2015年11月の読書メーター

2015年11月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:4333ページ
ナイス数:783ナイス

七色の毒 (単行本)七色の毒 (単行本)感想
切り裂きジャック事件でもお馴染み、俳優並みの容姿に男の犯人の嘘は絶対見破る一方で、女性にはからっきしの≪無駄に男前≫の異名を持つ警視庁捜査一課犬養隼人が主人公。赤、黒、白、青、黄、緑、紫の7色になぞらえた、人間心理の奥底に潜む毒のような感情を描いた7つの短編集。どの話も、犯人や動機が判明したかと思わせておいて、そこから一捻りして意外性のあるどんでん返しを狙って書かれているうえ、社会的な問題を風刺的に取り入れているのも中山さんらしい。書き下ろしの紫が、赤から繋がって短編集として上手く纏められている。
読了日:11月29日 著者:中山七里
モダンモダン感想
表紙はピカソの「鏡の中の少女」。「ザ・モダン」と言われ、モダンアートの殿堂のニューヨーク近代美術館「MoMA」。そこで働くキュレーターや展覧会ディレクター、警備員などの人達を通して描かれるMoMAの歴史。ニューヨークでおきた9.11や、3.11でアメリカから見たフクシマが題材として取り上げられている。「新しい出口」では、楽園のカンヴァスのティムも登場する。特に良かったのは、私の好きなマシンに登場する初代館長のアルフレッド・バーの言葉「知らないところで役に立っていて、それでいて美しい-それをアートと呼ぶ」。
読了日:11月28日 著者:原田マハ
夜市夜市感想
裕司といずみが入り込んだ、岬の森の中で開かれた<夜市>。そこは、複数の世界にまたがった不思議な場所で、人では無い様々な生き物があらゆる品物を売っており、何かを買う<取り引き>をしなければそこから出る事は出来ない。もう一つの話は、私とカズキが迷い込んだ古の<風の古道>。どこまでも続く古道からは何も持ち出す事はできない。コモリに殺されたカズキを生き返らせるため、古道で出会った青年のレンとの旅を続ける。どちらの話も、淡々とした文体ながらとても幻想的で魅惑的。そして、先の読めない意外性のある展開に魅了されました。
読了日:11月28日 著者:恒川光太郎
残穢 (新潮文庫)残穢 (新潮文庫)感想
著者である小野さん自身と思われる<私>が語り手となり、都内の賃貸マンションに住むライターの久保さんから届いた手紙に書かれた不思議な物音のする部屋の謎を探る過程をドキュメンタリー風に描く。これは正に鬼談百景と対を成す物語であり、伝聞の集約であった鬼談に対し、こちらでは自らが追求していく。それにしても、ショッキングな怖さでは無いものの、日本古来の穢れの意識や土着の風土など、逆に言うと逃れようのない恐怖がいつまでも付き纏う感覚が抜けない。流れで手に取ったものの、その行為が既に残穢による伝染なのかもしれない。
読了日:11月23日 著者:小野不由美
秋の牢獄秋の牢獄感想
最近良くタイトルを目にすると思ったらそういう事だったのか。女子大生の藍が閉じ込められた11月7日という終わらない1日を描いた表題作の<秋の牢獄>。神様として、忘れられた奇跡の家に囚われた男を描く<神家没落>。幻術を操る力を有した少女の幽閉された夜の中で成長し続ける怪物という名の絶望と歓喜を描いた<幻は夜に成長する>。独特の怪しげでホラーチックな雰囲気で、とても面白かった。エンドレスエイトでの長門の苦悩を思い出しながら読みましたが、こちらは11月8日という明日への明るい希望が感じられて良かった。
読了日:11月21日 著者:恒川光太郎
鬼談百景 (幽BOOKS)鬼談百景 (幽BOOKS)感想
誰もが小さい頃などに何処かしらで怖いもの見たさ半分に聞いたことがあるような怪談話を集めたいわゆる百物語的な短編集。短いもので半ページから長くても5ページ程度。何れも伝聞形式を主としており、大抵が「〇〇だった、という。」と締めくくられているため、その後を知りたいような、知るのが怖いような気分にさせられる。場所や時代を特定しないものが殆どだが、六甲山、白樺湖、嵐山は具体的な地名が出てきたように思う。百景としながら、99話で止めているのが、余計にゾクッとします。この後の1話は…。
読了日:11月21日 著者:小野不由美
永遠をさがしに永遠をさがしに感想
逃げた小鳥の名は、母と自分の名前から一文字ずつ取って付けたトワ。父は世界的な指揮者の梶ヶ谷奏一郎、幼い頃から母の時依にチェロを教えられて育った和音。和音がチェロを止めたのは10歳の時。母が突然チェロを置いて家を出て行ったのはその1年後。高校生になった和音の前に突然新たな母として現れた真弓さん。閉ざしていた和音の頑なな心が真弓の着飾らない物言いや態度に徐々に解きほぐされていく。決して幸福ばかりでは無い話ではあるけれども、爽やかに心に響くチェロの音色が届いてくる。和音の永遠のときを求める旅は続く。
読了日:11月15日 著者:原田マハ
愚物語 (講談社BOX)愚物語 (講談社BOX)感想
<物語>シリーズ、オフシーズンにして第19弾となる本作では、老倉育、神原駿河阿良々木月火の愚かなる3人の女子を主役にしたエピローグ的物語。直江津高校から新しい学校に転校した老倉の悉く執拗なまでの失敗の末の阿良々木派、相変わらず部屋が片付かない神原の誰かのために戦う愚か者となって阿良々木暦を超えようとする決意、斧乃木余接ちゃんの懲りない失敗とサービス登場の真宵姉さんに全部話を持っていかれた不死身の月火ちゃん。多分これからも失敗し続けるだろうけれども-大丈夫。でも、やっぱりくどくない?とか言うのは愚問です。
読了日:11月15日 著者:西尾維新,VOFAN
島はぼくらと島はぼくらと感想
とてもいい話でした。瀬戸内の小さな島の冴島が舞台。島には高校が無く、島外の高校に通う朱里、衣花、新、源樹の四人の高校生が主役。そして、もう一つの主題は町おこし。冴島村の大矢村長やコミュニティデザイナーのヨシノ、朱里の母の明実たち島の女性たちで作った会社「さえじま」。さらに、村長の政策によって島にはシングルマザーの蕗子さん未菜親子や、本木たちIターンの若者たちも登場する。人と人の心の繋がりの深さと、島に伝わる「見上げてごらん」の劇の脚本に込められた意味を知った時に、溢れ出る涙を抑えることができませんでした。
読了日:11月14日 著者:辻村深月
王とサーカス王とサーカス感想
さよなら妖精」から10年。友人を救えなかった悔いを胸に秘める太刀洗万智は、新聞社を辞め、訪れたネパールの首都カトマンズで、王宮で起きた王族殺害事件に出くわす。2001年に実際に起きた社会的事件を背景としながら、その裏で起きた軍の准尉の殺人事件を巡り、ジャーナリストとしての万智自身の自問自答の末に辿り着いた真相と境地とは。目に浮かぶほどの精緻なカトマンズの風景や世俗の描写、ジャーナリズムのあり方への問いを含め、非常に骨太な社会派ミステリ。タイトルにも深い意味が込められており、読み応え十分な傑作。
読了日:11月11日 著者:米澤穂信
魔女は甦る魔女は甦る感想
骨と肉片にまでバラバラにされた惨殺死体として発見された外資系の製薬会社に勤める桐生隆。捜査を担当するのは埼玉県警の槙畑と警察庁の麻薬捜査官の宮條。事件の真相を追う槙畑の前に明らかになっていく製薬会社の陰謀と麻薬ヒートの存在、そして宮條の失踪。桐生の彼女の毬村美里とともに乗り込んだ製薬会社跡に踏み込んだ槙畑の前に現れた真犯人とは。スリリングな展開ではありますが、ヒッチコックの某有名映画やバイオハザード的な何かなど、見たことがある要素が組み合わさっている感が否めず、何よりスッキリしないラストにモヤモヤが残る。
読了日:11月11日 著者:中山七里
本日は、お日柄もよく本日は、お日柄もよく感想
何年か前に友人の結婚披露宴で、何故かトップバッターの主賓挨拶を頼まれ、直前の落ち着かなかった日々や御多分に洩れず真っ白になってしまった本番当日を思い返し、その前にこの物語に出会っていれば、もう少し気の利いた挨拶が出来たかもしれないと思いながら読んだ。結婚式に纏わるちょっといいお話をまとめた物語かと思いきや、政治家を志す幼馴染の厚史くんとそれを支えること葉を中心に、伝説のスピーチライターの久美さんや政権交代を狙う民衆党の小山田党首、厚史の亡き父今川代議士など、それぞれの名スピーチが涙を誘う。
読了日:11月8日 著者:原田マハ
ホテルローヤル (集英社文庫)ホテルローヤル (集英社文庫)感想
北海道の釧路湿原を見下ろす高台にあるラブホテル”ホテルローヤル”を舞台にした7編の短編集。しかも、物語は既に廃墟となったホテルから始まる。そして、それぞれの登場人物を絡ませながら、時系列を少しずつ遡るようにして物語は進んでいく。ホテルの経営者、女将、その娘、ホテル出入りのアダルトグッズ屋の男、廃業のきっかけとなった心中事件を起こした教師と女子高生など、男と女が欲望の赴くままに心や体を重ね合う場所だからこそ、そこに描かれる感情や姿はとても生々しく、目を背けることが出来ない切なさが痛くもあり、暖かくもある。
読了日:11月6日 著者:桜木紫乃
炎路を行く者 —守り人作品集— (偕成社ワンダーランド)炎路を行く者 —守り人作品集— (偕成社ワンダーランド)感想
文庫化を待ちきれず。表題の「炎路の旅人」は蒼路の旅人でラウル王子のターク<鷹>としてチャグムを攫うタルシュ帝国の密偵ヒュウゴが、いかにして自らの故国であるヨゴ皇国を滅ぼした国の配下となって生きることになったのかを描いた物語。ただでさえ、各登場人物が重層的に描かれる守り人シリーズですが、ここに滅ぼされたヨゴ皇国の<帝の盾>となるべく育てられた筈のヒュウゴの視点が加わることで、さらに厚みが増す。そして、「十五の我には」では、まだ少女の頃のバルサの護衛士としての厳しい生活の中での、ジグロの温かい姿が印象的。
読了日:11月4日 著者:上橋菜穂子
アイドル新党アイドル新党感想
旬を過ぎたグラビアアイドルが、歯に絹着せぬ物言いで既得権益に立ち向かい、元ヤンの過去を逆手に取って、ヤンママ達をはじめとするサイレントマジョリティの代弁者として、選挙に出馬する。単なるサクセスストーリーでもなく、面白おかしい馬鹿話と切って捨てるほど非現実的でもなく、現実でもマキ党首が閉塞感を打ち破ってくれそうな勢いと期待を感じてしまう。ただ、市議選と国政選挙の繋ぎなどの話の展開の荒さやラストの尻すぼみ感は否めず、もう少しじっくりと市議編、国政編として選挙だけではない地に足着いた活躍を描いて欲しかったかな。
読了日:11月1日 著者:原宏一

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