2015年1月の読書メーター

2015年1月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3317ページ
ナイス数:607ナイス

木暮荘物語 (祥伝社文庫)木暮荘物語 (祥伝社文庫)感想
ほのぼのとしたタイトルとのギャップにやられる。築ウン十年のオンボロアパートに住む四人の住人。突然帰ってきた元カレと奇妙な三角関係に陥る花屋店員の繭、70歳を過ぎて老いらくのセックスに挑む大家の木暮、男の出入りの激しい女子大生の光子、その光子を上階から日々覗き見ているサラリーマンの神崎。さらに、毎日木暮荘の前を通るトリマーの美禰やヤクザの前田、繭の花屋に通う虹子さんなどを交え、どこか歪だけれども本質的な愛情と繋がりが描かれる。短編が進み一人ひとりの人物像が深まってくるにつれ木暮荘に愛着が湧いてくる。
読了日:1月31日 著者:三浦しをん
八日目の蝉 (中公文庫)八日目の蝉 (中公文庫)感想
いわゆる不倫相手の子供を誘拐、逃亡しながら自らの子として育てる逃亡劇とその後を描く物語。第1章で希和子が誘拐した恵理菜に薫と名付け、逃げ延びながらやがて母子となっていく緊迫した姿だけでも十分にドラマである。そして第2章では元の父母の元に戻った恵理菜の目を通して希和子の犯した罪を描き出す。登場人物に共感したり感情移入したりはできないが、物語に登場する様々な人々を通して、こんなにも強い想いがあるのか、母性とは何と尊いものなのかと強烈に感じる。瀬戸内の海に浮かぶ小豆島の美しい景色の描写と人の温かさが心に残る。
読了日:1月25日 著者:角田光代
かばん屋の相続 (文春文庫)かばん屋の相続 (文春文庫)感想
大小様々な銀行の融資行員を主人公にした表題作を含む6つの短編集。銀行内部の腐敗や融資テクニックを用いたお決まりの金融ミステリかと思いきや、短い中でぎゅっと濃縮されたストーリーと濃密な人間模様、バラエティに富んだ題材でなかなかの読み応えです。本部からのエリート支店長が悪く描かれるのはいつものことですが、中小企業のために奮闘する若手の融資担当の「セールストーク」の江藤や「芥のごとく」の山田、「かばん屋の相続」の太郎などの熱い姿が印象的です。そんな中では異色とも言える「妻の元カレ」は悲哀に満ちていて切ない。
読了日:1月24日 著者:池井戸潤
謎解きはディナーのあとで 3謎解きはディナーのあとで 3感想
相変わらず、毎月のように殺人事件が起こるにも関わらず平和な国立署ですが、深刻さをあえて感じさせないタッチとテンポの良さから楽しんで読むことができます。今回は怪盗レジェンドの登場や麗子さんと影山の関係も新たな展開への予感を感じさせたりしましたが、果たしてラストの風祭警部の本庁への栄転は真に受けていいものなのか。今回、一番気に入ったのは、無駄に多い宝生家の自転車コレクションを前にお父様の無駄遣いと嘆く麗子に「成れの果てと書いて成果と読みます。お嬢様」という影山の台詞です。さすが宝生家。
読了日:1月24日 著者:東川篤哉
神様の御用人 (メディアワークス文庫)神様の御用人 (メディアワークス文庫)感想
ある日突然、神様たちの御用を聞いて回る”御用人”の役目を命じられたフリーターの良彦。最初に御用を聞くことになったモフモフの狐神、黄金(こがね)様との迷コンビによる御用聞きの道中が始まる。ライトな体裁と読み口ですが、それでいて古事記や神話に登場する神々の現代における人間臭い悩みのなかに、古よりの人のあり方や変わらぬ想いが写し出されていて面白い。どの話も日本古来の風土に根ざした神々の伝承と上手く絡めた話になっており、温かみが感じられる締めくくりも好印象。癒されます。
読了日:1月21日 著者:浅葉なつ
紙の月 (ハルキ文庫)紙の月 (ハルキ文庫)感想
本当に梨花は光太のことが好きだったんだろうか、ただ会いたいという衝動はどこから来ていたのだろうか。顧客のお金を横領し、若い愛人に貢いだ梨花、離婚した夫の元にいる娘に対する見栄ののために散財する亜紀、お金に振り回されないようにと必要以上の節約に励む木綿子、昔の暮らしを忘れられない牧子。登場する誰もがお金のために生活の歯車が狂っていく様子が怖い。逃亡を続ける梨花に関係する複数の視点の人物像から真実の姿を描き出すと思いきやさにあらず、読者の願いとは裏腹に梨花は破滅への1本道を潔いまでに突っ走っていく。
読了日:1月13日 著者:角田光代
カレイドスコープの箱庭カレイドスコープの箱庭感想
田口・白鳥シリーズ真の最終巻とのことで、極北の速水先生や桐生先生、ステルス曾根崎シンイチロウまで登場してシリーズ同窓会の様相。スカラムーシュ彦根や島津先生を交え、すずめ四天王の麻雀大会まで開催する大サービスぶり。今回の舞台は臨床現場を支える病理検査室ですが、原点回帰の本格ミステリとの触れ込みの肝心の謎部分がラストを飾るには犯人を含めて安直過ぎて残念。冒頭のマサチューセッツ大学での田口先生の雄姿に、思えば遠くへ来たものだと、読者としても感慨深い想いです。巻末の作品、人物相関図も圧巻の海堂ワールド全開です。
読了日:1月11日 著者:海堂尊
とんび (角川文庫)とんび (角川文庫)感想
本当に素晴らしい、昭和の郷愁とあわせて父と息子の愛情が瀬戸内の田舎町の風景とともに心に染み渡る素晴らしい物語でした。ヤスさんの不器用さも真っ直ぐさも優しさも馬鹿なところも全部まとめて素敵です。ヤスさんとアキラの親子を取り巻くたえ子さん、海雲和尚、ナマクラ照雲、幸恵さん、運送会社の面々、そして美佐子さん。誰もが愛に満ちている。読者の誰もがヤスさんと共に一章ごとに成長していくアキラの親となり、喜び、悩み、葛藤し、迷い、哀しみ、涙し、そして幸せを噛みしめることでしょう。
読了日:1月9日 著者:重松清
アクアマリンの神殿 (単行本)アクアマリンの神殿 (単行本)感想
モルフェウスの領域から4年。網膜芽腫の治療のためのコールドスリープから目覚めた佐々木アツシと入れ替えに眠りについた日比野涼子。アツシがオンディーヌと呼び、親愛なるその人を守る門番を務める神聖なるアクアマリンの神殿。空白の時を埋め、中学生となったアツシを取り巻く麻生夏美、蜂谷、北原野麦たちドロン同盟との賑やかな学園生活。その一方で、システム管理を監視する西野や、海の向こうの助言者ステルス・シンイチロウとの夜間労働に勤しむ。果たして涼子さんの寝覚めは如何に。ラストの飛び級で話は『医学のたまご』に繋がっていく。
読了日:1月3日 著者:海堂尊
フォルトゥナの瞳フォルトゥナの瞳感想
運命の車輪を司り、人々の運命を決めるという、ローマ神話に伝えられる運命の女神のフォルトゥナ(Fortuna)。突如として死期が迫った人々が透けて見えるという能力が備わり、他人の運命が見えるフォルトゥナの瞳を持つことになった主人公の木山慎一郎。しかし、他人の運命を左右するその力は自らの命の引き換えであり、変えられるはずの運命を目の前に逡巡し葛藤する。運命論ものとしてバタフライ効果バグダッドの死神など上手く組み合わせて話を構成しているが、やはり能力の唐突さやラストの核心までが消化不良な気がする。
読了日:1月3日 著者:百田尚樹

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