2014年の読書メーター

2014年の読書メーター
読んだ本の数:138冊
読んだページ数:48371ページ
ナイス数:8169ナイス

ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)感想
シリーズ6作目の題材は一冊丸ごと再び太宰治。前作でようやく想いが通じ合った大輔君と栞子さんの初々しさはもはやネタの域。ロマネスクの会の三人たち祖父母の世代、田中や大輔、栞子さんたち孫の世代、その間には智恵子さんがいて、それらの世代を超えて人々を魅了する太宰の『晩年』を巡って繰り広げられる因果の罪深さに古書の奥深さを感じます。少し人間関係が内輪で因縁めいて絡ませ過ぎな感はありますが、シリーズも残り僅かとなり、母娘の問題をはじめ、どう決着をつけるのか楽しみです。
読了日:12月31日 著者:三上延
有頂天家族 (幻冬舎文庫)有頂天家族 (幻冬舎文庫)感想
「面白きことは良きことなり!」母と長兄矢一郎を宿敵の夷川一族に囚われ、下鴨一族の絶対絶命のピンチにもかかわらず、偽叡山電車に化けた矢二郎と、矢三郎と矢四郎の三人が京都の町を疾走しながら高らかに唱和するシーンが最高すぎます。阿呆の血のしからしむるところの本能に忠実に従い、日々を面白おかしく生きる狸たち、傲慢で威張り散らす天狗、強欲で自分勝手な人間たち、それぞれ愛すべき者たちが京都を舞台にせめぎ合っている愉快な物語。昨夏のアニメを自動録画して消さずにいた僥倖により動く弁天さんを視られることに感謝。
読了日:12月17日 著者:森見登美彦
続・終物語 (講談社BOX)続・終物語 (講談社BOX)感想
前作で割りと綺麗に締めくくられたはずの阿良々木暦の物語。直江津高校を卒業し、高校生でも大学生でもない中途半端なアイドリングとでもいうような期間を過ごす暦が突如として迷い込んだ鏡の中の世界。待ち受けるのは、暦の知っているキャラとは全く違う、まさに鏡写しのような裏返しのヒロイン達。辻褄が合わなくて当然という、いささか著者の開き直りを感じるような世界の果てに暦が向き合うのは己の分身のような忍野扇。心残りに後ろ髪を引かれながら青春の終わりを軽やかに蛙のようなジャンプで、いざ飛び越えよう、そう”ひたぎ”と一緒に。
読了日:11月22日 著者:西尾維新,VOFAN
海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)感想
戦後、鐡造は資産の殆どを失ったにも関わらず、不屈の精神で誰一人として馘首することなく国岡商店の再建に奔走する。しかし、その前に立ちはだかるのは国際石油カルテルのセブンシスターズ外資からも国内からも敵視される中、日章丸で向かったのはイギリスと孤立無援の闘いを続けるイランのアバダン。波乱万丈の鐡造と国岡商店の苦難の歴史において、窮地に立たされた時に必ずといっていいほど理解者の救いの手があったのはひとえに鐡造の人間尊重の哲学の賜物だろう。僅か10ヶ月での徳山の精油所建設、日田さんへの弔辞には胸が熱くなる。
読了日:11月16日 著者:百田尚樹
海賊とよばれた男 上海賊とよばれた男 上感想
戦前戦後の動乱期において自らの信念と誇りを貫いた国岡鐡造と、その国岡が創り上げた国岡商店の物語。出光興産の創業者、出光佐三氏をモデルにした歴史経済小説でもある。敗戦により全てを失うも不屈の精神で立ち上がる第一章から始まり、第二章からは生い立ちから学生時代、国岡商店の創業と苦難を描く。鐡造の強い信念もさることながら、人生の大切な場面には出逢いと別れがあった。酒井商店の主人の賀一郎、創業資金を支援してくれた日田、最初の伴侶のユキ。そして、国岡商店を支えた働き者の従業員たち。そして戦争が終結し、物語は下巻へ。
読了日:11月10日 著者:百田尚樹
幸福な生活 (祥伝社文庫)幸福な生活 (祥伝社文庫)感想
衝撃のラスト1行!という触れ込みの19作のショート集。それぞれの話に登場人物や設定等の繋がりはないが、いずれも世にも奇妙な物語的テイストで最終頁をめくった後のオチの台詞で読者をあっと驚かせる仕掛けが施されている。とはいえ文庫化にあたって新たに収録された「賭けられた女」は、叙述トリックとしてその書き方は正直フェアとは言えない。合間の時間に気軽に楽しむにはいいが、技巧に拘りすぎて登場人物やストーリー自体の魅力と深みに欠け、「幸福な生活」というタイトルにした共通コンセプトも感じられず。世の中知らない方が幸せ?
読了日:11月9日 著者:百田尚樹
PSYCHO-PASS サイコパス (下) (角川文庫)PSYCHO-PASS サイコパス (下) (角川文庫)感想
犯罪傾向の高い者をシビュラシステムによる色相判定と犯罪係数により潜在犯として捕え犯罪の発生を未然に防ぐことができる世界。犯罪係数が決して上がることなく、システムでは裁けない槙島聖護によって引き起こされたサイコハザードが全てを覆す。朱の成長と反比例するかのような宜野座の色相の悪化。執拗に槙島に拘る狡噛。カガリの行方は?槙島を追う征陸と宜野座を待ちうける罠。刑事で有り続けることを朱に誓った狡噛の選択は。システムに隠された正義の意味とは。執行官と監視官、それぞれの登場人物の魅力が目一杯詰まった作品です。
読了日:11月8日 著者:深見真
PSYCHO-PASS サイコパス (上) (角川文庫)PSYCHO-PASS サイコパス (上) (角川文庫)感想
アニメ版は現在放送中の2期も含めてとても楽しんで視聴中。基本的にはアニメに忠実なノベライズなので、1期の振り返りには丁度いい感じです。人間の心理や性格志向がシビュラシステムによって数値化され、職業適性検査や相性、果ては犯罪を犯す可能性までが色相と犯罪係数によって判断される近未来。システムと繋がったドミネーターで潜在犯を追うのは執行官の狡噛と監視官の常森朱。好きなシーンは、朱を軽率と責める宜野座に向かって、新人と言えど同じ階級だから侮るなと朱が反論するのに対し、優しく諭す征陸さん素敵です。次は下巻へ。
読了日:11月6日 著者:深見真
仏果を得ず (双葉文庫)仏果を得ず (双葉文庫)感想
もっと早く読めば良かったと後悔しきり。文楽人形浄瑠璃義太夫として、芸の道を極めんとする健大夫が芸への情熱と恋の道に悩む姿を通じて、300年も前の人々の生き様や想いを現代に鮮やかに蘇らせる。なかでも、相三味線を務めるぶっきらぼうな兎一郎との関係性が徐々に変わっていく様がいい。他にも銀大夫や亀治、ミラちゃんや真智さんなども登場人物も魅力的。銀大夫師匠の妹の葬儀で健が語るシーンや月大夫の形見の床本を押し戴くシーンは感涙必至。健の成長を通じて、今を生きて生き抜いていく勇気と気概を持つことが出来る傑作です。
読了日:10月30日 著者:三浦しをん
宵山万華鏡 (集英社文庫)宵山万華鏡 (集英社文庫)感想
宵山で華やぐ京の町を舞台に、バレエ教室に通う姉妹の神隠し的迷い道から始まり、乙川の藤田に対する壮大な騙しのための偽祇園祭造りに奔走する山田川や小長井たちのドタバタ劇で和む。かと思いきや、延々と繰り返される宵山に囚われたのは、かつて宵山の日に幼い娘の行方が分からなくなった河野画伯と、遠く鞍馬の山で父を無くした画廊の柳さん。遠い記憶を繋ぐのは従姉妹の千鶴。そして、締めは姉の視点に戻る。前半と後半で大きく雰囲気を変える連作短編集だが、何が起きてもおかしくないと思わせる得体の知れない宵山の怪しさが溢れている。
読了日:10月26日 著者:森見登美彦
三匹のおっさん ふたたび三匹のおっさん ふたたび感想
帰ってきた三匹のおっさんたち。前作でもやもやの残った祐希の母の貴子さんがパート先で苦労を知る話から始めるのがいい。本屋の万引き問題やごみの不法投棄、「今どきの若者は」ならぬ「今どきの年寄り」問題、放火騒ぎまで、相変わらずの三匹の活躍。でも、すべてスッキリ痛快に解決する訳ではなく、世知辛いやるせなさを残すところが本作の特徴かも。そんな中、祐希や早苗の真っ直ぐな成長やシゲさんの息子の康生が祭りの復興に奔走する姿は、三匹の想いが次の世代にしっかりと根付いている証拠。そしてラストのキヨさんの変化と決断に拍手。
読了日:10月20日 著者:有川浩
オー!ファーザー (新潮文庫)オー!ファーザー (新潮文庫)感想
個性的でそれぞれ全くキャラの異なる父親が四人に、いつも居ない母親。こんな家族が居るなんて、本当に楽しさも頼もしさも4倍、そして寂しさも4倍。四人の父親の影響を受けて育った由紀夫が遭遇する様々な事件と脱線し続ける話の展開が面白くならない訳が無い。鱒二や多恵子など由紀夫を取り巻く登場人物との掛け合いも魅力。中でも異彩を放つのが富田林さんの緩急をつけた凄みと和み。あちこち散らばっているようで、最後には伏線を一気に回収するのもお手の物。どの父親も魅力的で、まさにオー!ファーザーといったナイスな読後感です。
読了日:10月18日 著者:伊坂幸太郎
残り全部バケーション残り全部バケーション感想
著者お得意の連作による五編の短編集。時系列も話も一見バラバラのようで、全てが関連して繋がっており、溝口とコンビを組む岡田、太田、高田、そして憎めない悪の親玉の毒島などの会話の楽しさも含めて伊坂ワールド全開。特に岡田が親に虐待される少年を助けようとする第二章「タキオン作戦」の壮大なでっち上げが面白かった。どの章も、人生を楽しんで生きればいいじゃないか、というテイストに溢れている。ラストは相変わらず余韻を残しての投げっぱなしでしたが、欲を言えばそこはもう一捻り加えて、やはり岡田に再度登場して欲しかったかな。
読了日:10月9日 著者:伊坂幸太郎
花の鎖 (文春文庫)花の鎖 (文春文庫)感想
第1章から第6章まで、3人のヒロインである梨花、紗月、美雪を主人公とし、その名の一部を冠する「花」「月」「雪」の3つのパートに分かれて物語は進んでいく。一見交わりはなさそうな3つの物語が、謎の「K」という人物ともう一つ重要なキーとなる花の記憶によって、やがて一つの物語へと繋がりを見せる。アカシア商店街の和菓子屋『梅香堂』のきんつばと『山本生花店』のリンドウ、そして画家香西路夫の『未明の月』が共通項となり、3人の女性を中心とした物語を鎖のように結びつける。母と娘の絆の強さを描いた「白い」方の湊さんです。
読了日:10月5日 著者:湊かなえ
よろず占い処 陰陽屋は混線中 (ポプラ文庫ピュアフル P[あ]4-7)よろず占い処 陰陽屋は混線中 (ポプラ文庫ピュアフル P[あ]4-7)感想
陰陽屋シリーズ第六弾。なんとか二年生に進級することができた妖狐高校生の瞬太。今回陰陽屋を含めて騒動の中心になるのは瞬太の数々の恋愛疑惑。晴れて新聞部となった部長の高坂との疑惑や前作から引き続き人探しで関わる三年の竹内など。いい加減、話進めてくれないかなぁと思っているところへ、ラスト数ページでの割と劇的な畳み掛けるような怒涛の展開。ちょっとズルい引きだなぁと思いつつ、これでまた次巻が気になる訳で結局上手いことやられてる訳です。天然コンビの瞬太&三井の二人はさておき、倉橋女史と高坂委員長の影の争いが見もの。
読了日:10月2日 著者:天野頌子
真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫 (ポプラ文庫 日本文学)真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫 (ポプラ文庫 日本文学)感想
真夜中にオープンする不思議なパン屋さんのシリーズ第四弾。人は誰しも何処かに暗い闇の部分を抱えているのに、ブランジェリーの暖かい雰囲気に少し油断していたみたい。のっけから希実の生易しくない過去を思い出させられ、突然現れた広島の従姉妹の沙耶がもたらした嵐は否応無くその封印されていた記憶を呼び覚ますきっかけとなった。希実の母の律子の奔放非道ぶりに辟易しながらも、希実を取り巻く弘基や斑目やソフィアさんたちの優しさが救い。真夜中に開店する理由も判明し、今回も読み応え十分でいよいよ物語も佳境。母との邂逅は如何に。
読了日:9月30日 著者:大沼紀子
キケン (新潮文庫)キケン (新潮文庫)感想
成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」、略称【キケン】。これがごく一般的な工科大学の姿なのかは文系にはわかりませんが、犯罪スレスレの実験、学祭のラーメン模擬店、恋愛など、とにかく楽しそうな学生生活のオンパレード。読みながらなぜ回顧形式で書いたのかが不思議でしたが、有川さんの後書きを読んで納得。これは、愛すべき馬鹿な男の子達の自慢話にも似た武勇伝を微笑みながら聞いてあげてね、という女子へのメッセージであり、思い出の居場所はいつまでも今に繋がってそこにあるよ、という男子へのエールでもあるんですね。
読了日:9月29日 著者:有川浩
Nのために (双葉文庫)Nのために (双葉文庫)感想
ドラマ化前に読了。マンションの一室で遺体で発見された野口貴弘・奈央子夫妻と、居合わせた杉下希美、西崎真人、成瀬慎司、安藤望。いずれも名にNのイニシャルを持つ。それぞれの証言から不倫の末の犯行として西崎が10年の刑を受けた。しかし、第2章以降にそれぞれの口から語られる事件の真相は全く異なるものであった。野口夫妻が殺された本当の理由とは?Nのためにとは誰なのか?神の視点を持つ読者だけがこの真実の中から多面的な立体パズルを構築することができる。でも登場人物たちが互いの想いをついぞ知ることはなく、それが切ない。
読了日:9月28日 著者:湊かなえ
福家警部補の報告 (創元クライム・クラブ)福家警部補の報告 (創元クライム・クラブ)感想
福家警部補を主人公とする倒叙ミステリシリーズ第三弾。2作目の感想に、「あとは名犯人の登場が待たれます」と書いた記憶がありますが、ついに本作の3話目「女神の微笑」にライバルと成り得る犯人として後藤夫妻が登場しました。ただ、本書で最も印象に残るのは第2話「少女の沈黙」。組の再興を目論む元構成員に誘拐された少女を救うべく罪を犯しながらも、組解散後の他の構成員たちの面倒を見るために捕まる訳にはいかない菅原兄貴と、あくまで仁義を貫きフェアに追い詰める福家警部補の争いは見ごたえ充分。そして結末は切なさに溢れている。
読了日:9月24日 著者:大倉崇裕
ストーリー・セラーストーリー・セラー感想
裏表のような二編の小説。Side:Aとなる一つ目は以前に短編集である「Story Seller」に掲載された、突然不治の病に侵された女性作家の物語。対して、Side:Bは作家の妻を持つ夫が病に倒れる話。いずれも、究極の選択を迫られた夫婦の強い絆を描いた物語。有川さんの文章からむき出しの感情がぶつかってくるようで受け止めるのにパワーが要ります。今回書き下ろされたBは自らの死に瀕した夫の想いがより鮮明だったためか、男性読者としてはより感情移入して読めて、こっちの方が好きですね。果たして、後書きはどこまで本当?
読了日:9月22日 著者:有川浩
よろず占い処 陰陽屋あらしの予感 (ポプラ文庫ピュアフル P[あ]4-6)よろず占い処 陰陽屋あらしの予感 (ポプラ文庫ピュアフル P[あ]4-6)感想
陰陽屋シリーズ第5巻。年越しの狐行列への参加を巡っての三井家の騒動から、瞬太の2年生進級危機の春までの4話。相変わらず、片思いの相手の三井さんには告白できず、三井さんの憧れの相手とはいったい誰?状態から抜け出せないまま年を越し、ドキドキのバレンタインデーも、谷中のばあちゃんの家の猫カフェ買収騒動に一役買っているうちに風邪で寝込んでしまって進展なし。「あらしの予感」と煽ったタイトルの割にはそろそろ、話を進めて欲しい気もするけど、そこはグッと我慢のほのぼの感が持ち味ということで、ゆっくりと見守りましょうか。
読了日:9月21日 著者:天野頌子
銀翼のイカロス銀翼のイカロス感想
半沢の今度の相手は破綻寸前の帝国航空、功名心にはやる新政権の白井大臣と、その命を受け再建を請け負うタスクフォース。裏には利権を貪る大物議員まで。旧Tと旧Sの対立は相変わらずで、敵の姿もどんどん大きくなる一方ですが、全く怯むこと無く変わらない半沢の姿に勇気づけられます。渡真利や近藤の登場はお約束ですが、何より地下迷宮の主の如き検査部の闇の特命担当トミさんこと富岡が頼りになりすぎてチート状態。その他にも中野渡頭取や黒崎検査官など見所満載。あと、開発投資銀行の谷川次長の話はスピンオフで詳しく読んでみたい。
読了日:9月20日 著者:池井戸潤
夜の国のクーパー夜の国のクーパー感想
現実と非現実の狭間のどこか不思議なファンタジー。妻に浮気された公務員の主人公が辿り着いたのは鉄国との戦争に負けた”この国”。猫のトム君が語るのは、大きな杉の化け物の”クーパー”や、複眼隊長に選ばれ、クーパーを倒して透明になるというクーパーの戦士の話、そして戦争や争いという避けようのない欲望と衝動。人間と猫、猫と鼠という対比を通して世界の成り立ちや秘密といった本質を描き出す。忙しかったせいもあるけど、読了に1週間まるまるかかってしまった。ちょっと冗長すぎてトム君のように欠伸が出てしまった気もするかな。
読了日:9月20日 著者:伊坂幸太郎
よろず占い処 陰陽屋アルバイト募集 (ポプラ文庫ピュアフル P[あ]4-4)よろず占い処 陰陽屋アルバイト募集 (ポプラ文庫ピュアフル P[あ]4-4)感想
陰陽屋シリーズ第4弾。今回、よろず占い処に持ち込まれる依頼は、倉橋女史の双子の兄からの恋愛相談、かつて祥明がナンバーワンを務めたホストクラブの同僚たちの人探し、ラーメンが美味しいお馴染みの上海亭の江美子さんからはグルメサイトでの誹謗中傷、そして幼馴染の槙原から庭に呪詛の品々を埋められているという相談の4件。特別なことが起こるわけではなく、瞬太と三井さんの仲が劇的に進展するわけではないのだけど何故か気になるのは、多分、息子が可愛くて仕方が無い吾郎とみどりと同じような保護者視点になってしまっているからかも。
読了日:9月13日 著者:天野頌子
銀行仕置人 (双葉文庫)銀行仕置人 (双葉文庫)感想
巨額融資を巡り陥れられた融資部エースの黒部次長が、人事部付の座敷牢のような隔離部屋から、銀行内部の腐敗を追及していく物語。結構初期の作品ながら今の鉄板の黄金パターンが確立されています。黒部が罠に嵌められる経緯と、復讐の動機、英人事部長から闇の指令を受けて臨店指導を装って影から追及していく様子などがストレートに描かれているため、非常に分かり易くて読みやすい。もちろん、最後は勧善懲悪で痛快なところも○。あと、池井戸作品に出てくる女性キャラは皆優秀ですね。本作では、後の花咲舞を彷彿させるような川嶋有理が魅力的。
読了日:9月12日 著者:池井戸潤
ガンコロリンガンコロリン感想
医療問題にまつわる五つの短編集。全体としては医療問題を共通テーマとして、ガンの特効薬の開発による外科医の絶滅やTPPによる医療の自由化の先にある病院のランク付けなど、現代の医療への認識に対する風刺と著者の皮肉たっぷりの警鐘を込めたショートショートといったところ。その反面、ノルガ王国に渡った渡海が登場する「緑剝樹の下で」と津波被害を受けた被災地へDMATの一員として駆けつける速水を描いた「被災地の空へ」は、ファンには嬉しいところだが短編集としては完全に毛色が違い過ぎて纏まりを欠いた印象が否めない。
読了日:9月11日 著者:海堂尊
おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)感想
今回も探偵役に指揮者まで岬先生大活躍です。相変わらず、著者が全く楽器が弾けないとは想像もできないくらいの迫力と疾走感、読んでいて高揚感を感じさせる演奏シーンの描写に圧倒されます。そして何より音大に通う音大生達が音楽家として行き続けて行くことの苦悩と葛藤が生々しく描かれている。密室から消えたストラディバリウスのチェロの盗難事件、学長のスタインウェイの破壊と音楽会の殺害予告などのミステリーであるところの本筋が霞んでしまうのはご愛嬌でしょうか。殺伐とした避難所での城戸晶と岬洋介の演奏シーンは鳥肌ものです。
読了日:9月6日 著者:中山七里
死亡フラグが立ちました! ~カレーde人類滅亡!? 殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)死亡フラグが立ちました! ~カレーde人類滅亡!? 殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)感想
しまった。間違えてこちらから読んでしまった。本宮先輩がノストラダムスの予言から世界を救った話や死神との因縁が前作を読んでいないためわからなくて非常に残念。あらすじを書く類の話ではないですが、魔女のアベーユの血を引くカバラ会と呪いのビデオなどの荒唐無稽で徹底的に馬鹿馬鹿しい設定と、やたら人が死ぬ不謹慎極まりない内容ですが、本宮先輩のダイハードばりの活躍が見所なんですかね。それにしても、魔女の正体には驚かされました。肝心のカレーのくだりは必要なんだか、本当に何でもありっていうか楽しんだもの勝ちのような感じ。
読了日:9月2日 著者:七尾与史
【文庫】 その時までサヨナラ (文芸社文庫)【文庫】 その時までサヨナラ (文芸社文庫)感想
10年ぐらい前に「リアル鬼ごっこ」を読んだ時の悪い意味での衝撃が忘れられず、以来著者の作品からは遠ざかっていましたが、久しぶりに手にとってみました。流石にあれから長く人気作家として作品を出し続けられているせいか、随分と読み易く感じました(失礼?)。仕事人間で家庭を省みることのなかった男が、震災事故で妻を亡くしたことをきっかけに、突然押しかけてきた謎の女性と共に4歳の息子との生活に向き合うという、意外なことにホラー作品ではなくほんわかとした作品でしたが、ラストにかけてのオチは容易に予想できてしまいましたね。
読了日:9月1日 著者:山田悠介
死神の浮力死神の浮力感想
待つこと10ヶ月、ようやく読むことができました。短編集だった「死神の精度」と違って今度は長編により理不尽に娘を奪われた山野辺遼と美樹夫妻との7日間を描く。サイコパスとも言うべき犯人、本城崇への復讐という重いテーマながら、相変わらず死神の千葉のズレっぷりによって「久しぶりに楽しかった」と笑う山野辺夫妻の姿に読者も救われた気分になる。最後は、まさかの還元キャンペーンによるオチに溜飲が下がる思い。そして、千葉の揺るがぬ判断とエピローグで描かれたその後の姿にホロリとさせられます。もっと千葉の活躍を続編で見たい。
読了日:8月30日 著者:伊坂幸太郎
よろず占い処 陰陽屋の恋のろい (ポプラ文庫ピュアフル)よろず占い処 陰陽屋の恋のろい (ポプラ文庫ピュアフル)感想
陰陽屋シリーズ第3弾。季節は夏になり、お決まりのような夏休み、文化祭といかにも高校生らしい行事が今回の舞台。よろず占い処である祥明のもとを訪れる依頼人は文化祭のヒロイン争い、商店街の晴れ乞い、槙原の妹夫婦の離婚調停騒ぎなど相変わらず盛況の様子。そんな中、みどりの病院の謎の入院患者の行方がわかったことや瞬太と三井さんの関係がちょっと前進したのは良かった。最後に三井さんが祥明に相談していた内容の中身など今後が気になる思わせぶりな展開も。そして、やはり祥明の母優貴子の行動力は恐ろしすぎます。
読了日:8月30日 著者:天野頌子
陰陽屋あやうし (ポプラ文庫ピュアフル)陰陽屋あやうし (ポプラ文庫ピュアフル)感想
陰陽屋シリーズ第2弾。高坂委員長や憧れの三井さん、倉橋さん達と共に運良く都立飛鳥高校に進学した瞬太。瞬太のアルバイト禁止危機や、ホスト祥明の結婚迫られ事件、三井さんのストーカー騒ぎ、瞬太の母みどりの勤める病院での幽霊騒動など、「あやうし」というタイトルほどの危機や大事件は起こらず、二作目としてはややパンチに欠けるような気はするものの、相変わらずほのぼのとして安定した内容でサクサク読める。祥明の祖父の登場による瞬太の秘密への手がかりが出てきたり、三井さんとの距離が少し縮まったり、今後の展開が楽しみです。
読了日:8月28日 著者:天野頌子
平台がおまちかね (創元推理文庫)平台がおまちかね (創元推理文庫)感想
今度の主役は書店員ではなく、出版社営業マンの井辻くん。タイトルの平台とはパチンコ台の方ではなく(古い?)書店の本棚で平積みの本が置いてある台のこと。入社間もない井辻くんの奮闘ぶりとある意味仲間とも言える同業の他社営業マン達との掛け合いも面白い。特に佐伯出版の真柴との「それで、ひつじくん」「井辻ですけど」のしつこいまでの繰り返しも終いには癖になってくる。また営業視点からみた出版業界も興味深い。中でも「絵本の神さま」は地方書店の現状と親子の想いにホロリとさせられる。ほのぼのミステリものだが読み応え充分。
読了日:8月17日 著者:大崎梢
ようこそ、わが家へ (小学館文庫)ようこそ、わが家へ (小学館文庫)感想
真面目が取り柄、小市民の代表のようなサラリーマンである倉田が、ある日駅のホームで割り込みを注意したところから、一家に対する嫌がらせが始まり、正体のわからない不安に陥れられていく。そして、会社では銀行からの出向扱いで軽んじられながら、有能な部下の摂子と共に営業部長の真瀬の不正を暴くため奔走する。二つのサスペンスが交錯するハラハラの展開が見どころ。愚直なまでに真っ直ぐに生きてきた自負に輝きを当てるラストに、誰もが自分の当たり前の日常という人生を一生懸命に生きていることへの著者からのエールが感じられる。
読了日:8月17日 著者:池井戸潤
プリズム (幻冬舎文庫)プリズム (幻冬舎文庫)感想
「プリズム」とは、一つに見える光の中の様々な波長の光を屈折させる多面体のこと、そしてまた人の内面も同じようなものかもしれない。解離性同一性障害をテーマにした本作では、いわゆる多重人格といわれる症状を持つ「実は存在しない男」と家庭を持つ聡子との悲しい恋愛を描く。百田さんらしく一つのテーマに絞って調べ上げた様々な要素をすべて盛り込んで一つの作品に仕上げている点は相変わらずだが、割と進藤先生や聡子の夫の康弘を使った説明は上手くいっている感じ。展開はやや強引ながら、こんな物語の描き方もあるのかと感心。
読了日:8月17日 著者:百田尚樹
オーダーは探偵に 砂糖とミルクとスプーン一杯の謎解きを (メディアワークス文庫)オーダーは探偵に 砂糖とミルクとスプーン一杯の謎解きを (メディアワークス文庫)感想
就活に励むドジっ子天然の女子大生の美久、スマートで親切な人の良い喫茶店のマスターの真紘、そして毒舌ドSの美形王子キャラの悠貴。謎を解くと知られる喫茶店エメラルドに持ち込まれる依頼をドS探偵が解き明かす。何だかいかにもな設定のオンパレードです。出だしは悠貴のキャラに不安一杯でしたが、三話〜四話の謎解きは爽快で、「内舘、走れ」のたった二言の短い言葉が非常に印象的でした。それから、ラストの「これは炭酸だ」もシャレが効いていてスッキリとしたサイダーのように自然と笑顔が弾けるような気持ちのいい話でした。
読了日:8月15日 著者:近江泉美
配達あかずきん―成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)配達あかずきん―成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)感想
思いがけず書店ものが続きました。駅ビルにある書店、成風堂を舞台に、書店員の杏子とアルバイトの多恵が、お客が巻き起こす本にまつわる謎を解き明かしていく六つの短編からなる書店ミステリ。ちょっと謎解きに巻き込まれる導入部分の強引さ(そんなに気軽に書店員に話しかけます?)や多恵の勘の冴えがチート気味なところが気になるところですが、「標目にて君が袖振る」や「六冊目のメッセージ」などのラブストーリーがほっこりしていい感じ。有名な作品の題名も多数出てきて、本好き、本屋好きには堪らない感じです。
読了日:8月15日 著者:大崎梢
書店ガール 3 (PHP文芸文庫)書店ガール 3 (PHP文芸文庫)感想
東北を含む東日本エリア長を任されることになった理子と、育休から復帰し新たに経済書の担当になった亜紀。理子は傘下に治めることになった東北の老舗書店の櫂文堂で店長代理の沢村との関係に、亜紀は子育てと仕事の両立と本部への異動という選択にそれぞれ悩みを抱えている。このシリーズも震災という大きなテーマを取り入れることで、書店あるあるや単なるお仕事話ではなく、書店が持つ社会的な可能性や本そのものが持つ力というしっかりした軸が出来たように思う。書店員がこの仕事を愛し、情熱を持って棚を作っている様が確かに感じられる。
読了日:8月7日 著者:碧野圭
生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)感想
北海道沖の原油採掘基地で起きた職員全員の無残な死体の発見を皮切りに、北海道各地で発生する原因不明のパンデミックと思しき惨劇により次々と町が壊滅していく。命を賭して未知の恐怖に立ち向かう廻田たち自衛隊の壮絶さ、妻子を亡くし次第に正気を失っていく富樫博士、そして危機に際して余りにも無能な政府首脳たち。正体不明の恐怖による前半のあおりが緊迫感あるだけに、後半の弓削博士が登場してからの原因解明と終息に至るまでの失速感がちょっと残念。パウロの預言や神の啓示などの要素も読者としてはやや消化不良感が否めない。
読了日:7月29日 著者:安生正
シャイロックの子供たち (文春文庫)シャイロックの子供たち (文春文庫)感想
東京第一銀行のとある支店を舞台に、支店長をはじめ副支店長、業務部、融資部、業務部など、銀行という一つの世界に囚われた様々な部署と役職の人々が複雑に入り組んで輻輳し、さらに途中からはミステリの様相まで呈する連作短編集。個人の想いや家族の都合より組織の論理が優先する世界における悲哀や焦燥感が悲しいほど的確に描写されており、特に子供のいる人にとっては辛い内容で爽快感とは程遠いが、働く上で大切にすべきもの、守らなければならないものは何か、あなたは誇りを失わず矜恃を持ち続けられるのかと問いかけられているかのよう。
読了日:7月29日 著者:池井戸潤
僕が七不思議になったわけ (メディアワークス文庫)僕が七不思議になったわけ (メディアワークス文庫)感想
第20回電撃大賞金賞作品。突然、桜の精霊のテンコによって学校の新しい七不思議に選ばれた中崎君がトイレの花子さんや何でも見通す赤い目を持つアカメたちの力を借りながら学園で起こる事件を解決するミステリアスファンタジー。正直言って台詞回しや文章構成は拙さを感じますが、章ごとの一人称の変化、朝倉さん姉妹との関わり、姉の形見のイヤリングの伏線に加え、ラストの真実の種明かしに至る展開はなかなかの仕掛け。うん、まぁ、帯の時雨沢さんと同じく、見事に騙されましたね。
読了日:7月26日 著者:小川晴央
新装版 不祥事 (講談社文庫)新装版 不祥事 (講談社文庫)感想
ドラマの原作本。池井戸さんには珍しく?女性が主人公の物語ですが、花咲舞のキャラがとにかく痛快で、どんな相手にも怯むことなく正論をぶつけ、啖呵を切る、時には手も足も出るとまさに銀行という巨大な組織の闇を相手にやりたい放題やってくれます。8話の短編から構成されていますが、連作として繋がっているので長編的な楽しみもあります。花咲、相馬コンビと相対する真藤、児玉一派も決して絶対的な悪役として描かれている訳ではなく、ラスト付近の現実的な落としどころも池井戸さんらしい展開。もっと”狂咲”の活躍が見てみたくなりますね。
読了日:7月24日 著者:池井戸潤
よろず占い処 陰陽屋へようこそ (ポプラ文庫ピュアフル)よろず占い処 陰陽屋へようこそ (ポプラ文庫ピュアフル)感想
素性不詳の長髪イケメンインチキ?陰陽屋の安倍祥明(後に出自とそれを隠す理由は明かされる)と、稲荷神社に捨てられていた過去と狐耳の持ち主で中学生の妖狐(本人は隠しているつもりだが実は隠せていない)、瞬太がささやかな日常の謎を解決する心温まるストーリー。いかにも受けを狙いすぎな設定にちょっと辟易しつつも、毒舌ながら最後は親身になる祥明と瞬太の愛らしいキャラのコンビによる敢えて詰めの甘い謎解きに、真実を追求し切らない優しさを感じる。しかし、祥明の母のキャラとエピソードは許容範囲を越えててちょっと笑い飛ばせない。
読了日:7月22日 著者:天野頌子
もういちど生まれる (幻冬舎文庫)もういちど生まれる (幻冬舎文庫)感想
短編集だと思いながら読んでいたら、主人公や登場人物たちの視点が入れ替わりながら輻輳的に進んでいく連作短編集でした。19歳から20歳という人生における大切な一瞬を刹那的に切り取ったかのような作品群はいかにも朝井さんらしい。「もういちど生まれる」というタイトルの意味とは?「破りたかったものすべて」とは誰が何を破りたいのか?読み進めていくうちに、それぞれの登場人物たちの関係性とともに胸の内に秘められた思いが明らかになっていくにつれ、切なさは増すばかり。中でもナツとハルの兄弟のすれ違いが辛い。
読了日:7月19日 著者:朝井リョウ
世界堂書店 (文春文庫)世界堂書店 (文春文庫)感想
米澤さんが愛する、世界各国、古今東西の短編小説を集めたアンソロジー。こうした機会でもなければ、おそらくは触れることは無かったであろう外国作品の数々。米澤さんのルーツを知るようで興味深い。収められた15篇の作品は読みやすいものから一風変わったものまでバラエティに富んだ構成。個人的に面白かったのは、「東洋趣味」「昔の借りを返す話」「私はあなたと暮らしているけど、あなたはそれを知らない」「十五人の殺人者たち」あたりでしょうか。たまには、少し変わった世界に触れてみるのもいいかも。
読了日:7月18日 著者:
書店ガール 2 最強のふたり (PHP文芸文庫)書店ガール 2 最強のふたり (PHP文芸文庫)感想
ペガサス書店から吉祥寺の新興堂書店に舞台を移し、店長として転職した理子と、同じく共に働くこととした亜紀。前作のドロドロさに比べ互いに大人になった二人の関係性。そんな中、亜紀の妊娠という出来事が二人だけではなく、伸光や周りの人達を巻き込んで女性が働くことの難しさと意義を考えさせられる。担当雑誌の回収騒ぎや吉祥寺の書店を巻き込んでの50年後も残したい本のフェアを通じ、本と本屋の力を信じる理子、亜紀や伸光たち皆が一回り大きくなったようで、前向きでとても気持ちのいい読後感。田代と理子のラストは切ないの一言。
読了日:7月13日 著者:碧野圭
書店ガール (PHP文芸文庫)書店ガール (PHP文芸文庫)感想
本屋の雰囲気や待ち合わせの思い出など、書店という存在は何となく惹かれるものがあります。吉祥寺にある老舗のペガサス書店を舞台に、跳ねっ返りのお嬢様、怖いもの知らずの亜紀と、四十路の独身遣り手書店員で閉店を余儀無くされた店の店長を押し付けられた理子が、ぶつかり合いながらも店を救うべく奮闘する。POPの扱いや本の並べ方など本屋さんあるあるがリアル。バラバラだった書店員たちが段々と結束していく様子は読んでいて面白かったが、如何せん最初の方の女性同士のドロドロが怖過ぎて若干引く。男達は皆だらしな過ぎ(≧∇≦)
読了日:6月29日 著者:碧野圭
新装版 銀行総務特命 (講談社文庫)新装版 銀行総務特命 (講談社文庫)感想
帝都銀行の総務部特命担当の指宿調査役が銀行内の顧客名簿流出や行員のAV出演疑惑、裏金疑惑などの不祥事を暴いていく。とは言っても勧善懲悪の世直しもののようなスカッとしたドラマチックな内容ではなく、指宿修平の冷静沈着な人となりと途中で人事部から仲間に加わる唐木怜とのコンビも絶妙で、重厚で緊張感のあるミステリーといった印象。それにしても、こんなに特命が活躍しないといけないんだったら、帝都銀行の幹部役員がいなくなってしまうのではないかと心配になってしまう。銀行って本当に悪い人がいっぱい居るんですね(≧∇≦)
読了日:6月21日 著者:池井戸潤
玉村警部補の災難 (『このミス』大賞シリーズ)玉村警部補の災難 (『このミス』大賞シリーズ)感想
いつも警察庁の電子猟犬デジタルハウンドドッグこと加納警視正にこき使われる玉村警部補と田口先生が互いの境遇を慰め合いながら4つの事件を振り返る形式の短編集。一つ目の二十三区外殺人事件はイノセントゲリラの祝祭の文庫化にあたって内包されています。あと、青空迷宮事件は名称だけケルベロスのでも肖像で出てきたような記憶が。他にDNA鑑定と治験を絡めたトリックの四兆七千分の一の憂鬱と、死体歯科医というこれで一シリーズ書けそうな題材のエナメルの証言。ユナちんと桜宮の平和を守るタマちゃんに平穏の日々は訪れるのか。
読了日:6月20日 著者:海堂尊
ナニワ・モンスターナニワ・モンスター感想
浪速の地を舞台にスカラムーシュ彦根が八面六臂の暗躍ぶりを見せつける。現実に数年前に起きた、新型インフルエンザ発生時の擬似パンデミックによる集団パニックにも似た騒動を思い起こさせる内容と、裏で霞が関官僚(やはりその中心は斑鳩)が糸を引く陰謀を絡ませてサスペンス風に仕上げてあって面白い。物語終盤でようやく、大阪のアノ人を彷彿させる浪速の龍、村雨知事がスリジエの時のあの切れ者村雨秘書だと気付く。その村雨が思い描く日本再編の将来像に不可欠な彦根とカマイタチ鎌形。二人の両雄が並び立つ未来は無いのか?続きが気になる。
読了日:6月18日 著者:海堂尊
医学のたまご (ミステリーYA!)医学のたまご (ミステリーYA!)感想
中高生向けに書かれたという作品だがお馴染みの顔も多数登場。曾根崎ステルス伸一郎の息子である中学生の薫が潜在能力テストで全国1位になって飛び級で東城大学医学部に入学しレティノに関する画期的な論文を発表する!という奇想天外な設定だけれど、それら全てがハリボテなのが面白い。実際の薫は勉強が苦手な落ちこぼれ中学生。論文の捏造疑惑に巻き込まれるが、美智子や三田村などの同級生や、高校生になった佐々木アツシや桃倉に助けられ、自分の道を見出していく薫の成長が眩しい。伸一郎の薫への愛情と名言一杯の手紙のやり取りが印象的。
読了日:6月15日 著者:海堂尊
輝天炎上 (角川文庫)輝天炎上 (角川文庫)感想
冷泉、ハコを従えたラッキーペガサス天馬の視点から描いたケルベロスの肖像のもう一つのストーリーでもあり、螺鈿迷宮の続編として桜宮一族と東城大との因縁を描いた作品でもある。第二部の女帝の進軍では極北市で起きた医療事故の裏側の小百合が描かれ、第三部の透明な声では遂にあの人の消息と裏での動き(と意外な人との血縁関係)が明らかに。遠い昔の天城の夢を再び桜宮岬に運んできたマリツィアに導かれ、すべての怨念が集積されるかのようにケルベロスタワーは終焉の時を迎える。すみれへの想いを抱え、天馬はこの後何処へ向かうのだろう。
読了日:6月15日 著者:海堂尊
マドンナ・ヴェルデ (新潮文庫)マドンナ・ヴェルデ (新潮文庫)感想
「ジーンワルツ」を、曽根崎理恵の母であり、代理母を務めた山咲みどりの視点から描いた作品。こうして表と裏のように物語を見ることで、医師としての理恵の狂気とみどりの母としての逆襲の観点が明確になる。そして、相容れなかった母娘を繋ぎ直したヤンママのユミの力強さが救いになった。また、みどりの妊娠期間とともに移り行く季節と合わせて章頭を彩った料理の描写と合理主義者であるステルス伸一郎との手紙のやり取りを通して露わになっていく伸一郎の人間味が印象的。二人の母親に育てられることになった子供たちの将来が明るいことを願う。
読了日:6月14日 著者:海堂尊
ジェネラル・ルージュの伝説 (宝島社文庫) (宝島社文庫 C か 1-9)ジェネラル・ルージュの伝説 (宝島社文庫) (宝島社文庫 C か 1-9)感想
みんな大好き速水晃一のジェネラルルージュ伝説が誕生した城東デパート火災の舞台裏を描く「伝説-1991」から始まり、これまた「凱旋」の裏側を鉄血宰相三船事務長の視点で描く「疾風-2006」、そしてジェネラル無き後のオレンジ病棟を如月翔子と共に守り続ける佐藤ちゃんの想いに焦点を当てた「残照-2007」。いずれも海堂作品が生んだ速水晃一という稀有なキャラなしには成り立たない物語。後半は、海堂さんの自分史と各作品の執筆解説と裏話、さらに桜宮市年表と素人には難しかった医学用語辞典付きとサービス満点の1冊。
読了日:6月14日 著者:海堂尊
夢見る黄金地球儀 (創元推理文庫)夢見る黄金地球儀 (創元推理文庫)感想
花房さんも愛したボンクラボヤとふるさと創生1億円を活用して造られた黄金地球儀を展示する桜宮アクアリウム・深海館。桜宮市で父親の町工場を夫婦で手伝う平沼平介の前に久しぶりに現れたガラスのジョーこと久光穣治が持ちかけたのは黄金地球儀の強奪作戦。海堂作品にも関わらず医療を題材としないものの、共感覚を持つあの歌姫も加えた新生4Sエージェンシーも交えて、相棒のジョーと怪力の殿村アイと共に、黄金地球儀を巡る騙し騙され二転三転のコンゲームが繰り広げられます。まぁ正直な感想としては医療ものばかりの中の箸休め程度ですかね。
読了日:6月13日 著者:海堂尊
モルフェウスの領域 (角川文庫)モルフェウスの領域 (角川文庫)感想
先ずは「アツシ隊員、おかえりなさい、なのであります!」ナイチンゲールの沈黙で網膜芽腫により片目眼球摘出を受けたものの、その後の再発により治療法確立まで凍眠<コールドスリープ>することを選んだ当時9歳の佐々木アツシ。<モルフェウス>と呼び5年間見守り続けた日々野涼子。桜宮サーガの世界観の年齢矛盾をSFで解決してしまう海堂氏には恐れ入る。大海原を渡る名を持つあの医師のブラックペアンの後の消息を知れたのも嬉しい。ジーンワルツの理恵の夫、ステルスシンイチロウこと曽根崎博士の無敵ぶりなど盛り沢山すぎて書ききれない。
読了日:6月11日 著者:海堂尊
ケルベロスの肖像ケルベロスの肖像感想
遂に完成の時を迎えたAiセンター<ケルベロスの塔>を舞台に、過去のブラックペアン遺残事故や二十年前に天城の夢であったスリジエセンターを阻止したことに対する高階病院長の懺悔から始まり、そこへ螺鈿迷宮で燃え尽きたはずの桜宮一族の怨念までもが、桜宮全体を取り巻く呪いが一気に高階の元へ収束していく。田口、白鳥に彦根やシオン、姫宮、天馬、西園寺さやか、南雲、斑鳩とこれまでのオールスターキャスト総出演で過去の因縁との決着と桜宮の未来を占う闘いが繰り広げられる。それにしても田口先生、成長したねぇ。
読了日:6月8日 著者:海堂尊
ジーン・ワルツ (新潮文庫)ジーン・ワルツ (新潮文庫)感想
帝華大医学部の体外受精のエキスパートである<クールウィッチ>曾根崎理恵と、かつて速水と医鷲旗を巡って争ったライバル清川准教授を中心にした不妊治療と代理出産をテーマにした作品。出産と生命の神秘という大きなテーマを抱え、また一つ海堂ワールドが拡がってしまった。危機に瀕する地方の産科医療の現実を体現したマリアクリニックで繰り広げられた奇跡のような4組の出産シーンには、なんと女性とは強いものなのだと感嘆せざるを得ない。曾根崎と清川の向かう先も気になる。産科小児医療を巡る現状に対する問題提起が厳しく突き付けられる。
読了日:6月7日 著者:海堂尊
ひかりの剣 (文春文庫)ひかりの剣 (文春文庫)感想
医学部剣道部が目指す医鷲旗大会を舞台に、東城大の<猛虎>炎の緋胴、速水晃一と帝華大の<伏龍>清川吾郎の対決を描く。お馴染みの田口、島津との緩い学生生活や世良との臨床研修などの裏側も登場する。また高階の両大学を手玉に取った顧問ぶりと渡海が去った後の立ち去り稽古も鬼気迫るものがあった。ただ、それ以上に2年に渡る医鷲旗を巡る東條大と帝華大の争い、朝比奈や清川弟、崇徳館の天童や極北大の水沢たちとの対決を超えて対峙した速水と清川の闘いには身震いする程の迫力を感じました。清々しい青春小説として楽しめました。
読了日:6月7日 著者:海堂尊
スリジエセンター1991スリジエセンター1991感想
ブラックペアンシリーズ、またバブル三部作とも言われるシリーズの最後を飾る三作目。神の手を持つ天才外科医天城が夢見るスリジエセンターの設立に後の東城医大病院長であるクイーン高階が立ちはだかる。まだ医学生の彦根やじゃじゃ馬速水の入局、そしてジェネラルルージュ伝説の誕生となる城東デパート火災事故の発生など見所も豊富。後の物語を知っている読者にはスリジエセンターが実現していないことは既定の歴史なのだけれど清廉なまでに己の夢に忠実であった天城のことは決して忘れないだろう。海堂作品の中でも屈指のシリーズだと思う。
読了日:6月5日 著者:海堂尊
ブレイズメス1990 (講談社文庫)ブレイズメス1990 (講談社文庫)感想
ブラックペアンに続いて一気に読了。2年後の物語はフランスのニースからモナコ公国まで舞台を広げ、それにふさわしくまたもや一人の強烈なキャラの持ち主、世界でただ一人ダイレクト・アナストモーシスという術式をこなす天才心臓外科医の天城雪彦が登場。世良がジュノ(青二才)と呼ばれるのはまだしも、前作あれだけ暴れまわった高階でさえ子供扱い。日本発となる公開手術の成否や心臓専門病院となるスリジエ・ハートセンターの行方など息もつかせぬ怒涛の展開。それにしても良いところで終わる。世良と天城や高階の今後が気になって仕方がない。
読了日:6月2日 著者:海堂尊
ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)感想
東城医大の総合外科学教室を率いる天才外科医の佐伯教授と天下の帝華大からの刺客、小天狗こと高階講師に、父親の代から佐伯との因縁を持つ凄腕の渡海、若さゆえの正義感を持った世良。それぞれが正しさを追い求め、ぶつかり合う様がシンプルなストーリー構成ゆえに、ガン告知などの当時の医療が抱えていた問題と合わせてすんなり入ってきました。後の姿や考えを知っているからこそ、若かりし頃のそれぞれの思いがぶつかった挙句のこの結末には感慨深いものがある。あと、例の医学生三人の手術見学とレポートも個性が出ていて面白かった。
読了日:6月1日 著者:海堂尊
ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)感想
極北シリーズでお馴染みの世良先生が東城医大の医局に入りたての新米外科研修医時代を描く。先に極北シリーズを読んでしまったのをちょっと後悔していたが、逆にこんな初々しい頃もあったのかと思える利点もあったかもしれない。20年後に桜宮を騒がせることになる面々、高階講師や黒崎助教授、まだ学部生の速水、島津、田口の三人、藤原婦長と猫田主任、そして同じく一年目の花房看護婦など。世良先生にもこんなに真っ直ぐに外科医だった頃があったんですね。それにしても上下巻にする意味が全く感じられない厚さと文字の大きさです。
読了日:6月1日 著者:海堂尊
砂上のファンファーレ砂上のファンファーレ感想
現在公開されている映画「ぼくたちの家族」の原作で、文庫版では映画タイトルと同名に改題統一されているようです。作中の、いつでも家庭の方を向いている平成的父親という表現に時代を感じます。突然母親を襲った病魔をきっかけに、頼りない父親と息子二人が母親のために奔走する中で家族として再生していく物語です。おそらく題材としては素晴らしいと思うのですが、展開がチグハグでバタバタした印象で、もっと盛り上げて泣かせられる筈なのに惜しいなぁという感想。とにかく次男の俊平がいい味を出していて、きっと映画は傑作な気がします。
読了日:5月30日 著者:早見和真
首折り男のための協奏曲首折り男のための協奏曲感想
首折り男の、と言いながら実際に首折り男が関係する話はいずれもストーリセラーに収録されていた「首折り男の周辺」と「合コンの話」の他には「濡れ衣の話」ぐらいで、あとは黒澤さんの話だったような気がしますが、一見取り止めなく短編集に見えて何処か繋がりを感じさせるところが伊坂さんならではでしょうか。黒澤さんの味がよく出ていて、水兵リーベ僕の舟なんかはとても上手くまとまっていて、独特の雰囲気が面白い。最後の合コンの話は、よくもまぁこんな何気ない合コンの一風景を何だか素敵風な物語に仕立て上げられるものだと感心します。
読了日:5月28日 著者:伊坂幸太郎
ガソリン生活ガソリン生活感想
一人称”僕”は”緑デミ”ことマツダの緑のデミオ。車達の愉快な日常と、運転する人間達の巻き起こす事件が絡んだまるで伊坂版機関車トーマス(車版)のようなお話。同じマツダながら我が愛車のRXー8がほんのチョイ役でしか登場しなかったのがちょっと残念ですが、個性的な車達が本当にこんな風に停車中やすれ違いざまに互いに会話しあっていると想像したらきっと面白いだろうな。伏線回収のスッキリ感とエピローグのほっこり感もあって非常に爽やかな読後感。大事に車に乗らなければ「まったくうちの主人は…」なんてぼやかれてるかもしれない。
読了日:5月24日 著者:伊坂幸太郎
終物語 (下) (講談社BOX)終物語 (下) (講談社BOX)感想
我らがアイドル八九寺真宵との再会を祝して乾杯!と思ったらそこは何と地獄という状況に戸惑いながら始まった「まよいヘル」。久しぶりのきちんとした登場すぎて戦場ヶ原さんのキャラぶれまくりの「ひたぎランデブー」。そして、ファイナルシーズンの事実上のラストを飾るのは忍野扇との決着をつける「おうぎダーク」。最後に相応しく、千秋楽の様相で親切丁寧な伏線回収の説明付きで色々忘れてる身には助かります。遂に迎える物語の終わり、そして阿良々木暦の青春の終わり。さて、最終ならぬ再終巻との「続・終物語」はどんな内容になることやら。
読了日:5月24日 著者:西尾維新,VOFAN
PKPK感想
「PK」はA,B,C…、「超人」は1,2,3…、「密使」は私と僕、といったように一人称や視点を切り替えながら、相互に関連しあった壮大なバタフライ効果のようなお話。特に密使はタイムパラドックスや平行世界の存在などを絡めており、一見取っ付きにくさもあるものの全体としての一貫性があるためわかりにくくはない。人物相関をメモしながら読むと繋がりがわかりやすくなってより楽しいと思われます。全体のテーマとして言いたかったのは”臆病は伝染する。そして、勇気も伝染する”でしょうか。未来はいつでもその手の中にある。
読了日:5月23日 著者:伊坂幸太郎
極北ラプソディ極北ラプソディ感想
前作となる極北クレイマーを読んだのが約1年前で余り細かい所を覚えてないのがちょっと痛かった。最後に少し弱気を見せたのが少し頂けませんが、世良医師の確固たる意思による自治体の破綻と救急医療への警鐘、ついでに馴れ合いの記者クラブ制度への突っ込みは容赦ない。日本三分の計どころか北海道発日本統一の野望の大風呂敷には恐れ入る。見所は北の地でも相変わらず傍若無人なジェネラル速水とドクターヘリパイロット大月&CS越川のプライドがぶつかるガチンコ飲み比べか。それにしても花房師長、貴女の居場所がまさか其処だったなんて…
読了日:5月20日 著者:海堂尊
少女 (双葉文庫)少女 (双葉文庫)感想
湊さんお馴染みの独白形式ながら、*が由紀、**が敦子と、二人の女子高生の視点を切り替えながら物語は進んでいく。いわゆる「少女」と言われる最も多感な時期の、情動的で短絡的な反面冷酷で残酷とも言える行動に戸惑いを覚え、もしこれが一般的だというのであれば、理解することは到底叶わないと思ってしまう。物語は初めの遺書<前>、序章から仕掛けが施されており、複雑に(都合良く?)人の中にある悪意と報いが絡み合うまさに因果応報の展開。読み終えての感想は、冤罪が怖くてますます満員電車には乗れなくなりそうです(≧∇≦)
読了日:5月18日 著者:湊かなえ
さいはての彼女 (角川文庫)さいはての彼女 (角川文庫)感想
4人の女性(凪を入れると5人かな)の出会いと再生の旅を描いた4つの短編集。とりわけ一人旅というのは社会的な肩書も普段の自分も関係なく、非日常のなかで自然と旅先で出会う出来事や人々とまっさらな一人の自分として対峙せざるを得ない。相棒のハーレー「さいはて」と共に爽やかに全国を駆け抜けるナギの風のような生き方が気持ちいい。バイク乗りの連帯感というか、出会ってすぐに打ち解けられる感じがよく伝わってきます。そして、ナガラがハグに宛てた「人生をもっと足掻こう」のエールはきっと多くの読者(特に女性)を勇気づけるだろう。
読了日:5月17日 著者:原田マハ
白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)感想
本当に人の噂話や真実が歪曲されていく怖さと言うか、一見悪意の無い匿名という衣に隠れた醜悪さをしみじみと感じます。現代版の藪の中のように、SNSなどのネットや雑誌を舞台としながら、週刊誌のフリー記者の赤星(ハンドルネームはRED_STAR)からのインタビュー形式で進んでいき、取材を受ける人によって全く印象が変わっていく城野美姫の人物像に翻弄され、最後に明かされる事件の真相にも驚かされます。なお、最後にまとめて掲載してある資料は各章毎に随時参照しながら読むべきで、少し読み方を間違えていたようです。
読了日:5月17日 著者:湊かなえ
リカーシブルリカーシブル感想
血の繋がらない弟と母と共にとある町へ引っ越してきたハルカ。入学した中学校で友人となったリンカ(少し前に読んだstoryseller2に収録されたリブートではリンコ)をはじめとする町の人達は何かを隠している怪しい雰囲気が漂う。町のために人身御供として代々身を捧げ、過去と未来の記憶を共有するというタマナヒメ伝説と弟のサトルが見せる予知能力を思わせる既視感によって輪廻転生的な伏線がこれでもかと張られるため非常に先が気になる。ラストは成る程という展開だが、リブートが手元に無く関係が不明なのでモヤモヤが残る。
読了日:5月16日 著者:米澤穂信
珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)感想
シリーズ3作目。今回はバリスタ大会で起きた異物混入事件を舞台にした長編。やはり巻頭に見取図があるとミステリらしくワクワクしますね。でも、会場となる公共ホールのたかが準備室に密室設定のためとはいえ入室管理用のカードロックシステムがあるとか、美星さんがようやく本選に辿り着いたはずの大会を捨てて謎解きに挑むとか、出場者の一人でもある美星さんを主催者が事件の全容解明の全権を委任するとか、設定と展開がチグハグな印象。あと、ラストで我らが美星さんがアオヤマ氏に副賞をねだるなんて凶行は決して許されないヽ(`Д´#)ノ
読了日:5月11日 著者:岡崎琢磨
白銀ジャック (実業之日本社文庫)白銀ジャック (実業之日本社文庫)感想
経営の厳しいスキー場を舞台に、ゲレンデに仕掛けられた爆弾を巡ってお客全員を人質に取った身代金のやり取りが繰り広げられます。結構ライトな内容で、犯人の真相やラストの展開も薄々途中で読めてしまったりしますが、疾走感もあって楽しく一気に読んでしまいました。スキー場の経営の状況やスキー場に頼るしかない地元産業の事情、スキーやスノーボードなどの技術的表現が妙にリアルでしたが著者の趣味の反映でしょうか。それと今夏にドラマが放送されるそうです。映画じゃなくてテレビドラマとは意外ですが、確かに映像向きの作品でしょうね。
読了日:5月11日 著者:東野圭吾
ガリレオの苦悩 (文春文庫)ガリレオの苦悩 (文春文庫)感想
今更ながらガリレオシリーズを読んでいるのですが、ここへ来てテレビドラマで柴咲コウ演じる内海薫も登場し、各登場人物の人物造形がテレビのキャストと完全に一致してきた気がします。タイトルのとおり「操縦る」では恩人の罪に苦悩する姿が描かれるなど、初期の頃より人間味の出てきた湯川准教授の科学的なトリック解明は相変わらずユニークです。特に最後の「撹乱す」はいかにもテレビ向きな感じで、五つの短編のいずれも軽快に楽しめました。しかしながら、「指標す」の母娘に対する草薙の態度に容疑者xの献身の暗い残像を感じました。
読了日:5月10日 著者:東野圭吾
真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生 (ポプラ文庫 日本文学)真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生 (ポプラ文庫 日本文学)感想
お馴染みのパン屋さんに腹話術のアンジェリカと共に突然現れた謎の転校生の美作孝太郎と天才脳外科医である父親の美作元史。そして自称魔法使いの安倍ちゃんこと安倍医師。どうやらこだまの異母兄でもある孝太郎を始めとするいかにもクセのある面々が引き起こす事件に巻き込まれる希美と暮林と弘基たち。今回は何と言っても魔法使い安倍ちゃんのキャラと一見荒唐無稽なようで実に真剣に真理を突いた言動に振り回されて魔法をかけられた気分。そこへ希美の過去の記憶の謎と母親の登場まで絡んでくるラストの引きによって次巻がとても気になります。
読了日:5月9日 著者:大沼紀子
ラブコメ今昔 (角川文庫)ラブコメ今昔 (角川文庫)感想
お得意の自衛隊を舞台とした様々な恋愛模様を描く6つの短編集。相変わらず自らの使命に命を賭して真摯に向き合う自衛隊員という人達への有川さんの愛情とリスペクトぶりが半端じゃない。表題作であるラブコメ今昔の、今村二佐からの矢部二尉への訓辞も若い隊員の国防を担うことへの覚悟を問うもの。ラストまで千尋と吉敷が付き合っていると読めない辺り、まだまだ有川読者として己の未熟さを痛感。他の話も楽しく読むことができました。そして「秘め事」で宮崎の身に起きた悲劇と水田三佐の娘を思う気持ちには思わず涙せずにはいられませんでした。
読了日:5月3日 著者:有川浩
さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)感想
本編である「さよならドビュッシー」に主人公の遥やルシアの祖父として登場する香月玄太郎が要介護探偵として活躍する五つのエピソードからなるミステリ集。とにかく警察などの権力的なものには滅法強い玄太郎のキャラが強烈ですが、本編だけではもったいないキャラなので活躍の場を作ってあげたくなる気持ちはわからなくもないのですが、なにせ本編冒頭であっけなく死んでしまうことがわかっているだけに何とも複雑な心境。そういう訳で岬先生との出会いなども描かれますが、やや後付けのような印象。ただそれぞれの話は創意的で面白かったです。
読了日:5月2日 著者:中山七里
チア男子! ! (集英社文庫)チア男子! ! (集英社文庫)感想
直球ど真ん中のスポーツ青春ものです。いわゆるウォーターボーイズ的な、一般的には女性がやると思われているチアリーディングを素人だらけの男子チームが全国選手権を目指して奮闘する物語。って言うと非常にベタなんだけど朝井さんが書くと一味違う。一人ひとりの悩みや葛藤がとても生々しく描かれる。ただ、チームが16人編成なので、登場人物が多くてちょっと視点がばらけてしまった印象。そういう意味では映像向きなのかも。それでもラストのノートの回し読みと二分三十秒の疾走感、高揚感に引き込まれます。溝口とトンのコンビが最高でした。
読了日:4月29日 著者:朝井リョウ
Story Seller〈3〉 (新潮文庫)Story Seller〈3〉 (新潮文庫)感想
恒例の豪華作家陣による読み切り短編集。読む順番がアレだったため、米澤さんの「満願」は単行本の方で読了済。近藤さんの「ゴールよりもっと遠く」も同じく読了済。沢木さんと有川さんは今回はもう一つ合わなかったかな。湊さんは恐らく阪神大震災を経験されているんでしょうね。佐藤さんの数字にまつわる連作も全貌が分からないまま終了しちょっともやもや。今回始めて著作を読んださださんの「片恋」は、現実に起きた悲惨な事件が登場するだけに複雑だが、意外と軽やかな文体もあってストーカー物なのにこんなにも爽やかなラストシーンが印象的。
読了日:4月27日 著者:
満願満願感想
いずれもいわくのある死とそれを取り巻く人達に潜む想いを題材にした、夜警、死人宿、柘榴、万灯、関守、満願の6つの短編からなる黒いバージョンの米澤さんの短編集。時代設定が明確なのは万灯と満願だけですが、どれも昭和テイスト満載でどこか後ろ暗い感じの文体と合わせて重厚な雰囲気が醸し出されています。満願というタイトルにもかかわらず決して明るい話ではなく仄暗い読後感ですが、一見バラエティに富んだ内容と結末でありながら、どこかしら共通性を感じさせ、いずれも甲乙つけがたい非常に完成度の高い上質な短編集でした。
読了日:4月27日 著者:米澤穂信
星間商事株式会社社史編纂室 (ちくま文庫)星間商事株式会社社史編纂室 (ちくま文庫)感想
固そうなタイトルからは想像もつかない、三浦しをんさんのBL愛全開の本書。星間商事の社史編纂室といういかにも窓際職場を舞台に仕事の傍ら同人活動に勤しむ幸代達が、高度経済成長期の会社の歴史に潜む謎に迫ろうとするも旧専務派から邪魔が入る。闇に葬りさられようとする会社の正史を明らかにするべく本間課長が選んだ手段は同人誌として冬コミに裏社史を出版すること。作中内同人小説のおやじ受けBLとかレベルが高すぎてちょっと付いていけないものの、金田さんの解説により”やおい”の語源も知ることができて、少し成長したのであります!
読了日:4月26日 著者:三浦しをん
Story Seller annex (新潮文庫)Story Seller annex (新潮文庫)感想
お馴染みの人気作家による短編読切集の第4弾。近藤さんのトゥラーダはサヴァイヴに収録のため既読でしたがそれ以外は初読み。強烈な印象だったのは有川さんの「二次元規制についてとある出版関係者たちの雑談」。著者を投影したかのような男性作家の過度な二次元規制に対するクラークの三原則をもじった熱弁が面白い。「高度に発達したイマジネーションは、性的衝動を馴化する」言論規制を看過できない有川さんとはいえ萌えオタをそこまで擁護していただいて恐縮です(´;ω;`)あと、米澤さんの万灯の重苦しい雰囲気と意外な展開が良かった。
読了日:4月25日 著者:
和菓子のアン (光文社文庫)和菓子のアン (光文社文庫)感想
デパ地下の和菓子店「みつ屋」を舞台に、高校卒業後特にやりたいことも無いまま働き始めた杏子(アンちゃん)を主人公に、椿店長やイケメン乙女の立花さん、元ヤンの同僚桜井さんなどの個性的な登場人物と和菓子にまつわる謎とそこに隠された人々の様々な想いが詰まっている。ほんわかとした中にも鋭い観察力と感性を秘めたアンちゃんの雰囲気がとても良く、和菓子の奥深さを再認識させられるとともに、今や失われつつある気がするデパートの高級感と雑多感が合わさった非日常的な魅力も改めて感じます。読んでいて大きな福を感じる素敵な1冊です。
読了日:4月23日 著者:坂木司
光圀伝 電子特別版 (上) (角川書店単行本)光圀伝 電子特別版 (上) (角川書店単行本)感想
天地明察」にも登場した、我々が馴染みがある水戸黄門の姿とは全くイメージが異なる水戸光圀、この上巻ではそのはち切れんばかりのエネルギー持て余す10代の頃の姿を描く。豪放磊落、傾奇者で色を好み、思い上がっては兄の竹丸や沢庵和尚と宮本武蔵林羅山の次男の読耕斎に鼻っ柱をへし折られ、そうかと思えば詩作に傾倒し学問を修めることにも熱心である。不義の世子として自らの進むべき道に激しいまでに真摯に思い悩む姿がそこにはありました。それにしても、iPhone版のKindleではやはり画面が小さくて読みにくかったですね。
読了日:4月19日 著者:冲方丁
SOSの猿 (中公文庫)SOSの猿 (中公文庫)感想
家電量販店に勤めながら悪魔祓いの仕事もこなす二郎を語り手とした「私の話」と語り手不詳のまま五十嵐真を主人公として大仰に語られる因果の物語である「猿の話」が交互に繰り返される。西遊記エクソシストをモチーフにして語られる物語はなかなかに難易度が高くとっつきにくさを感じさせるが、ひきこもりの眞人少年を中心として最後には「五十嵐真の話」に収束していく。「あるキング」を彷彿とさせる不思議なお伽話のような印象。縦横無尽に飛び回る孫悟空狂言回しのような三蔵法師、それでいて物事の本質を突くような鋭い台詞に溢れている。
読了日:4月19日 著者:伊坂幸太郎
有川浩脚本集 もう一つのシアター! (メディアワークス文庫)有川浩脚本集 もう一つのシアター! (メディアワークス文庫)感想
小説ではありません。小説「シアター」をもとに、シアターフラッグとして実際に上演された舞台の脚本と裏話的な註で構成されています。非常に臨場感溢れた内容に、読んでいるとこの舞台を観たかったなぁという気分になります。千歳のモデルとなった沢城さんも出演しているが、何気に三匹のおっさんから祐希(演じているのは弟の沢城千春)もゲスト出演しており、有川ファンにはうれしい演出。そして、大和田さん演じる田沼先生がやはり肝であり、「全力を出しきっているのか!」という台詞やラストの生徒たちへ語り掛けるシーンが実に印象的。
読了日:4月14日 著者:有川浩
しゃばけ (新潮文庫)しゃばけ (新潮文庫)感想
舞台は江戸時代、廻船問屋長崎屋の跡取りで病弱な一太郎と、その若旦那を取り巻く妖たち、手代の佐助(犬神)と仁吉(白沢)、鈴彦姫にふらり火、家鳴や屏風のぞきが次から次へと登場し、冒頭からファンタジー好きをワクワクさせる。江戸の町で薬種屋を狙って次々に起こる謎の連続殺人事件と自らも狙われる事態に、自身の出生の謎を絡めて、意外と豪胆な所のある一太郎が解決に乗り出す。江戸の町の人情溢れる人間模様や、人とはズレているけれども個性的で妙に人間臭く感情豊かな妖達の魅力もあって、とても愉快な捕物帳でした。
読了日:4月13日 著者:畠中恵
Story Seller〈2〉 (新潮文庫)Story Seller〈2〉 (新潮文庫)感想
人気作家によるアンソロジー第二弾。初っ端の沢木耕太郎氏の貫禄に参りました。何気ないお酒の話をしているだけにみえて、そこに吉行淳之介さんとのエピソードが出てきたりする時点でもう降参です。決して旅好きな訳でも無いのですが、久しぶりに深夜特急を読みたくなりました。個人的に一番面白かったのは伊坂さんかな。どんだけ合コンに思い入れがあるのかと思うぐらい様々なシチュエーションを重ねていく技巧の上手さはお見事。近藤さんと本多さんは既読のものでしたが、やっぱり「日曜日のヤドカリ」に登場する弥生さんのキャラは素敵ですね。
読了日:4月12日 著者:
天国旅行 (新潮文庫)天国旅行 (新潮文庫)感想
心中や自死などの自ら選んだ死をテーマにした短編集。天国旅行というタイトルと表紙絵の雰囲気から想像していた内容とはかけ離れて非常に重たい内容。それにしても、読み終えた今、この本を読むのに最適な精神状態と環境とはいったいどのような状況なのだろうか?落ち込んだ時?前向きになりたい時?と考えてみるがなかなか答えが見つからない。裏表紙にある「すべての心に希望が灯る」の文句ほど全体を通して救いに満ちていたとはいえないが、それでも、いずれの短編も生きていくことと死ぬことの壮絶さを深く考えさせられる。
読了日:4月10日 著者:三浦しをん
偉大なる、しゅららぼん (集英社文庫)偉大なる、しゅららぼん (集英社文庫)感想
他人の心を操る能力を持つ日出家の十代目跡取りの淡十郎と分家の涼介、そして同じく時間を操る特殊な力を持つ棗家の広海。その力の源である琵琶湖湖畔の石走を舞台に、「湖の民」達の荒唐無稽で壮大かつ馬鹿馬鹿しく身勝手な争いが繰り広げられる。それでいて、これだけの頁数を読ませるのは、淡十郎や姉の清コングこと清子、パタ子さんなどの登場人物の魅力や日出家と棗家を琵琶湖から追い出そうと画策する校長の意外な黒幕の真相、ラストでほっこりさせると思いきや下品なオチと、これも万城目さんの”しゅららぼん”の力ですかね。
読了日:4月8日 著者:万城目学
ルーズヴェルト・ゲーム (講談社文庫)ルーズヴェルト・ゲーム (講談社文庫)感想
ドラマ化記念で読了。お得意の銀行ものではなく、青島製作所という中堅企業と企業スポーツである社会人野球を舞台にした作品。リーマンショック以降の急激な経済不況による業績悪化のあおりを受けて廃部の危機にさらされる野球部。それを救うべく一人の男が立ち上がる!なんていう単純なドラマではなく、池井戸作品らしく、ライバル企業との生き馬の目を抜くような競争のなか、企業と野球部の両方の存亡をかけた戦いが、社員一人ひとりの懸命な姿を通じて活き活きと描かれる。特に笹井さんの描き方が上手い。読みながら思わず熱が入ってしまう良作。
読了日:4月2日 著者:池井戸潤
狐笛のかなた (新潮文庫)狐笛のかなた (新潮文庫)感想
これぞ上橋ワールドと言うべき美しい世界観が随所に散りばめられています。人の声が聞こえる<聞き耳>の能力を今は亡き母から受け継いだ小夜。森の奥の屋敷に閉じ込められた謎の少年小春丸。主に囚われ命じられるままに生きる霊狐の野火。大人達の醜い争いと古からの呪いが交錯する時、少年少々たちの一途で真っ直ぐな想いがどのような決断を下し未来を選択するのか。幼い頃に助けられた小夜をいつまでも優しく見守り自らを犠牲にしてまで助けようとする野火の想いが、上橋さんの描き出す古い日本の原風景のような描写と共にとても美しく心に残る。
読了日:3月25日 著者:上橋菜穂子
さよならドビュッシー (宝島社文庫)さよならドビュッシー (宝島社文庫)感想
読み始めから迫ってくるような勢いを感じる。いずれもピアニストを目指す、地元の名家に生まれ育った香月遥と、スマトラ沖地震で両親を亡くした片桐ルシアの従姉妹同士。突然の火事で家主である祖父と従姉妹のルシアを失い、遺産相続を巡る疑惑のなか更に母まで転落事故により亡くなる。それでも遥は天才ピアニストの岬洋介の助けと必死のリハビリの末、コンクールの出場を目指す。まさに旋律が物語を紡ぎ出すかのような演奏シーンは圧巻。ラストの大どんでん返しもなかなか。現実にこれほどの大火傷から回復できるのかは疑問ですがとにかく面白い。
読了日:3月25日 著者:中山七里
カササギたちの四季 (光文社文庫)カササギたちの四季 (光文社文庫)感想
「君を笑わせるために僕は謎を解こう。」という帯のコピーと米澤さん解説ということで衝動買い。道尾さんらしいドロドロとした展開は殆ど無く、万年赤字続きのリサイクルショップを経営する、名探偵気取りの華沙々木と実は影で支える日暮、そこに入り浸っている中学生のナミの3人+住職が織りなす四季折々の季節感が印象的な謎解きもの。第二章の-夏-蜩の川で、日暮さんが平凡を嘆く早知子さんに人生を曲がりくねった川に擬えて言った「曲がりくねることは大事なことです」との言葉の優しさが印象に残った。あと、実はナミは全部お見通し?
読了日:3月24日 著者:道尾秀介
仇敵 (講談社文庫)仇敵 (講談社文庫)感想
東都首都銀行の企画部次長というエリートバンカーだった恋窪商太郎が、ある陰謀から罪を着せられて退職し今は東都南銀行の庶務行員を勤めているという主人公のスタンスが面白い。最初は融資係の若手の松木君を影から助ける銀行世直し物的な話かと思いきや、徐々に恋窪さんを陥れたかつての仇敵との避けることのできない闘いへと舞台を移して行く。しかしながら、登場人物の死や渦巻く怨念、さんざん煽られた敵対心に対して、あまりにも最後があっさりとし過ぎていてカタルシスを得られない結末となっており、やや素材を活かし切れていない感じ。
読了日:3月23日 著者:池井戸潤
魔女の宅急便 (角川文庫)魔女の宅急便 (角川文庫)感想
これまで何度見たことか覚えていない、あのジブリの名作アニメ映画の原作。やはり登場人物や設定が頭に染み込んでいるせいかすんなりと世界観が入ってきて、サラッと読むことができます。キキとジジの旅立ちからコリコの町での生活を経て一年後に母コキリさんと父オキノさんの元へ里帰りするまでを描きます。映画と違って、力が弱くなったり大事件が発生したりとかではなく、割と淡々と各エピソードが進んでいく感じですが、落ち込んだり励まされたりしながら、トンボやミミと仲良くなったり、成長していく姿が微笑ましい。文庫の表紙絵も素敵です。
読了日:3月22日 著者:角野栄子
福家警部補の再訪 (創元推理文庫)福家警部補の再訪 (創元推理文庫)感想
今回の犯人役は、警備会社の社長に売れっ子脚本家、かつての人気漫才師に玩具造形家とバラエティに富んだラインナップ。福家警部補のとぼけた登場と冴えた推理は相変わらず。古い映画と客席演芸をこよなく愛し、さらにヒーローものとフィギュアにも造形が深いこの福家警部補の人となりもなかなか底が見えません。愛想なしに見えて警戒する人にたやすく取りいる術も持ち合わせている。あとは、今のところやや犯人と福家警部補の力の差が歴然としている感が否めないので、長編若しくは印象に残る名犯人の登場が待ち望まれるところでしょうか。
読了日:3月22日 著者:大倉崇裕
フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)感想
二宮君主演のドラマは見ていませんので、あまり予備知識なく読み始めましたが、主人公である誠治のダメダメっぷりはともかくとして、無神経で人のことを気遣うことができない父親に、家庭や近所のトラブルから精神に重い病を抱えてしまった母親といった、思いのほかヘヴィーな設定で始まりました。自堕落な生活から一念発起して就職しようとした誠治の前に大きな壁が立ちふさがるなか、キツイ工事現場の仕事仲間のおっちゃんたちの言葉がとてもやさしく響きます。誠実であろうとすれば必ず救うものがある。そういう希望を感じさせる物語でした。
読了日:3月21日 著者:有川浩
神様のカルテ 3 (小学館文庫)神様のカルテ 3 (小学館文庫)感想
決して期待を裏切ることのない本シリーズの第三弾。松本平の風景や天神まつりの煌びやかさ、信州の湯屋の静かな佇まい、それら全ての描写が美しく、それぞれの登場人物の地に足の付いた真摯な生き様とともに胸を打ちます。新たに内科に着任した小幡先生の苛烈なまでの覚悟に満ちた医者としてのあり方との衝突を通じて、大学病院へ行くことを決意したイチさんが本庄病院へ帰ってくる日を古狐先生と一緒に楽しみに待ちたいと思います。それにしても、相変わらず最強の細君のハルさんを前にしてもなお、東西主任があまりにもいい女過ぎて辛い(≧∇≦)
読了日:3月17日 著者:夏川草介
一瞬の風になれ 第三部 -ドン- (講談社文庫)一瞬の風になれ 第三部 -ドン- (講談社文庫)感想
本当にどいつもこいつも一生懸命で、けれどもやっぱり勝負の世界は必ずしも報われるとは限らなくて、勝ち抜いた者はそんな想いを背負ってまた頑張って、そんな自分のやるべきことに真摯に全力で立ち向かう春校陸上部のみんなが最高でした。特にネギの気持ちと夢を全力で受け止める連と新二が格好良くて、鍵山と桃内も頑張って本当に最高の4継でした。レースを重ねるうちに次第に成長していく新二の姿と共にとてつもなく熱いエネルギーと爽やかさを感じさせる3冊で、特にこの三冊目は最初から最後まで涙が溢れて止まりませんでした。感無量です。
読了日:3月15日 著者:佐藤多佳子
一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ- (講談社文庫)一瞬の風になれ 第二部 -ヨウイ- (講談社文庫)感想
それぞれの大会の経過や結果の描写は案外あっさりしているんだけれども、そこに至るまでの新二の気持ちがとても生々しくて、段々と新二の気持ちに同化していくような感覚を味わう。守屋先輩の引退とか、そのために4継を怪我を押してでも走ろうとする連の気持ちとか、レースに負けた時の新二の悔しさとか、顧問のみっちゃんの選手としての過去や監督としての想いとか、もうなんだかいちいち泣けてくるんだよね。そして谷口若菜との距離感が絶妙でこっちまで照れくさいけどそれがいい。それでも第5章の出来事はショックが大きすぎて言葉にならない。
読了日:3月11日 著者:佐藤多佳子
終物語 中 (講談社BOX)終物語 中 (講談社BOX)感想
これまで若干不遇のヒロイン的扱いだったが、ここからはこの神原駿河のターン!と言わんばかりにエロパートからシリアスパートまで縦横無尽の活躍を見せる。本来は「まよいキョンシー」「しのぶタイム」に続く3部作だったという「しのぶメイル」。猫(白)との関連も重要。初めての気持ちも-二番手の気持ちもよくわかっている神原の苛烈なまでの想いが忍野忍をも凌駕する。そして絶対的な絆なんて無いが故に努力することを知っている戦場ヶ原や羽川達に特別だと思われている阿良々木君だからこそ、初代の眷属との決闘に一人で臨むのだろう。
読了日:3月10日 著者:西尾維新
RDG6 レッドデータガール 星降る夜に願うこと (角川文庫)RDG6 レッドデータガール 星降る夜に願うこと (角川文庫)感想
ついに泉水子や深行、宗田兄弟、高柳一条たちの世界遺産=学園トップを巡っての物語に一つの区切りを迎える時がやってきました。思えば、泉水子は成長したものだと感慨深いものがあります。そして、修験道陰陽道、忍者など日本古来の歴史あるそれぞれの陣営が立場を超えて共に手を取り合い、次の世代へ繋げて行く未来への希望を感じさせる終わりでした。より良い未来を築くために、姫神だけでなく全ての人々の脈々と受け継がれてきた切なる願いを受け止めた泉水子と深行たちにこの後どんな物語が続いて行くのか、読者の想像も膨らむばかりです。
読了日:3月9日 著者:荻原規子
福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)感想
刑事コロンボをこよなく愛する著者によるまさに本歌取りとも言うべき倒叙ミステリ。今ドラマも放送されていますが、こちらは檀れいさん演じる福家警部補のイメージが随分違う気がします。四つのエピソードから構成されますがいずれの犯人も、小柄で童顔、毎回バッジを忘れて現場に入れてもらえないけれども、冷静沈着かつチート過ぎ?に冴え渡る推理、さらにお酒にも滅法強くて無類の映画好きという稀有なキャラの福家警部補の前では最後には自白せざるを得ません。ちょっと各犯人が語るに落ち過ぎな気もしますが他のシリーズも読んでみたい。
読了日:3月8日 著者:大倉崇裕
犬はどこだ (創元推理文庫)犬はどこだ (創元推理文庫)感想
この作品はお得意の学園もの青春ミステリではなく、東京での仕事に挫折し地元へ帰ってきた紺屋長一郎が開業した<紺屋S&R>を舞台にした、私立探偵小説。探偵とはいっても犬捜しを専門にした調査事務所なのだが、飛び込んでくる依頼は失踪した人探しや古文書の謎の解明など筋違いのものばかり。探偵志望の後輩、ハンペーとの迷コンビが追うこの二つの事件がいつしか一つに絡み合って重要な真実が明らかになっていくのですが、ラストは意外な結末を迎えます。同じ敗残兵同士の気持ちが交錯する瞬間は緊張感に溢れていました。人の気持ちは怖い。
読了日:3月6日 著者:米澤穂信
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(下) (文庫ダ・ヴィンチ)あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(下) (文庫ダ・ヴィンチ)感想
やっぱり超平和バスターズは最強。アニメ版に比べて、エピソードの順番や場所が変わっていたり取捨があったりしますが、特に小説版ならではの交換日記のページが残り少なくなっていくにつれてのラストに向けた盛り上がりは期待通り。そして、めんまが残したみんなへのお別れのメッセージで完全に涙腺は決壊し、涙なしにめんまとお別れすることは出来ません。花火の扱いとか、めんまの家族の描き方とかアニメ版と大幅に異なる部分もありますがこれはこれで有りかと。もう一回アニメと映画を見たくなりました。
読了日:3月2日 著者:岡田麿里
一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫)一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫)感想
主人公の新二の独白系の文章なので、思いっきり若さや気持ちのコントロールが効かない感じがとてもよく表されています。才能溢れる兄を追いかけ続けたサッカーを諦め、同じように才能を持つ友人の蓮と一緒に始めた陸上という競技。中学時代ですが同じように100、200走、400リレーを走っていたため、レース前の気持ちとか、予選と決勝が何故か同じように走れないとかの経験が懐かしく思い出されます。自分は最後まで1走担当でしたが、特に4継リレーの、みんなで一つのバトンを繋いでいく感じが好きです。青春ですね。
読了日:2月21日 著者:佐藤多佳子
陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)感想
改めての人物紹介的に一人ずつ事件というか騒動に巻き込まれてしまう第一章がとても面白い。第二章からもいつもの通りの銀行強盗から、何故か人助けに走ってしまうのも含めて安定した面白さ。伏線というかもはや前フリとしか思えない数々のネタを最後まできちんと回収する丁寧さも相変わらずです。田中さんのドラえもん的道具があれば何でもできてしまうんじゃない?と読者が見透かしてしまうかもしれないことまでお見通し。いつもの広辞苑的解説は、新潟には悪いですが「-のガタって字が書けないので年賀状出さなくてもいいですか」で笑いました。
読了日:2月16日 著者:伊坂幸太郎
ボックス! 下ボックス! 下感想
努力する才能が天才に勝る、という単純なストーリーではなく、最後まで稲村とどのような決着がつくのか、果たしてカブちゃんとユウちゃんのどっちが倒すのか目が離せない展開でした。惜しむらくは、語り手の一人である燿子先生の感情的な部分が少し出過ぎていてちょっと邪魔に感じてしまったことですかね。井手や野口、飯田たちの初勝利のシーンに勝つことの素晴らしさを実感。「勝利が尊いものでなければ誰が苦しい練習なんかするもんかー。」の言葉が印象に残りました。そして、ボクシング部の守護天使となった丸野の笑顔がとても素敵でした。
読了日:2月15日 著者:百田尚樹
キノの旅 (8) the Beautiful World (電撃文庫)キノの旅 (8) the Beautiful World (電撃文庫)感想
‐想いは 正しく伝わらない‐口絵の「道の国」と「悪いことはできない国」、そして「歴史のある国」「愛のある国」「ラジオな国」「救われた国」の4つの国から、今回は何と言ってもプロローグ「渚にて旅の始まりと終わり」からエピローグ「船の国」へと続く。再び船の国で出会ったキノとシズ様、と陸とエルメス。キノとシズ様の対決と、船の国でシズ様のお世話係となった少女のティーと黒服の指導者たちに隠された謎。シズ様とティーがその後どうなったのか、プロローグをどう解釈すればいいのかな。また、今回のあとがきには完全に騙されました。
読了日:2月15日 著者:時雨沢恵一
暦物語 (講談社BOX)暦物語 (講談社BOX)感想
阿良々木暦の名のとおり、春休み明けから暦に起きた一連の出来事とそれを取り巻く彼女たちとともに過ごしてきたこの1年間を1月ずつカレンダーに添って振り返るお話。こんなに都合よく一人ひとりがピックアップできるほど数々の出来事や時系列の辻褄が合っているのかどうなのか、もはや確かめる気にはさらならならない。そして、登場する12人の彼女たちのそれぞれの「道」の在り様をテーマにした物語とも言える、とか何とか無理に意味合いを考えるのも無粋なのでやめておこう。ラストの衝撃にどういう後日談というか、オチがつくのか楽しみです。
読了日:2月11日 著者:西尾維新
ボックス! 上ボックス! 上感想
単なる青春もの成長ストーリーとすることなく、そしてボクサーの拳は凶器だから決して喧嘩の道具として使ってはいけないの綺麗事を言わず、若者らしく自分の欲望とプライドのためにボクシングに打ち込む鏑矢と優紀の二人の青臭い描き方に逆に好感を持ちました。今回は、鏑矢に危ないところを助けられた後、偶然ボクシング部の顧問になることとなった高津先生を聞き役として、ボクシングに関する薀蓄は相変わらず多めですが、さほどの不自然さは感じませんでした。まだまだ強くなりそうな優紀と鏑矢のこの後が気になります。
読了日:2月9日 著者:百田尚樹
ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)感想
前巻で五浦くんから想いを告げられた栞子さんがどう受け止めるのか。栞子さんが返事をためらい思い悩むその理由は。今回は、古本を扱う雑誌の「彷書月刊」、手塚治虫の「ブラックジャック」、寺山修司の「われに五月を」を題材とした三つのエピソード。登場人物の心境と読者の疑問を章間に挟んだ断章で語る構成が上手い。謎解きは相変わらずの冴えをみせるが、裏で手を引いているお母さんの手のひらで踊らされている感じ。ラストは気になる終わり方で早くも次作が気になる。エピローグに一瞬えっ?てなってからプロローグを読み返してニヤリ。
読了日:2月8日 著者:三上延
陽気なギャングが地球を回す (ノン・ノベル)陽気なギャングが地球を回す (ノン・ノベル)感想
ちょうど2時間ぐらいの映画を見終わったような読後感。しかもキャラも魅力的で展開もサスペンスフルなうえ、会話もウィットに富んでいてかなり面白い。嘘を見抜く能力を持つリーダーの成瀬、嘘つきで演説好きな響野、動物をこよなく愛するスリの達人の久遠、精密体内時計を持つドライバー役の雪子の四人の銀行強盗グループが巻き起こすハラハラドキドキのストーリーに一気読みしてしまいます。神崎率いる現金輸送車ジャック犯と裏をかきあう駆け引きや数々の伏線の利用も流石です。エンターテイメント作品として抜群の面白さです。
読了日:2月8日 著者:伊坂幸太郎
まほろ駅前狂騒曲まほろ駅前狂騒曲感想
三たび帰ってきた多田&行天コンビ。今度は、HHFAという無農薬野菜を扱う怪しい団体との騒動に巻き込まれてしまう二人に凪子さんから預かることになったはるちゃんを加え、行天の過去の謎、多田と亜沙子の関係、お馴染みの曽根田婆ちゃんや星たちや由良公、そして大活躍?の岡さんなど非常に盛り沢山の内容です。曽根田婆ちゃんへの死ぬまで忘れないとの言葉、同じような境遇に悩む裕弥に正しいと感じる自分を疑え、といった行天の台詞がとても素敵で印象的でした。思わず吹き出してしまったり、目頭が熱くなったり、まほろファンなら必読です。
読了日:2月7日 著者:三浦しをん
空飛ぶ広報室空飛ぶ広報室感想
図書館へ予約してからはや10ヶ月。ようやく読むことができました。が、待った甲斐があったというもんです。有川さんお得意の自衛隊ものですが、今回の舞台は一見地味な裏方の広報室。しかし、ブルーインパルスのパイロットを事故によって諦めた空井を主人公に鷺坂室長を初めとする個性的で魅力的な面々と、帝都テレビのディレクターの稲ぴょんリカを交え、広報という視点から自衛隊とマスコミの本質を刺すようなエピソードの数々がとても面白い。各キャラ毎の掘り下げも丁寧で一人ひとりが生き生きしています。最後の松島基地には泣かされます。
読了日:2月5日 著者:有川浩
モンスター (幻冬舎文庫)モンスター (幻冬舎文庫)感想
非常に醜い容姿からモンスターと呼ばれた女の執念の物語。男とは何て愚かな生き物なんでしょう。女性の美に対する執着には残酷な現実を痛感します。美容整形に関する非常に詳細な調査のうえに書かれたと思われるだけに、未帆(和子)が整形を繰り返し次第に美しい容姿を手に入れていく様子がとてもリアルに描き出されていました。出てくる男のだらしなく、さもしい姿に、男性読者として読んでいて身につまされるものがありました。そんななか、唯一男前っぷりを見せてくれた崎村さんが救いです。
読了日:2月2日 著者:百田尚樹
チルドレン (講談社文庫)チルドレン (講談社文庫)感想
それぞれ異なる時期に単独で雑誌に掲載された五つの短編からなる連作短編集。登場するのは家裁調査官の陣内と武藤と、大学時代の友人の鴨居、銀行強盗事件に一緒に巻き込まれた盲目の永瀬と盲導犬のベス、永瀬の彼女の優子。とにかく陣内の独特の正義感を持ったキャラの魅力が強烈だが、物語の時期も学生時代と10年後の現在を行ったり来たりしながら絡み合わせて一つに収斂していくいつもの感じが心地いい。陣内の台詞を聞いていると何ていうことのない日常の中にも特別な奇跡があるのかもしれないなんて思わされる。軽く読めてかつ楽しめる。
読了日:1月30日 著者:伊坂幸太郎
真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒 (ポプラ文庫)真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒 (ポプラ文庫)感想
まよパンシリーズ第2弾。人物紹介的にいろんなエピソードで構成されていた1巻と違い、今度は全編を通して弘基の中学生時代の元カノである佳乃を巡るお話。各章の構成も上手い(特に斑目氏の変態全開の妄想恋愛は清々しさを通り越してもはや格好いい!)が、要所要所に引きのある謎が配置されていて、とにかく読ませる展開となっている。冒頭の「救うことは、救われることに通じている」という台詞のとおり、救いがテーマとなっていて、笑顔の増えた希美とこだまの姿も楽しそうでとてもいい。果たして自分は、誰かの傘になり得るのだろうか。
読了日:1月29日 著者:大沼紀子
カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)感想
身体の声を聞くことができるちょっと変わり者の整体師の合田先生を探偵役に、忙しすぎて文字通り首が回らなくなった週刊誌記者の小松崎雄大を語り手としたミステリ作品。とはいってもミステリ要素はかなり薄めで、買い物依存や摂食障害、セックス依存など様々な依存を抱えた女性達の心が傷つくのはとても悲しいことで、そうしたカナリヤたちの声を真摯に聞こうとする合田先生の厳しくも優しく寄り添う姿勢が心に残る。そして、人間は身体の行けるところまでしか行けないという言葉に、自分の身体を労らなくてはとしみじみ反省。
読了日:1月26日 著者:近藤史恵
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(上) (MF文庫ダ・ヴィンチ)あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(上) (MF文庫ダ・ヴィンチ)感想
TVアニメ本編と劇場版では号泣しました。映像では動きで表現できる分、小説では細やかな描写が必要になってくるところで、ややキャラごとの会話の説明の不足やシーンごとの描写が不親切な分、未見の人には厳しいかなと感じるところはあるものの、個々の人物の視点と想いが描かれていて原作ファンには嬉しい内容です。下巻では、やはり涙腺の崩壊は間違いないことでしょう。
読了日:1月26日 著者:岡田麿里
晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語 (ポプラ文庫ピュアフル)晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語 (ポプラ文庫ピュアフル)感想
晴れた日は図書館へ行こうシリーズ第2弾。陽山市の季節も春夏から秋冬に変わり、本好きの小学五年生のしおりが出会う図書館で起きる謎も前巻と比べるとややボリュームアップしたような感じ。単なる謎解きではなく、周りの人々との交流を通じてしおりの成長を感じられる構成が好感が持てます。長い年月を経てようやく本という形になった「幻の本」の話が特に印象に残りました。そして、思いがけず再開した父親とのぎこちない会話には苦笑いですが、「ここから始まる物語」というサブタイトルに込められた「しおり」という名付けの意味も素敵でした。
読了日:1月25日 著者:緑川聖司
晴れた日は図書館へいこう (ポプラ文庫ピュアフル)晴れた日は図書館へいこう (ポプラ文庫ピュアフル)感想
お気に入りの図書館が身近にある生活は幸せなことです。読書好きなら誰しもが何処かご贔屓の図書館があることでしょう。ちょっと大人びた小学五年生のしおりちゃんが主人公の、図書館で起こる出来事、いわゆる日常の謎とき系のお話。最近よく見る表紙絵にそそられる系と思いきや、元は10年前に出版された児童書のようで、かなりライトに読むことができます。ホンワカした雰囲気としおりちゃんの健気さに癒されます。図書館の本を大切に扱って欲しいという著者の想いが感じられ、なんだか用事はなくても図書館に出かけたい気分になる一冊です。
読了日:1月25日 著者:緑川聖司
夜行観覧車 (双葉文庫)夜行観覧車 (双葉文庫)感想
高級住宅街であるひばりヶ丘で暮らすエリート一家の高橋家で発生した家庭内殺人事件を巡り、向かいに住む遠藤家、斜向かいの小島さと子らの様々な視点からいつもながらの多角的、立体的に物事を見つめ、真実とそこに隠された家族模様を明らかにしていく。家族とはいえ、家の外から見える風景と、中の家族一人ひとりから見えるもののあまりの違いに、入念で確かな人物造形を感じる。と同時に登場人物の嫌な所を通して自らの心のうちの醜さを覗き見られているような気がして居心地の悪さを感じざるをえない。ラストは少しもやもや感が残るかな。
読了日:1月23日 著者:湊かなえ
陽だまりの彼女 (新潮文庫)陽だまりの彼女 (新潮文庫)感想
カバー装画がとても印象的で思わず手に取ってしまいたくなる本書。中学生以来の同級生との突然の再開という運命の出会いから、駆け落ちの末のとてもベタで甘い新婚生活が描かれていくが、妻である真緒には13歳以前の記憶がないことや、所々にちりばめられた謎が読者の不安を煽る。とにかく、愛くるしい真緒のキャラとそれをガッチリと受け止める浩介のコントのような楽しいやり取りも魅力だが、何といってもオチに尽きるので未読の方はくれぐれもネタバレにお気を付けを。恋愛小説というよりいろんな愛情に溢れた現代のおとぎ話のようなお話。
読了日:1月22日 著者:越谷オサム
キノの旅 (7) the Beautiful World (電撃文庫)キノの旅 (7) the Beautiful World (電撃文庫)感想
今回は、他国や通り道にある人々への迷惑を顧みず動き続ける「迷惑な国」、安楽死について考えさせられる、決して治療を行わない国のお話である「冬の話」、狂気の地下室のインパクトが強すぎるのと、”ししょう”のコミカルな面が垣間見える「森の中のお茶会の話」、優しい嘘に溢れた「嘘つき達の国」など。もちろん、キノが”キノ”となって旅をするようになった始まりの物語である「何かをするためにa・b」が最も印象的。そして、毎回自由すぎる「あとがき」はなんとついに巻頭カラー・・・。
読了日:1月19日 著者:時雨沢恵一
狼と香辛料〈5〉 (電撃文庫)狼と香辛料〈5〉 (電撃文庫)感想
いつもながら、行く先々の町における土地土地の料理やお酒が非常に美味しそうに描かれており、それを気持ちいいぐらいに次々と平らげていくホロの食いっぷり、飲みっぷりも本作の魅力ですね。ホロの伝承が残る北の街レノスを訪れたホロとロレンスが出会ったのは没落貴族の娘であることを隠して商人として大きな取引を目論むエーブ。相変わらず、商人同士の駆け引き満載の会話のやり取りも楽しいが、旅を笑顔で終えようとするホロの決意と二人の関係の行く末に物語の転機を感じさせつつも、取りあえず二人の旅が続くことになってホッとしています。
読了日:1月19日 著者:支倉凍砂
狼と香辛料〈4〉 (電撃文庫)狼と香辛料〈4〉 (電撃文庫)感想
いつもホロやロレンスと一緒に異国を旅しているような感覚を味わうことができるこのシリーズが好きです。ホロの故郷のヨイツを探して北の田舎村のテレオにやってきた二人は若い少女の司祭エルサと粉挽きのエヴァンと出会う。そこで、テレオ村とエンベルクとの不平等契約に端を発する毒麦の混入騒ぎと異教の神を巡る騒動に巻き込まれる。今回もホロの可愛さと二人のやり取りが微笑ましく、特にエルサとエヴァンの仲睦まじさを羨ましがる様子がとても印象に残りました。
読了日:1月18日 著者:支倉凍砂
恋文の技術 (ポプラ文庫)恋文の技術 (ポプラ文庫)感想
これはわかりやすい森見さん。京都からクラゲの研究のために能登へやってきた大学院生の守田一郎くんがひたすら書き綴る手紙のみによって構成される書簡体小説。とにかく阿呆学生のおっぱいへの想いが溢れている。基本的には守田氏からマシマロ小松崎や大塚女史、妹の薫、間宮少年や小説内小説家の森見氏などへの手紙という一人称的視点から描かれているにも関わらず、遠く離れた京都の情景や相手からの返信の手紙の内容を立体的に感じさせる文体はお見事。恋文の技術は全く身につきませんでしたが、とても楽しく読ませていただきました。
読了日:1月16日 著者:森見登美彦
キアズマキアズマ感想
自転車ロードレースを題材にした話ですが、チカも石尾も登場しません。前作までとの繋がりとしては唯一、チーム・オッジのマネージャーとして赤城さんがワンシーンだけ登場しますが、舞台を大学の自転車部に移した全く独立した話となっています。大学に入学して自転車を始めた正樹と先輩の櫻井を中心に、これまでとは違う素人からの成長を描くため、自転車競技へ一緒にのめり込んで行く感覚を味わいます。兄の死、親友の部活中の事故、共に過去に痛みを抱える二人が、それぞれのやり方で過去を乗り越えようとする姿は正に青春小説として清々しい。
読了日:1月13日 著者:近藤史恵
下町ロケット (小学館文庫)下町ロケット (小学館文庫)感想
これは文句なしに面白い!かつて宇宙技術開発機構の技術者でありながらロケットの打ち上げに失敗した過去を持ち、亡くなった父の跡を継いで佃製作所という町工場を経営する佃航平が主人公。技術者としての想いを抱えながら現実の中小企業の経営に奔走する佃の姿、銀行からの出向である殿村の悩み、営業と技術開発の確執、若手職員との溝、ナカシマ工業との特許訴訟、そして大企業である帝国重工への部品供給への壁、すべてがロケット打ち上げ成功への布石となっている。殿村さんの啖呵が最高に格好いい。佃品質、佃プライドに万歳三唱!
読了日:1月12日 著者:池井戸潤
仔羊の巣 (創元推理文庫)仔羊の巣 (創元推理文庫)感想
ひきこもり探偵シリーズの2作目であることどころかミステリということすら知らずに読み始めてしまった。人のいい坂木くんと鳥井の共依存のような危うい関係や、ぞんざいかと思えば子供っぽくなる鳥井のキャラもあって、とても不思議な雰囲気を持つ作品でした。そんなひきこもり探偵が人とのコミュニケーションに問題を抱えているとは思えない洞察力によって解決するのは人が死ぬような事件ではなく、同僚の行動の謎や親子の確執など、人の感情や関係にまつわる事件ばかり。栄三郎さんの「観念としての拳、げんこつの正しい使い方」も良かった。
読了日:1月9日 著者:坂木司
四畳半王国見聞録四畳半王国見聞録感想
京都の四畳半を舞台に果てしなく繰り広げられる妄想と夢想の虚実綯い交ぜの森見ワールドは非常に難易度が高い。他作品の登場人物も所々に顔を見せるだけに、少なくとも四畳半神話体系を先に読んでから手に取るべき作品だろう。もはや奇々怪々な四畳半世界と阿呆神や、気を抜いているわけでもない筈なのに誰が語り手なのかすらわからなくなってしまうような難解極まりない文章を楽しめないわけではないが、読み終えた今でもさっぱり意味はわからないのである(>人<;)
読了日:1月7日 著者:森見登美彦
サヴァイヴサヴァイヴ感想
サクリファイスからエデン、その過去と未来を主に赤城やチカの視点で描く。ロードレースの団体競技としての魅力と面白さもさることながら、基本的にストーリセラー等に収録された既刊の短篇集ですが、若かりし頃のエースを狙う石尾とそれを支える赤城の思いや、チカがヨーロッパに渡ったあと日本でもがく伊庭の姿、ミッコと共にポルトガルに渡ったあとのチカの姿が、物語の隙間を埋めて行くかのよう。しかし、ここまでくると、チカのロードレース選手としての到達点へ至る本筋の物語を長編で読みたい!どうかお願いしますm(_ _)m
読了日:1月5日 著者:近藤史恵
眠れないほど面白い『古事記』 (王様文庫)眠れないほど面白い『古事記』 (王様文庫)感想
現存するわが国最古の書物であり、イザナギイザナミの神々から始まる国の成り立ちと系譜を綴った古事記。本書はそれらを現代風にわかりやすい物語として噛み砕いてある。そこに描かれているのは神々や歴代天皇の情熱的な恋と大胆な野望に満ちたドラマ。とにかく、国づくりの為の成り成りて成り合わないところが成りあまったところを刺し塞ぐ話と、謀略に満ちたとても人間臭い権力争いの連続なんて言ったら不遜の極みかな?長い神々の名前には苦戦するが、国生みや天の岩戸やヤマタノオロチ退治など馴染みのあるものも多く内容はわかりやすい。
読了日:1月3日 著者:由良弥生
ヤッさん (双葉文庫)ヤッさん (双葉文庫)感想
ありきたりな身の上話の末にホームレスになったタカは、ある日同じホームレスながら築地や有名料亭などに自由に出入りして賄いを食べ、そこで顔のように振る舞う銀座のヤスことヤッさんに出会う。実はヤッさんは情報屋として仲買人や料理人を繋ぐ役割を果たすことから重宝されているのだが、ホームレスとしての矜恃を持って暮らしている。昨今の有名ホテルの偽装問題も本作に登場する料理人のように真摯な態度を持ち、ヤッさんが居たならば決して起こらなかっただろうと思う。タカの成長やヤッさんの啖呵が心地よく、読むと元気になれる一冊です。
読了日:1月1日 著者:原宏一

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