2015年8月の読書メーター

2015年8月の読書メーター
読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2522ページ
ナイス数:438ナイス

思い出のとき修理します 3 空からの時報 (集英社文庫)思い出のとき修理します 3 空からの時報 (集英社文庫)感想
思い出のときシリーズ第三弾。男性読者としてはちょっと恥ずかしくなるぐらい順調な秀司と明里の交際に、本作では横から家族ぐるみの付き合いのある骨董屋の娘が登場したり、亡くなったと聞かされていた実の父との関係が影を差したり。まぁ、いい年した二人なんですから、それぐらいあっても当然かも。時計という軸がぶれないのが本シリーズの良いところです。「心は、過去と未来を行き来できる。」とても優しい言葉です。過去を悔やんだり忘れることは難しいけど、立ち戻ることはできる。それにしても、太一は益々不思議な存在になっていく。
読了日:8月30日 著者:谷瑞恵
珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)感想
喫茶店タレーランを少し離れ、美星さんやアオヤマ氏の登場も控えめで、様々な語り手の目線から語られる(あまり言うとネタバレになるので)、タイトルのとおりちょっとブレイクタイムのような少し変化球的な5編+描き下ろしショートを加えた短編集。とはいえ、タレーランの亡き奥さんとの話以外は、無理やりタレーランの世界観に組み込んだ感も否めないうえ、どうしても1巻がネックになってアオヤマ氏と美星さんの関係も微妙なままだし、アオヤマ氏のキャラも迷走しっ放しなので、これならいっそ違うシリーズを始めた方がいいのかもしれない。
読了日:8月29日 著者:岡崎琢磨
火星に住むつもりかい?火星に住むつもりかい?感想
密告によって標的にされたが最期、魔女狩りさながらに平和警察による拷問と処刑が行われる恐怖によって支配される世界。正義の味方として平和警察に立ち向かう謎の黒ツナギの男の正体とは?正義感と偽善の狭間で揺れ動く心理と、世の中に溢れるあらゆる不条理。どうにもならないことを嘆いてみても変わらない世の中に対して、皮肉めいた揶揄で風刺的に一矢報いようとするのは、如何にも伊坂節らしいと言えばらしいかもしれないが、それにしては余りにも回りくどすぎやしないかい?「人間が人間らしく振る舞えるのは、群れていない時だけだ。」
読了日:8月28日 著者:伊坂幸太郎
有頂天家族 二代目の帰朝有頂天家族 二代目の帰朝感想
相変わらず面白い!如意ヶ嶽を追われ、今や出町商店街裏に半ば引退同然に暮らす赤玉先生こと、如意ヶ嶽薬師坊の息子であり、二代目薬師坊が京都に100年ぶりに帰ってくる。今も昔も変わらぬ天狗と狸の関係のなか、縦横無尽の活躍?を見せるのは、すべては阿呆の血のしからしむるところにしたがう下鴨総一郎の三男、矢三郎。長兄、矢一郎と南禅寺玉瀾の不器用な恋の行方、姿をくらました夷川早雲の企み、謎の幻術師天満屋、二代目と弁天の対決、元許嫁の海星との関係、新たな偽右衛門の襲名など見どころ満載。第三部が待ち遠しい。
読了日:8月23日 著者:森見登美彦
Fate/strange Fake (2) (電撃文庫)Fate/strange Fake (2) (電撃文庫)感想
スノーフィールドを舞台にした偽の聖杯戦争の第2巻。冬木から来た謎の少女アヤカ・サジョウ。オペラハウスに現れたエクスカリバーを持つ円卓の騎士のセイバーの正体とは。ギルガメッシュと互角の戦いをみせるエルキドゥ。正面突破を目論むアサシンを迎え撃つ警察署長オーランドと、そこに現れた教会の監督者であり代行者であるハンザに、アサシンのマスターである死徒のジェスター。そして、現れる二体目のアサシン、ギルを凌駕する謎のアーチャー、そしてさらなる謎の少女。インフレし続けるルール無用の乱戦を制するのは誰なのか。
読了日:8月16日 著者:成田良悟
火花火花感想
漫才師という芸を通じて、笑いとは何か、人を笑わせるということはどういうことなのかを、本当に真剣に、そしてとても純粋に考え抜いた思いが込められている。それが正しい考えのかどうかはわからないし、ここまで突き詰めようとしていることの方が大切で、正しさなんてどっちでもいいとも思える。理屈っぽく売れない芸人の徳永も天才肌で破天荒な先輩芸人の神谷のどちらも、表面に見える芸人又吉とはどこか似ているようで違う。情景が目に浮かぶような独特の言い回しや表現のなか、真樹さんの優しさと笑顔がとても素敵でした。
読了日:8月15日 著者:又吉直樹
Fate/strange Fake (1) (電撃文庫)Fate/strange Fake (1) (電撃文庫)感想
あらゆる願望を叶える「聖杯」を巡り、マスターと召喚された英霊が戦いを繰り広げる聖杯戦争。かつてFateで描かれた第5次聖杯戦争から数年後、アメリカの西部スノーフィールドを舞台に新たな、それも”偽り”の聖杯戦争が始まる。3たび顕現した英雄王ギルガメッシュを始め、6つのクラスに属する新たな英霊たちの戦いは如何なる結末を迎えるのか。バッカーノ!やデュラララ‼︎でお馴染みの成田良悟が描くスピンオフ的Fate新章は、この人気題材をどのように捌くのか、楽しみです。取り敢えず顔見せ的な第1巻ですが、掴みはOKです。
読了日:8月11日 著者:成田良悟
福家警部補の追及 (創元クライム・クラブ)福家警部補の追及 (創元クライム・クラブ)感想
福家警部補の倒叙ミステリーシリーズ第4弾。表紙の全身姿が何だか新鮮。今回は、未踏峰チャムガランガへの挑戦のための資金援助に絡んだ「未完の頂上」と血の繋がらない悪徳ブリーダーの弟から犬を守る姉を描いた「幸福の代償」の中編2作。殺人への動機の納得性と犯行隠匿の緻密性が高まるほど、倒叙ミステリとして犯人が自供に至った際の結末の悲劇性が高まる訳で、そういう意味ではこの2作共に読み応えは十分。「あなたいったい、いつ寝てるの?」「寝ていません」と言い切り、山まで制覇する「眠らずの魔女」にも、犬が苦手という弱点が発覚。
読了日:8月2日 著者:大倉崇裕

読書メーター

2015年7月の読書メーター

2015年7月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2666ページ
ナイス数:516ナイス

いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)感想
岬洋介の活躍は遂に舞台を世界に広げ、ポーランドショパンコンクールに出場する岬の前で起きる殺人事件と、ワルシャワ市民を巻き込んだ卑劣なテロ事件。コンクールの行方もさることながらと謎のテロリスト「ピアニスト」の正体とは?由緒正しきポーランドショパンの継承者であるヤンや盲目の榊場、岬、たちの演奏の描写も圧倒的で引き込まれる。テロの理不尽さに対する怒りと音楽の持つ力を再確認する。家名や伝統に縛られたヤンの成長物語でもあったが、戦場で起きたノクターンの奇跡とパキスタン大統領からのミサキ宛のメッセージには涙。
読了日:7月31日 著者:中山七里
あと少し、もう少しあと少し、もう少し感想
やっぱり駅伝はいい。ただ走るのが早いだけではなくて、チームとしてのまとまりとか襷に込められた思いとかが繋がっていく感じがいい。中学校最後の大会に臨む寄せ集めチームの桝井たち市野中の6人。いじめられっ子の設楽が、ヤンキーの大田が、お調子者のジローが、カッコつけの渡部が、後輩の俊介が、誰より走り続けてきた桝井が、気持ちを込めた襷を繋いでいく。6区で構成された章立てもとても上手い。一緒に走っているように、一人ずつに思い入れが深くなって共感していく。誰もが一生懸命で素敵です。中でも、渡部の4区が好きです。
読了日:7月26日 著者:瀬尾まいこ
くちびるに歌を (小学館文庫)くちびるに歌を (小学館文庫)感想
「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」アンジェラ・アキさんの名曲をテーマに、五島列島にある中学校にやってきた代理音楽教師の柏木先生と、NHK合唱コンクールへの出場を目指す合唱部を描いた青春ストーリー。柏木先生が生徒たちに課題として書かせたそれぞれの登場人物たちの手紙の中に綴られた等身大の悩みや秘密が、15年後の自分に対して手紙を出すという曲のコンセプトと上手くマッチしています。新垣結衣さん主演で映画化もされたようですが、自分の中では勝手に松下奈緒さんで再生していました。ラストの合唱シーンは胸に迫るものがあります。
読了日:7月25日 著者:中田永一
スペードの3スペードの3感想
ミュージカル女優の香北つかさのファンクラブであるファミリアをまとめる美知代が中心のスペードの3。突然現れた”アキ”にはすっかり騙された。そのアキを描いたハートの2。ラストのダイヤのエースは香北つかさが主人公。舞台に立つ側と観る側、演じる側や支える側、それぞれの立場の違う3人の女性の繊細に揺れ動く心模様が朝井さんならではの描写でくっきりと痛々しい程に浮かび上がってくる。子どもの頃のキラキラした風景の中に隠された、闇の中でキラリと光る鋭利な刃物のような刺々しい気持ちまでが突きつけられているかのよう。
読了日:7月23日 著者:朝井リョウ
営繕かるかや怪異譚営繕かるかや怪異譚感想
何処からか聞こえる雨の音、古い城下町に静かに佇む旧家、舞台となる家と街並みを描写する小野さんの湿り気のある薄暗い雰囲気に満ちた文章によって、何処まで続いているのかわからない暗渠に引きずりこまれるような不安な気持ちにさせられます。いずれも住居に纏わる怪異現象の原因を営繕屋である尾端が解決していく6編の物語ですが、どの話も女性が中心なのは、女性の方が何かそういった不思議なものを感じやすいのでしょうか。言い伝えや目に見えないもの、神仏への敬意など、移ろいゆく中で、忘れてはいけないものを思い出させる素敵な物語。
読了日:7月12日 著者:小野不由美
神様のカルテ0神様のカルテ0感想
神様のカルテシリーズのエピソード0。医学部の6年生として国家試験合格を目指す一止、辰也、次郎たちの友情溢れる学生時代、本庄病院が24時間365日診療を標榜するに至る経緯、研修医として本庄病院に赴任した一止の苦悩と葛藤、ハルさんの神々しいばかりの山岳写真家として生きる姿。どの話も、後のエピソードで断片的に描かれていたものから想像していた姿を上回るほどの立体感を持ってそれぞれの登場人物たちの今へと繋がっていきます。特に医学部の良心と言われた進藤辰也はやはり男前でした。やはり、読むと優しくなれるシリーズです。
読了日:7月12日 著者:夏川草介
臨床犯罪学者・火村英生の推理    密室の研究 (角川ビーンズ文庫)臨床犯罪学者・火村英生の推理 密室の研究 (角川ビーンズ文庫)感想
臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖のコンビが挑む難事件のうち、6つの密室の謎を集めたアンソロジー。密室と一口に言っても、鍵の掛かった部屋から、一方通行の足跡によって閉じられた密閉空間までバラエティーに富んでいる。如何にもビーンズ文庫らしい男前な挿し絵が満載なのはご愛嬌かな。お気軽に楽しめます。
読了日:7月11日 著者:有栖川有栖
絶望系 (新潮文庫nex)絶望系 (新潮文庫nex)感想
ある日突然、杵築の友人建御の部屋に悪魔と天使と死神と幽霊が現れるところから始まる。そして、街で起きている連続バラバラ殺人事件と杵築の隣の家に住む謎の烏衣カミナ、ミワ姉妹。ご存知「涼宮ハルヒ」シリーズでお馴染みの著者による暗黒ミステリとの触れ込みではあるが、完全に拗らせ過ぎた神と悪魔論争や目を背けたくなる様なエログロ描写に辟易として何度本を閉じようとしたことか。ハルヒシリーズの軽快さは何処へやら。肝心の絶望系の世界観の説明も上滑りしていてイマイチピンと来ない印象で、何せ読後感が悪いことこの上ない。
読了日:7月9日 著者:谷川流
神様の御用人 (4) (メディアワークス文庫)神様の御用人 (4) (メディアワークス文庫)感想
御用人シリーズ第4弾にして初の長編。御用人代理として神様から申しつけられる数々の御用をこなしてきた良彦と黄金コンビ。今回、宣之言書に現れたのは、神代の時代に神倭伊波礼琵古命(後の神武天皇)の東征により征伐された紀之国を治める天道根命。昔の記憶を無くし、神としての存在意義に悩む天道根命の夢に現れる女性と謎の簪。御用人としての良彦の確かな成長と時代は変われども、古の神々と先祖代々の系譜によって現代に生きる人間が繋がっている確かな絆を感じさせる物語。紐解かれた謎と穂乃香のおまけ、読み応え十分の内容に満足です。
読了日:7月5日 著者:浅葉なつ

読書メーター

2015年6月の読書メーター

2015年6月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:5034ページ
ナイス数:613ナイス

キネマの神様キネマの神様感想
出だしの1ページ目、エンドロールが流れる様子を映画を旅に例えて表した描写、そしてその余韻を感じさせる劇場の明かりの灯り方、座席や通路の角度や高さへの言及の時点で、映画館派としては、まるでお気に入りの映画館にいるかのような雰囲気に引き込まれました。老舗の映画雑誌が立ち上げた「キネマの神様」というブログを介したゴウとローズ・バッドの邂逅により、映画という世界共通言語を通した国境を越えた丁々発止のやり取りが始まる。何時しか二人の間に生まれた戦友の様な友情。最後まで映画への熱い想いと優しさに満ち溢れた作品でした。
読了日:6月28日 著者:原田マハ
切り裂きジャックの告白切り裂きジャックの告白感想
切り裂きジャックを彷彿させるような連続殺人事件が発生し、捜査に乗り出した警視庁の犬養と、コンビを組むことになった埼玉県警の古手川。臓器を全て摘出する猟奇的殺人事件という仕掛けもさることながら、犬養、古手川という人間臭い刑事コンビの心理描写や犯人の心理に迫っていく”刑事の勘”の応酬がいいですね。特に若い古手川が活躍するらしい「連続殺人鬼カエル男」を読んでいないのが悔やまれます。解剖や臓器移植を巡る精緻で風刺的な視点と細やかな描写が光るものの、その分やや動機面や真犯人に至る過程が弱く感じてしまったかな。
読了日:6月28日 著者:中山七里
骸の爪骸の爪感想
真備庄介と助手の北見凛が活躍する真備ホラーシリーズの第二作。とある事象から滋賀県の仏像工房である瑞祥房を訪ねることになったホラー作家の道尾が遭遇した笑う千手観音と頭から血を流す仏像、そして不気味な謎の声。20年前に起きた仏師の韮澤と茉莉の謎の失踪事件と関係するかのように、再び瑞祥房で仏師の行方不明事件が発生する。ホラーとオカルトをあくまで素材として使った純ミステリーとして、読者を騙すトリックと張り巡らされた伏線の数々。ただ、今回は凛ちゃんの登場と活躍シーンがやや少なかった気がします。
読了日:6月21日 著者:道尾秀介
世界地図の下書き世界地図の下書き感想
児童養護施設「青葉おひさまの家」に暮らす、事故で両親を亡くした太輔、病気の弟がいるお姉さんの佐緒里さん、虐待する母親と離れて暮らす美保子、そして太輔と同い年の淳也と2つ下の麻利の兄弟。大切なものとの別れ、決意、子どもたちの痛々しいまでの純粋な気持ちが本当に切なく描かれている。佐緒里のために「アリサ作戦」と名付け、4人が復活を目論んだ「願いとばし」のランタンが飛ぶ様子が目に浮かぶようで、何度でも何処へ行ってもやり直しはできる、決して希望は減らない、という佐緒里の台詞に込められたメッセージに胸が熱くなる。
読了日:6月20日 著者:朝井リョウ
PSYCHO-PASS サイコパス (0) 名前のない怪物 (角川文庫)PSYCHO-PASS サイコパス (0) 名前のない怪物 (角川文庫)感想
人間の心理・性格的傾向を数値で図ることができるシビュラシステムが支配する未来社会を舞台にしたアニメPSYCHO-PASSのさらに3年前、後に《標本事件》と呼ばれ、狡噛慎也が執行官になるキッカケとなった事件を描く。狡噛の相棒の佐々山や征陸のおやっさんの刑事臭さが際立つ反面、まだ監視官に成り立ての狡噛(宜野座も同じく)の、後の世界観と不整合起こしてるのでは?と思うぐらいの青二才の無垢さ加減が目に余るのはご愛嬌。とはいえ、執行官の面々と麻雀卓を囲むシーンは良かった。後の世界に繋がる前日譚として楽しめました。
読了日:6月20日 著者:高羽彩
星やどりの声星やどりの声感想
星空が見える天窓があって、ビーフシチューが美味しい喫茶店「星やどり」。数年前に亡くなった父星則がリフォームしたその店を切り盛りする母の律子と、琴美、光彦、小春、るり、凌馬、真步の三男三女。家族それぞれに焦点を当てながら悩みや衝突を通じて描かれた家族の絆が一つになったとき、父が繋ぎたかった家族の輪が明らかになる。それは、とても切ないけれど、力強く決して切れることのない家族の姿。そして、その想いは未来の希望へと繋がっていく。とても優しくて暖かい感動の物語でした。個人的には真步のエピソードが一番好きですね。
読了日:6月14日 著者:朝井リョウ
旅猫リポート旅猫リポート感想
読み始めてすぐにこれはヤバイ本だとわかった。猫のナナと飼い主のサトルが、”とある”事情からナナの引き取り手を探す旅に出る。行く先は、小学校の頃に両親を事故でなくしたサトルの小・中・高校時代の同級生のコースケ、ヨシミネ、スギとチカコ、そしてサトルを引き取ってくれた叔母のノリコ。ナナとサトルが出会うきっかけにもなった銀色のワゴンに乗って二人の旅は日本中を駆け巡る。色んな人や風景に出合い、決して忘れることのできない二人だけの思い出を刻むように。誇り高き猫が綴る最後のリポートは、涙無には読むことができない。
読了日:6月14日 著者:有川浩
博多豚骨ラーメンズ (3) (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (3) (メディアワークス文庫)感想
シリーズ第3弾。やっぱりこの作品で一番気になるキャラは、かつて人身売買によって少年殺人兵器として工場で訓練を受けた過去を持ち、女装が趣味の外見に似合わず凄腕の殺し屋ながら、いつの間にやら馬場ちゃんのところに居候を決め込み、今や博多豚骨ラーメンズの不動の二遊間を固めるリンちゃんこと林憲明です。ということで、1冊丸ごとリンちゃんの忌まわしい記憶から蘇るように現れた緋狼との生死を賭けた因縁の対決を通じ、過去との決別を描いた物語でした。そして、馬場と猿渡の宿命の対決(もちろん投手対打者という意味で)も見どころ。
読了日:6月13日 著者:木崎ちあき
博多豚骨ラーメンズ (2) (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (2) (メディアワークス文庫)感想
やや悪ノリ感に当てられたまま読み終えてしまった第1巻に引き続き続編へ。殺し屋達の巣窟である福岡(勿論嘘です)に現れたのは、殺人請負会社マーダー・インクの元エースの猿渡と、逃亡した斉藤を追うため派遣されたグイン。山笠で盛り上がる街の喧騒の裏側で、にわか侍を執拗に付け狙う華九会の刺客達との攻防、ドジな二人組の殺し屋コンビがあちこちでやらかす様々な出来事が複雑に交錯しつつ、満を持して最後に登場するのは伝説の殺し屋G.G。ちょいちょい野球になぞらえたストーリー展開もツボにハマります。「代打、オレ」に痺れました。
読了日:6月13日 著者:木崎ちあき
博多豚骨ラーメンズ (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (メディアワークス文庫)感想
第20回電撃小説大賞作品。人口の3%が殺し屋という世にも恐ろしい街「福岡」が舞台。殺し屋専門会社のマーダー・インク、闇の組織”華九会”、暴力団などと繋がりのある福岡市長のお抱え殺し屋、明太子をこよなく愛する私立探偵、凄腕ハッカーの情報屋、復讐屋、拷問師、そして殺し屋殺し屋と言われる謎のにわか侍。テンポの良さと登場するキャラの濃さで、勢い良くストーリーが展開されるが、多分この辺りのノリを受け入れることが出来るかが楽しめるかの分かれ目のように思う。これを悪趣味に感じてしまうのは年なんですかねぇ。σ(^_^;)
読了日:6月13日 著者:木崎ちあき
少女は卒業しない (集英社文庫)少女は卒業しない (集英社文庫)感想
取り壊されることが決まっている高校の最後の卒業式の前日から当日にかけての様々なシーンを7人の少女の視点から描く連作短編の青春群像劇。鮮やかに切り取られたそれぞれの「別れ」が、前日から徐々に時間が進行していくことにより、卒業という区切りが迫ってくるタイムリミットを感じることで、読者も同じように、自分が既に経験済みの卒業を追体験(ただし、こんなに甘酸っぱい青春の記憶は無い)するかのような構成が上手い。それぞれの少女たちが様々な形で踏み出した一歩を描きながら、「卒業しない」というタイトルが意味深です。
読了日:6月11日 著者:朝井リョウ
背の眼〈下〉 (幻冬舎文庫)背の眼〈下〉 (幻冬舎文庫)感想
連続児童失踪事件が発生している白峠村と程近い愛染町で発生した新たな自殺事件の第一発見者である小学三年生の亮平が登場。心霊現象を見ることができるという亮平により、話は再びオカルトチックになっていくが、この辺りのバランスが絶妙。事件解決に向けて、ホラーサスペンス風の仮面を被った本格ミステリの如く伏線が回収されていくが、最後のところで霊や霊的現象の存在は決して否定しない。これが真備ホラーシリーズの良いところなのかも。真備の側に亮平が見たものが真実であると思いたい。
読了日:6月7日 著者:道尾秀介
背の眼〈上〉 (幻冬舎文庫)背の眼〈上〉 (幻冬舎文庫)感想
売れないホラー作家の道尾、霊現象探究所を経営している真備と事務員の北見凛。児童失踪事件が続く白峠村で道尾が聞いた不思議な声と、真備の元に送られてきた不思議な写真。写真に写った人物にはいずれも背中に眼のようなものが写っており、しかも数日後に自殺したとのこと。天狗の言い伝えが残る田舎の村で発生した凄惨な事件の謎とは?霊現象を追い求める真備は、果たして本当の霊に辿り着くことはできるのか。何処までが伏線で、何処からが心霊現象なのか、騙されているとわかっていても、これをどう畳むのか楽しみにしながら下巻へ。
読了日:6月7日 著者:道尾秀介
全部抱きしめて (実業之日本社文庫)全部抱きしめて (実業之日本社文庫)感想
元同僚で7歳年下の諒との不倫の果てに仕事も家庭も全て失った43歳の奈津子。前作の「情事の終わり」にその辺りの破滅への過程が描かれているようですが、本作だけでも充分読めます。それから1年が経ち、再び奈津子の前に現れた諒。全てを失うことと全てを奪われたまま取り残されることのどちらが辛いのか。改めて歩み出そうとする2人に、ちょっと都合が良すぎる気がしますが、小金井や武蔵野の綺麗な風景とともに、少しずつ周囲の理解が得られていく再生の過程が穏やかに描かれます。奈津子の娘の理沙と諒が話すシーンが良かったです。
読了日:6月6日 著者:碧野圭
香彩七色 ~香りの秘密に耳を澄まして~ (メディアワークス文庫)香彩七色 ~香りの秘密に耳を澄まして~ (メディアワークス文庫)感想
食いしん坊で犬並みの嗅覚を持つ、主人公の女子大生の結月、香道宗家の御曹司(しかし家出中)の千尋と、従兄弟でイタリア人並みに軽い高校生の隆平を中心に、香りをテーマにした日常系ミステリー。繰り返し登場する「この世界には、目に見えないけど大切なものの方が、ずっと多いんだ」という台詞が印象的です。香りに託された謎や想いを読み解いていく過程における結月の嗅覚がチート過ぎる気がしますが、浅葉さんの優しくてふんわりした文体と作品のイメージが合わさってとても読みやすい。キャラも立っていて、続編が出たら読みたいです。
読了日:6月5日 著者:浅葉なつ

読書メーター

2015年5月の読書メーター

2015年5月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3879ページ
ナイス数:596ナイス

温室デイズ (角川文庫)温室デイズ (角川文庫)感想
中学三年生のみちると優子が通う宮前中学校は、ごくごく普通の当たり前のような学校。だから、大小差はあれども、教師に暴力を振るったり、授業をサボる子が居たり、ワルの瞬の告白を断った優子が嫌がらせを受けたり、それをなんとかしようと正義感を出したみちるがいじめの標的になるのもこの世界では当たり前の出来事なのかもしれない。確かに義務教育とはタイトルの通り温室なのかもしれないが、そこで苦しむ子供たちを救うことは大人たちには出来ないのだろうか。結局、変えようが無くても最後まで何とかしようとするみちるの強さに胸が痛む。
読了日:5月31日 著者:瀬尾まいこ
花と流れ星花と流れ星感想
道尾作品は結構読んできたつもりでしたが、ここにきてまさかの真備シリーズを飛ばして本作を読むという失態。しかしながら、本作に上梓されている5つの短編は、真備シリーズが初めての読者にも、人物造形や過去の背景に関する設定がある程度わかるように親切に書かれているため、それほどしくじった感は感じずに済みました。いずれもラストにトリックが隠されている物語で、心の闇や哀しみに寄り添うような話ばかりでした。なかでも、病気を抱えた少年が家の中で起きた殺人に気づくことが出来なかった謎を取り上げた「流れ星のつくり方」が切ない。
読了日:5月25日 著者:道尾秀介
パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)感想
喫茶店を経営する兄の惣司稔と、弟で警察を辞めた(正確には休職扱い)元警部でパティシエの智、県警本部秘書室勤務で本部長から智を連れ戻すよう特命を受けている直井楓巡査。この直ちゃんが惣司兄弟の元へ警察が手を焼いている事件の謎解きを持ち込んでくる形で話は進む。人の良い稔と強引でアクの強いキャラの直ちゃんを中心に智が安楽椅子探偵の如く推理の冴えを見せる。しかし、流石に直ちゃんの超法規的行動が現実味なさ過ぎることや兄弟揃って店を空けることが出来ないため行動範囲が狭くなるなど、自らの設定で首を絞めている感が否めない。
読了日:5月24日 著者:似鳥鶏
一分間だけ (宝島社文庫)一分間だけ (宝島社文庫)感想
自分はペットを飼う派ではないのですが、ひたすら健気に飼い主を信じ続けるリラの姿にやられました。飼い主の藍は、編集者としての仕事に情熱を燃やすとともに、片道一時間以上を掛けてでもリラを飼うために郊外に住み、どちらも全力で真剣。時にはリラの存在を疎ましく思ってしまうのが、読者には身勝手に感じてしまうのだけれども、これが偽りのない等身大の姿なのだろう。そんな藍を包み込むような浩介はただただ優しい。鬼編集長の北條さんと喫茶店で語り合うシーンは涙なしには読めません。
読了日:5月21日 著者:原田マハ
ノエル: a story of storiesノエル: a story of stories感想
「光の箱」と「暗がりの子供」は、いずれもstorysellerとannexで既読でしたが、やはりこうして繋がりのある物語として読むと本来のストーリーの連続性のある仕掛けが感じられるように思います。最後の「物語の夕暮れ」は初読みでしたが、先の2作と同様、最後まで不安を煽られ続けられました。「物語を作ることで強くなれる。自分で作る物語は、必ず自分の望む方向へ進むのだから」という与沢先生の言葉が強く優しく胸に残ります。きっと誰もが、誰かの人生に大きな影響を与えていると信じさせてくれるような優しさに溢れています。
読了日:5月17日 著者:道尾秀介
1000の小説とバックベアード (新潮文庫)1000の小説とバックベアード (新潮文庫)感想
27歳の誕生日に片説家をクビになった主人公の木原。小説家の絶望的で深淵に臨むが如し苦悶ここに極まれりといったところか、あくまで読む側の読者であり、書く側ではない我々にはその産みの苦しみの深さは決して知る由も無い。小説に絶望した先に待つのは顔のないバックベアードが守る地下の図書館。小説を信じることはできるか。自分を信じぬくことはできるか。『日本文学』の前にたどり着いた木原と配川姉妹の前に待つ言葉とは。小説を書くような心で書いたら、それはもう小説なのだ。たとえこの世にいなくなろうとも、言葉は残る。
読了日:5月17日 著者:佐藤友哉
朧月市役所妖怪課  河童コロッケ (角川文庫)朧月市役所妖怪課 河童コロッケ (角川文庫)感想
自治体アシスタントとしてG県朧月市役所に派遣された宵原秀也が配属されたのは、何と妖怪課。朧月市は、かつて日本中にいた妖怪達を封じ込める目的で結界の中に設置された自治体であり、妖怪課は妖怪たちへ対処(退治ではない)するための部署。公務員的お仕事ストーリーと奇想天外な設定で、設定もちょいちょい真実味がありそうなところが面白い。課の仲間達や市のトップである黒乃森市長の不思議な能力や、秀也に取り付く長屋歪をはじめ、登場する妖怪達の何処か愛らしい姿も見所。ラストで秀也の素性が明かされ、次巻への興味が唆られる。
読了日:5月15日 著者:青柳碧人
神様の御用人 (3) (メディアワークス文庫)神様の御用人 (3) (メディアワークス文庫)感想
御用人シリーズ第3弾。今回も四柱の神から御用を聞くことになるフリーターの御用人の良彦。もちろん相棒はモフモフの方位神の黄金に、前巻から天眼を持つ穂乃香が加わった。3巻目を迎え、御用人としての用事を全うする中で変わり始めた良彦の姿、特に一人角力で見せた御用人としての強さは、強く印象に残りました。また、そんな良彦を見つめる黄金の視線に徐々に信頼が宿ってきていることも大きな変化です。童子の柄杓と橘の約束も、神代からの長い絆を感じさせるお話でとても良かった。そして、毎度ながら表紙のイラストが最高です。
読了日:5月10日 著者:浅葉なつ
水車館の殺人 (講談社文庫)水車館の殺人 (講談社文庫)感想
館シリーズ第2弾。大きな三連の水車が特徴の古城のような<水車館>で、1年前と同じように嵐と雨、稲妻と濁流で閉ざされた館で巻き起こる殺人事件と謎の数々。館には事故により車椅子生活を余儀なくされた仮面の主人とその若妻である薄幸の美少女が暮らす。年に一度開帳される絵画を拝謁しにやってくる登場人物たちに、歓迎されない訪問者である島田潔が探偵役として加わり、役者と舞台はこれ以上ない程揃った感じ。物語は1年前と現在を行ったり来たりしながら、徐々に事件の真相と隠された絵画と館の謎が明らかにされていく。
読了日:5月9日 著者:綾辻行人
笑うハーレキン笑うハーレキン感想
誰しもが、自分や大切な誰かを守るため、懸命に今を精一杯生きている。そのために、時には素顔を隠す仮面を必要とし、辛いときほど明るく振舞おうとするのかもしれない。我が子を事故で亡くし、妻に出て行かれ、会社も潰して全てを失い、ホームレス仲間のチュウさんやトキコさん、モクさんやシジタキさんと共に、その日暮らしをしている東口の元に突然現れたナナエ。自らに取り憑いた疫病神との自問自答のような会話やジジタキさんの死、謎の老人からの家具の修理依頼と決死の脱出劇など、カラスの親指を思わせるスリリングな展開は映像向きかも。
読了日:5月6日 著者:道尾秀介
図書館の神様 (ちくま文庫)図書館の神様 (ちくま文庫)感想
タイトルからほんわかした内容を想像していたら、案外ネガティヴσ(^_^;)名前の通り清く正しく真っ直ぐにバレーに打ち込んで生きてきた主人公の清は、ある敗戦から同級生を自殺させてしまう。地元を離れ、高校の国語講師となった清が、赴任した高校で渋々ながら文芸部の顧問となって唯一の文芸部員の垣内くんと出会い、浅見さんとの不倫、山本さんへの供養、バレーでの挫折などから、徐々に再生していく物語。達観しているようでどこかとぼけた垣内くんと清のやり取りが可笑しく、ラストの垣内くんの演説が秀逸。また、弟の拓実の存在も救い。
読了日:5月6日 著者:瀬尾まいこ
僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)感想
子どもが学校に一人しかいない田舎に暮らす舞が、ある日飛ばした手紙付きの赤い風船。受け取ったのは、高層マンションに住み、人並み外れた視力を持つ健一、スナックを経営する母と二人で暮らし、人の匂いで嗅ぎわけることができる麻里安、離婚した父と兄と暮らし、遠くの音まで聞くことができる隼人、という不思議な力を備えた三人。夏休みに舞に会いに行くため作戦を練る三人の前に立ちはだかる様々な障害を乗り越えていく子どもたちの少しファンタジックな冒険物語。ユウジやカンザキ、真屋さんたち大人の手助けも心強い。爽やかな読後感です。
読了日:5月6日 著者:小路幸也
アルジャーノンに花束をアルジャーノンに花束を感想
20年ぶりぐらいの再読になります。サイエンスフィクションに分類される本作は、手術により天才的な知能を手に入れるチャーリー・ゴードンとネズミのアルジャーノンの姿をチャーリーの記録する経過報告という一人称スタイルで描く。余りにも有名なラストの2行もさることながら、驚異的なスピードで知能を手に入れていく様子を描写した訳文が素晴らしすぎます。そして、それ以上の早さで失っていく恐怖から学んだことに必死にしがみつこうとするチャーリーの「おねがいです、神様、なにもかもお取りあげにならないでください。」が只々切ない。
読了日:5月2日 著者:ダニエルキイス

読書メーター

2015年4月の読書メーター

2015年4月の読書メーター
読んだ本の数:5冊
読んだページ数:2260ページ
ナイス数:357ナイス

神様の御用人 (2) (メディアワークス文庫)神様の御用人 (2) (メディアワークス文庫)感想
モフモフの狐神・黄金とフリーターの良彦の御用人シリーズ第2弾。今回も、現代風の人間臭い古の神々達から、名湯探しから貧乏神の家探し、井戸からの脱出、浮気癖の改心など、様々な御用を言い付けられる良彦ですが、自分にも馴染みの深い出雲の大国主神も登場する本作の目玉は、このシリーズに不足していた美少女要素として、新たに天眼の能力を持つ穂乃香が登場したことでしょう。各話のストーリー展開やラストの納め方も、安心して読んでいられる安定感があり、今後どんな神々が登場するのかますます楽しみになってきました。
読了日:4月29日 著者:浅葉なつ
ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)感想
ナミヤ雑貨店の相談窓口が9月13日に一夜限りで復活しますーかつて雑誌にも取り上げられた雑貨店には、人に言えない悩みを抱えた人たちのあらゆる相談を持ち込まれ、店主の浪矢雄治はそのどれもに真剣に回答していた。それから30年以上の時を経て、悪事を働いた児童養護施設出身の若者3人が忍び込んだのは、とうの昔に廃業し既に廃屋となったナミヤ雑賀店。そこへ、投函された一通の悩みを記した手紙に対し、ほんの出来心で回答したことから、過去と現在を繋ぎ、まさに空の上から誰かの意思が働いているかのような、不思議な往復書簡が始まる。
読了日:4月19日 著者:東野圭吾
あい―永遠に在り (時代小説文庫)あい―永遠に在り (時代小説文庫)感想
貧しい農村出ながら苦労の末に蘭学医師となり、立身出世には見向きもせず、ただひたすらに多くの患者と医療のために生き、晩年は北海道の開拓に全ての財産を費やした関寛斎。その清廉すぎる一生に寄り添い支え続けた、妻あいの視点から見た関寛斎という人物を通じて、人を愛し抜く姿を描いた感動の物語。あいの生涯を追うように、逢、藍、哀、愛という4章から構成される。特に愛する子を失い苦難に満ちた3章の哀は読んでいて辛くなる。あいの尊い生き様と共に、「人たる者の本分は、眼前にあらずして、永遠に在り」という言葉が胸に沁みます。
読了日:4月19日 著者:高田郁
鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐感想
上巻で、犬の襲来から生き残った者<欠け角のヴァン>。下巻では、ヴァンの後を追う狩人のサエや<火馬の民>のオーファン、そしてついに黒狼病の治療法を追い求めるホッサルと出会う。様々な民族の対立と政治的な謀略を複雑に絡め、そこにウイルスや病原菌の蔓延による感染症の流行といった医学的な要素を盛り込むことで、骨太で重厚な物語を描き出しているが、あえて言うならば、少しテーマを広げすぎたのかも。ホッサルとミラル、ヴァンとサエなどの行く末をもう少し見たかったというのは贅沢で欲張りな願望かもしれない。祝!本屋大賞
読了日:4月9日 著者:上橋菜穂子
鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐感想
幻想の扉の向こうには、上橋さんによって創り出された世界が広がっていました。妻と息子を病によって失い、故郷のために死兵となって<独角>の頭として強国と闘って敗れ、奴隷として岩塩鉱に囚われていたヴァン。突然襲ってきた山犬たちに噛まれた奴隷たちが次々と謎の病で死んでいく中、生き延びたヴァンとまだ幼子のユナの逃亡生活が始まる。そして、もう一人の主人公は天才的な医術師のホッサル。戦争と病、民族と家族など、様々な対立と葛藤によって複雑なテーマに正面から向き合う。果たしてホッサルは病を防ぐことはできるのか。下巻へ続く。
読了日:4月9日 著者:上橋菜穂子

読書メーター

2015年2月の読書メーター

2015年2月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3553ページ
ナイス数:642ナイス

政と源政と源感想
つまみ簪職人の源二郎と元銀行員で堅物の国政。二人合わせて146歳、幼馴染の政と源。三浦さんでいうとまほろの行天と多田とはまた違った名コンビ。そこに簪職人見習いの徹平と美容師のマミさんを加えた、下町の風情たっぷりの人情物語。花江さんと源さんの駆け落ちの昔話がいいですね。しかし、如何にも職人然として気っぷの良い源二郎に比べて、全く国政は「ひがみっぽいのがいけねえ」や。仕事一筋に生きた挙句、定年後に愛想を尽かされ、娘共々家を出て行かれた国政の悲哀ぶりが、何だかスカッとした読後感を与えてくれない(>_<)
読了日:2月22日 著者:三浦しをん
太陽の塔太陽の塔感想
相当なまでに妄想を拗らせる森本と飾磨、高藪、井戸たち愛すべき阿呆どもが、有り余る男汁を迸らせながら大学生活を過ごす京都。1年前に振られた水尾さんへの果てしない妄想という名の研究に没頭する森本と、「ええじゃないか騒動」によってクリスマスへの反抗を企てる飾磨の崇高なる精神に感服せざるを得ない。夢の中に現れる太陽の塔の圧倒的な存在感に敬意を抱きながら、くだらないことことばかり思い出される大学生活に想いを馳せつつ、森見ワールドの原点を楽しませて貰いました。
読了日:2月21日 著者:森見登美彦
アイネクライネナハトムジークアイネクライネナハトムジーク感想
「出会い」をテーマにした連作短編集。各話を通して、世代を超えて人物関係が関連しており、あ〜これがあの話のあの人(またはその子どもだったりする)か〜と繋がりを感じながら読むのも本書の楽しみの一つ。恋愛ものが中心で、人が死んだり物騒なことが起きたりしませんが、さり気ない日常に見せかけつつ、軽妙な台詞とウィットの効いた語り口で楽しませながらも、示唆に富んだ教訓めいたところを、あくまでライトに恩着せがましくなることなく読者に感じさせるのが本当に上手いですね。元気がない時に読むと勇気が湧くかもしれません。
読了日:2月19日 著者:伊坂幸太郎
流星ワゴン (講談社文庫)流星ワゴン (講談社文庫)感想
人は誰しも、あの時こうすれば良かったのではないかという後悔をしないように精一杯生きているもの。実際にはそんなことを未然に防げる訳もなく突然に突き付けられた現実を前にやはり後悔するしかない。もし過去に戻ってあの時をやり直せるのなら?カズの前に突然表れた、5年前に事故で亡くなった橋本親子のワゴン。乗り込んだ先で出会ったのは死の床にある仲違いした父親の25年前の姿。同い年のチュウさん、妻の美代子や引きこもりの息子の広樹と向き合い、壊れてしまった家族関係や後悔だらけの現実を取り戻せるのか。身につまされ過ぎて辛い。
読了日:2月15日 著者:重松清
忍びの国 (新潮文庫)忍びの国 (新潮文庫)感想
百地三太夫、下山甲斐ら、忍びたちの国、伊賀。その伊賀一の凄腕の忍びである無門。後の石川五右衛門である文吾。攻め入るは伊勢の国を治める信長の嫡男である信雄率いる、豪傑日置大膳、長野左京亮、柘植三郎左衛門。登場人物だけでもワクワクするが、「天正伊賀の乱」の史実を背景にした歴史小説であり、痛快無比な忍法帳でもある。伊賀の忍びたちの我が子の命も厭わぬ人心を操る謀略の奥深さには恐れ入る。忍び軍団と織田信雄軍の戦闘も迫力がある。無門の忍びの術の凄さが極まっているが、お国に全く頭の上がらない姿とのギャップも面白い。
読了日:2月14日 著者:和田竜
楽園のカンヴァス (新潮文庫)楽園のカンヴァス (新潮文庫)感想
ニューヨーク近代美術館のアシスタントキュレーターのティム・ブラウンと気鋭の若手研究者であるオリエ・ハヤカワ。スイスバーゼルに住む謎のコレクターのバイラーに突然呼び出された二人に与えられた使命は、ルソーの名作である「夢」に酷似した「夢をみた」の真贋判定。その方法は著者不明の謎の文書を1日1章ずつ読み進み、7日目に真贋を講評すること。そして勝者には絵の所有権が渡される。美術史を深く掘り下げた圧倒的な筆力に、登場する作品を検索しながら読む手が止まらない。ヤドヴィガの夢の続きを観に美術館に行きたくなります。
読了日:2月11日 著者:原田マハ
光圀伝光圀伝感想
まさに孤高の虎、詩歌と文事の天下を目指し、何より大義に生きた水戸光圀の生涯を、光圀伝というシンプルなタイトルのとおり見事に描き切った重厚な物語。その生涯は波乱万丈にて、常に死の看取りと隣り合わせでした。父の頼房、兄の頼重、莫逆の友である読耕斎、生涯忘れることのない伴侶の泰姫、義を通し世子とした兄の子の綱方、第二の父であり師匠の朱舜水、誰より信頼していた紋太夫。そしてその光圀に最期まで寄り添い続けた左近。光圀が追い求めた史書が与えてくれるのは、連綿と続く人々の人生であり、そこに人が生きた証である。
読了日:2月11日 著者:冲方丁
のぼうの城 下 (小学館文庫)のぼうの城 下 (小学館文庫)感想
いよいよ戦が始まった。佐間口を守るは”漆黒の魔人”正木丹波、下忍口には毘沙門天の化身、酒巻靭負、長野口には柴崎和泉。忍城の侍大将たちの活躍により緒戦をものにする。第2戦、三成がとった作戦は後に戦国史に残る水攻め。丹波や敵の総大将である三成が感じるのぼう様こと長親の大将としての将器とは。いざという場面で長親が見せる常識では測れない胆力が水没寸前の忍城を救う。開城の後も、あっさりと再戦の覚悟を言いのけてしまう場面は痛快です。最後まで恵まれなかったものの、三成もまた傑物でした。甲斐姫の覚悟もまた清々しい。
読了日:2月7日 著者:和田竜
のぼうの城 上 (小学館文庫)のぼうの城 上 (小学館文庫)感想
のぼうとは”でくのぼう”のこと。普段、家臣どころか領民にまで、そう呼ばれる忍城の城代の成田長親。天下統一を前にした秀吉の命により、石田三成率いる2万の軍勢に取り囲まれ絶体絶命の窮地に立たされた忍城。所々に史跡や文献の紹介を交えたルポのようでもある新鮮な形式のエンターテイメント時代小説。。「それが世の習いと申すのなら、このわしは許さん。」戦うことを決めた長親に付き従う正木丹波や柴崎和泉、酒巻靭負ら、個性的な武将たちがいかに三成を迎え撃つのか。圧倒的戦力差のなか、逆襲の決戦は下巻へ。
読了日:2月7日 著者:和田竜
(P[あ]4-8)よろず占い処 陰陽屋猫たたり (ポプラ文庫ピュアフル)(P[あ]4-8)よろず占い処 陰陽屋猫たたり (ポプラ文庫ピュアフル)感想
陰陽屋シリーズ第7弾。前作の終わりで三井さんにようやく告白したものの、あえなく撃沈し傷心の瞬太を待ち構えていたのは、夏休みの補修と2年生への進級をかけた追試。何とかハワイへの修学旅行に対する執念で乗り切って一安心。話の方は相変わらずゆっくりとしか進まず、最後の第4話に久しぶりに登場した葛城さんや謎の月村颯子の素性がわかったぐらいでようやくちょっと進展。本来ならば瞬太の出生の謎も気になるところではあるが、本作としては瞬太が無事にハワイへ行けるのか?無事に3年生に進級できるのか?の方が一大関心事かもしれない。
読了日:2月6日 著者:天野頌子

読書メーター

2015年1月の読書メーター

2015年1月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3317ページ
ナイス数:607ナイス

木暮荘物語 (祥伝社文庫)木暮荘物語 (祥伝社文庫)感想
ほのぼのとしたタイトルとのギャップにやられる。築ウン十年のオンボロアパートに住む四人の住人。突然帰ってきた元カレと奇妙な三角関係に陥る花屋店員の繭、70歳を過ぎて老いらくのセックスに挑む大家の木暮、男の出入りの激しい女子大生の光子、その光子を上階から日々覗き見ているサラリーマンの神崎。さらに、毎日木暮荘の前を通るトリマーの美禰やヤクザの前田、繭の花屋に通う虹子さんなどを交え、どこか歪だけれども本質的な愛情と繋がりが描かれる。短編が進み一人ひとりの人物像が深まってくるにつれ木暮荘に愛着が湧いてくる。
読了日:1月31日 著者:三浦しをん
八日目の蝉 (中公文庫)八日目の蝉 (中公文庫)感想
いわゆる不倫相手の子供を誘拐、逃亡しながら自らの子として育てる逃亡劇とその後を描く物語。第1章で希和子が誘拐した恵理菜に薫と名付け、逃げ延びながらやがて母子となっていく緊迫した姿だけでも十分にドラマである。そして第2章では元の父母の元に戻った恵理菜の目を通して希和子の犯した罪を描き出す。登場人物に共感したり感情移入したりはできないが、物語に登場する様々な人々を通して、こんなにも強い想いがあるのか、母性とは何と尊いものなのかと強烈に感じる。瀬戸内の海に浮かぶ小豆島の美しい景色の描写と人の温かさが心に残る。
読了日:1月25日 著者:角田光代
かばん屋の相続 (文春文庫)かばん屋の相続 (文春文庫)感想
大小様々な銀行の融資行員を主人公にした表題作を含む6つの短編集。銀行内部の腐敗や融資テクニックを用いたお決まりの金融ミステリかと思いきや、短い中でぎゅっと濃縮されたストーリーと濃密な人間模様、バラエティに富んだ題材でなかなかの読み応えです。本部からのエリート支店長が悪く描かれるのはいつものことですが、中小企業のために奮闘する若手の融資担当の「セールストーク」の江藤や「芥のごとく」の山田、「かばん屋の相続」の太郎などの熱い姿が印象的です。そんな中では異色とも言える「妻の元カレ」は悲哀に満ちていて切ない。
読了日:1月24日 著者:池井戸潤
謎解きはディナーのあとで 3謎解きはディナーのあとで 3感想
相変わらず、毎月のように殺人事件が起こるにも関わらず平和な国立署ですが、深刻さをあえて感じさせないタッチとテンポの良さから楽しんで読むことができます。今回は怪盗レジェンドの登場や麗子さんと影山の関係も新たな展開への予感を感じさせたりしましたが、果たしてラストの風祭警部の本庁への栄転は真に受けていいものなのか。今回、一番気に入ったのは、無駄に多い宝生家の自転車コレクションを前にお父様の無駄遣いと嘆く麗子に「成れの果てと書いて成果と読みます。お嬢様」という影山の台詞です。さすが宝生家。
読了日:1月24日 著者:東川篤哉
神様の御用人 (メディアワークス文庫)神様の御用人 (メディアワークス文庫)感想
ある日突然、神様たちの御用を聞いて回る”御用人”の役目を命じられたフリーターの良彦。最初に御用を聞くことになったモフモフの狐神、黄金(こがね)様との迷コンビによる御用聞きの道中が始まる。ライトな体裁と読み口ですが、それでいて古事記や神話に登場する神々の現代における人間臭い悩みのなかに、古よりの人のあり方や変わらぬ想いが写し出されていて面白い。どの話も日本古来の風土に根ざした神々の伝承と上手く絡めた話になっており、温かみが感じられる締めくくりも好印象。癒されます。
読了日:1月21日 著者:浅葉なつ
紙の月 (ハルキ文庫)紙の月 (ハルキ文庫)感想
本当に梨花は光太のことが好きだったんだろうか、ただ会いたいという衝動はどこから来ていたのだろうか。顧客のお金を横領し、若い愛人に貢いだ梨花、離婚した夫の元にいる娘に対する見栄ののために散財する亜紀、お金に振り回されないようにと必要以上の節約に励む木綿子、昔の暮らしを忘れられない牧子。登場する誰もがお金のために生活の歯車が狂っていく様子が怖い。逃亡を続ける梨花に関係する複数の視点の人物像から真実の姿を描き出すと思いきやさにあらず、読者の願いとは裏腹に梨花は破滅への1本道を潔いまでに突っ走っていく。
読了日:1月13日 著者:角田光代
カレイドスコープの箱庭カレイドスコープの箱庭感想
田口・白鳥シリーズ真の最終巻とのことで、極北の速水先生や桐生先生、ステルス曾根崎シンイチロウまで登場してシリーズ同窓会の様相。スカラムーシュ彦根や島津先生を交え、すずめ四天王の麻雀大会まで開催する大サービスぶり。今回の舞台は臨床現場を支える病理検査室ですが、原点回帰の本格ミステリとの触れ込みの肝心の謎部分がラストを飾るには犯人を含めて安直過ぎて残念。冒頭のマサチューセッツ大学での田口先生の雄姿に、思えば遠くへ来たものだと、読者としても感慨深い想いです。巻末の作品、人物相関図も圧巻の海堂ワールド全開です。
読了日:1月11日 著者:海堂尊
とんび (角川文庫)とんび (角川文庫)感想
本当に素晴らしい、昭和の郷愁とあわせて父と息子の愛情が瀬戸内の田舎町の風景とともに心に染み渡る素晴らしい物語でした。ヤスさんの不器用さも真っ直ぐさも優しさも馬鹿なところも全部まとめて素敵です。ヤスさんとアキラの親子を取り巻くたえ子さん、海雲和尚、ナマクラ照雲、幸恵さん、運送会社の面々、そして美佐子さん。誰もが愛に満ちている。読者の誰もがヤスさんと共に一章ごとに成長していくアキラの親となり、喜び、悩み、葛藤し、迷い、哀しみ、涙し、そして幸せを噛みしめることでしょう。
読了日:1月9日 著者:重松清
アクアマリンの神殿 (単行本)アクアマリンの神殿 (単行本)感想
モルフェウスの領域から4年。網膜芽腫の治療のためのコールドスリープから目覚めた佐々木アツシと入れ替えに眠りについた日比野涼子。アツシがオンディーヌと呼び、親愛なるその人を守る門番を務める神聖なるアクアマリンの神殿。空白の時を埋め、中学生となったアツシを取り巻く麻生夏美、蜂谷、北原野麦たちドロン同盟との賑やかな学園生活。その一方で、システム管理を監視する西野や、海の向こうの助言者ステルス・シンイチロウとの夜間労働に勤しむ。果たして涼子さんの寝覚めは如何に。ラストの飛び級で話は『医学のたまご』に繋がっていく。
読了日:1月3日 著者:海堂尊
フォルトゥナの瞳フォルトゥナの瞳感想
運命の車輪を司り、人々の運命を決めるという、ローマ神話に伝えられる運命の女神のフォルトゥナ(Fortuna)。突如として死期が迫った人々が透けて見えるという能力が備わり、他人の運命が見えるフォルトゥナの瞳を持つことになった主人公の木山慎一郎。しかし、他人の運命を左右するその力は自らの命の引き換えであり、変えられるはずの運命を目の前に逡巡し葛藤する。運命論ものとしてバタフライ効果バグダッドの死神など上手く組み合わせて話を構成しているが、やはり能力の唐突さやラストの核心までが消化不良な気がする。
読了日:1月3日 著者:百田尚樹

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