネマの神様」というブログを介したゴウとローズ・バッドの邂逅により、映画という世界共通言語を通した国境を越えた丁々発止のやり取りが始まる。何時しか二人の間に生まれた戦友の様な友情。最後まで映画への熱い想いと優しさに満ち溢れた作品でした。
読了日:6月28日 著者:原田マハ
切り裂きジャックの告白切り裂きジャックの告白感想
切り裂きジャックを彷彿させるような連続殺人事件が発生し、捜査に乗り出した警視庁の犬養と、コンビを組むことになった埼玉県警の古手川。臓器を全て摘出する猟奇的殺人事件という仕掛けもさることながら、犬養、古手川という人間臭い刑事コンビの心理描写や犯人の心理に迫っていく”刑事の勘”の応酬がいいですね。特に若い古手川が活躍するらしい「連続殺人鬼カエル男」を読んでいないのが悔やまれます。解剖や臓器移植を巡る精緻で風刺的な視点と細やかな描写が光るものの、その分やや動機面や真犯人に至る過程が弱く感じてしまったかな。
読了日:6月28日 著者:中山七里
骸の爪骸の爪感想
真備庄介と助手の北見凛が活躍する真備ホラーシリーズの第二作。とある事象から滋賀県の仏像工房である瑞祥房を訪ねることになったホラー作家の道尾が遭遇した笑う千手観音と頭から血を流す仏像、そして不気味な謎の声。20年前に起きた仏師の韮澤と茉莉の謎の失踪事件と関係するかのように、再び瑞祥房で仏師の行方不明事件が発生する。ホラーとオカルトをあくまで素材として使った純ミステリーとして、読者を騙すトリックと張り巡らされた伏線の数々。ただ、今回は凛ちゃんの登場と活躍シーンがやや少なかった気がします。
読了日:6月21日 著者:道尾秀介
世界地図の下書き世界地図の下書き感想
児童養護施設「青葉おひさまの家」に暮らす、事故で両親を亡くした太輔、病気の弟がいるお姉さんの佐緒里さん、虐待する母親と離れて暮らす美保子、そして太輔と同い年の淳也と2つ下の麻利の兄弟。大切なものとの別れ、決意、子どもたちの痛々しいまでの純粋な気持ちが本当に切なく描かれている。佐緒里のために「アリサ作戦」と名付け、4人が復活を目論んだ「願いとばし」のランタンが飛ぶ様子が目に浮かぶようで、何度でも何処へ行ってもやり直しはできる、決して希望は減らない、という佐緒里の台詞に込められたメッセージに胸が熱くなる。
読了日:6月20日 著者:朝井リョウ
PSYCHO-PASS サイコパス (0) 名前のない怪物 (角川文庫)PSYCHO-PASS サイコパス (0) 名前のない怪物 (角川文庫)感想
人間の心理・性格的傾向を数値で図ることができるシビュラシステムが支配する未来社会を舞台にしたアニメPSYCHO-PASSのさらに3年前、後に《標本事件》と呼ばれ、狡噛慎也が執行官になるキッカケとなった事件を描く。狡噛の相棒の佐々山や征陸のおやっさんの刑事臭さが際立つ反面、まだ監視官に成り立ての狡噛(宜野座も同じく)の、後の世界観と不整合起こしてるのでは?と思うぐらいの青二才の無垢さ加減が目に余るのはご愛嬌。とはいえ、執行官の面々と麻雀卓を囲むシーンは良かった。後の世界に繋がる前日譚として楽しめました。
読了日:6月20日 著者:高羽彩
星やどりの声星やどりの声感想
星空が見える天窓があって、ビーフシチューが美味しい喫茶店「星やどり」。数年前に亡くなった父星則がリフォームしたその店を切り盛りする母の律子と、琴美、光彦、小春、るり、凌馬、真步の三男三女。家族それぞれに焦点を当てながら悩みや衝突を通じて描かれた家族の絆が一つになったとき、父が繋ぎたかった家族の輪が明らかになる。それは、とても切ないけれど、力強く決して切れることのない家族の姿。そして、その想いは未来の希望へと繋がっていく。とても優しくて暖かい感動の物語でした。個人的には真步のエピソードが一番好きですね。
読了日:6月14日 著者:朝井リョウ
旅猫リポート旅猫リポート感想
読み始めてすぐにこれはヤバイ本だとわかった。猫のナナと飼い主のサトルが、”とある”事情からナナの引き取り手を探す旅に出る。行く先は、小学校の頃に両親を事故でなくしたサトルの小・中・高校時代の同級生のコースケ、ヨシミネ、スギとチカコ、そしてサトルを引き取ってくれた叔母のノリコ。ナナとサトルが出会うきっかけにもなった銀色のワゴンに乗って二人の旅は日本中を駆け巡る。色んな人や風景に出合い、決して忘れることのできない二人だけの思い出を刻むように。誇り高き猫が綴る最後のリポートは、涙無には読むことができない。
読了日:6月14日 著者:有川浩
博多豚骨ラーメンズ (3) (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (3) (メディアワークス文庫)感想
シリーズ第3弾。やっぱりこの作品で一番気になるキャラは、かつて人身売買によって少年殺人兵器として工場で訓練を受けた過去を持ち、女装が趣味の外見に似合わず凄腕の殺し屋ながら、いつの間にやら馬場ちゃんのところに居候を決め込み、今や博多豚骨ラーメンズの不動の二遊間を固めるリンちゃんこと林憲明です。ということで、1冊丸ごとリンちゃんの忌まわしい記憶から蘇るように現れた緋狼との生死を賭けた因縁の対決を通じ、過去との決別を描いた物語でした。そして、馬場と猿渡の宿命の対決(もちろん投手対打者という意味で)も見どころ。
読了日:6月13日 著者:木崎ちあき
博多豚骨ラーメンズ (2) (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (2) (メディアワークス文庫)感想
やや悪ノリ感に当てられたまま読み終えてしまった第1巻に引き続き続編へ。殺し屋達の巣窟である福岡(勿論嘘です)に現れたのは、殺人請負会社マーダー・インクの元エースの猿渡と、逃亡した斉藤を追うため派遣されたグイン。山笠で盛り上がる街の喧騒の裏側で、にわか侍を執拗に付け狙う華九会の刺客達との攻防、ドジな二人組の殺し屋コンビがあちこちでやらかす様々な出来事が複雑に交錯しつつ、満を持して最後に登場するのは伝説の殺し屋G.G。ちょいちょい野球になぞらえたストーリー展開もツボにハマります。「代打、オレ」に痺れました。
読了日:6月13日 著者:木崎ちあき
博多豚骨ラーメンズ (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (メディアワークス文庫)感想
第20回電撃小説大賞作品。人口の3%が殺し屋という世にも恐ろしい街「福岡」が舞台。殺し屋専門会社のマーダー・インク、闇の組織”華九会”、暴力団などと繋がりのある福岡市長のお抱え殺し屋、明太子をこよなく愛する私立探偵、凄腕ハッカーの情報屋、復讐屋、拷問師、そして殺し屋殺し屋と言われる謎のにわか侍。テンポの良さと登場するキャラの濃さで、勢い良くストーリーが展開されるが、多分この辺りのノリを受け入れることが出来るかが楽しめるかの分かれ目のように思う。これを悪趣味に感じてしまうのは年なんですかねぇ。σ(^_^;)
読了日:6月13日 著者:木崎ちあき
少女は卒業しない (集英社文庫)少女は卒業しない (集英社文庫)感想
取り壊されることが決まっている高校の最後の卒業式の前日から当日にかけての様々なシーンを7人の少女の視点から描く連作短編の青春群像劇。鮮やかに切り取られたそれぞれの「別れ」が、前日から徐々に時間が進行していくことにより、卒業という区切りが迫ってくるタイムリミットを感じることで、読者も同じように、自分が既に経験済みの卒業を追体験(ただし、こんなに甘酸っぱい青春の記憶は無い)するかのような構成が上手い。それぞれの少女たちが様々な形で踏み出した一歩を描きながら、「卒業しない」というタイトルが意味深です。
読了日:6月11日 著者:朝井リョウ
背の眼〈下〉 (幻冬舎文庫)背の眼〈下〉 (幻冬舎文庫)感想
連続児童失踪事件が発生している白峠村と程近い愛染町で発生した新たな自殺事件の第一発見者である小学三年生の亮平が登場。心霊現象を見ることができるという亮平により、話は再びオカルトチックになっていくが、この辺りのバランスが絶妙。事件解決に向けて、ホラーサスペンス風の仮面を被った本格ミステリの如く伏線が回収されていくが、最後のところで霊や霊的現象の存在は決して否定しない。これが真備ホラーシリーズの良いところなのかも。真備の側に亮平が見たものが真実であると思いたい。
読了日:6月7日 著者:道尾秀介
背の眼〈上〉 (幻冬舎文庫)背の眼〈上〉 (幻冬舎文庫)感想
売れないホラー作家の道尾、霊現象探究所を経営している真備と事務員の北見凛。児童失踪事件が続く白峠村で道尾が聞いた不思議な声と、真備の元に送られてきた不思議な写真。写真に写った人物にはいずれも背中に眼のようなものが写っており、しかも数日後に自殺したとのこと。天狗の言い伝えが残る田舎の村で発生した凄惨な事件の謎とは?霊現象を追い求める真備は、果たして本当の霊に辿り着くことはできるのか。何処までが伏線で、何処からが心霊現象なのか、騙されているとわかっていても、これをどう畳むのか楽しみにしながら下巻へ。
読了日:6月7日 著者:道尾秀介
全部抱きしめて (実業之日本社文庫)全部抱きしめて (実業之日本社文庫)感想
元同僚で7歳年下の諒との不倫の果てに仕事も家庭も全て失った43歳の奈津子。前作の「情事の終わり」にその辺りの破滅への過程が描かれているようですが、本作だけでも充分読めます。それから1年が経ち、再び奈津子の前に現れた諒。全てを失うことと全てを奪われたまま取り残されることのどちらが辛いのか。改めて歩み出そうとする2人に、ちょっと都合が良すぎる気がしますが、小金井や武蔵野の綺麗な風景とともに、少しずつ周囲の理解が得られていく再生の過程が穏やかに描かれます。奈津子の娘の理沙と諒が話すシーンが良かったです。
読了日:6月6日 著者:碧野圭
香彩七色 ~香りの秘密に耳を澄まして~ (メディアワークス文庫)香彩七色 ~香りの秘密に耳を澄まして~ (メディアワークス文庫)感想
食いしん坊で犬並みの嗅覚を持つ、主人公の女子大生の結月、香道宗家の御曹司(しかし家出中)の千尋と、従兄弟でイタリア人並みに軽い高校生の隆平を中心に、香りをテーマにした日常系ミステリー。繰り返し登場する「この世界には、目に見えないけど大切なものの方が、ずっと多いんだ」という台詞が印象的です。香りに託された謎や想いを読み解いていく過程における結月の嗅覚がチート過ぎる気がしますが、浅葉さんの優しくてふんわりした文体と作品のイメージが合わさってとても読みやすい。キャラも立っていて、続編が出たら読みたいです。
読了日:6月5日 著者:浅葉なつ

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