珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を:感想

「その謎 たいへんよく挽けました」

この物語の主人公である喫茶『タレーラン』のバリスタ切間美星がミルでコーヒー豆を挽きながら、謎の答えを導き出したときのセリフです。いわゆる決め台詞ってやつですかね。

でも、これに非常に違和感を感じてしまうんですよね。とってつけたような感が否めない。全体を通していかにもミステリー的な技巧に走りすぎたのではないかなというのが正直な感想です。

巻末の解説にもあるように、京都という舞台を活かしたいわゆるご当地ものであり、喫茶のバリスタというキャラも非常に魅力的ですし、ところどころにコーヒーを活かして散りばめられた薀蓄も、雰囲気を出すのに非常に効果的であると思います。

それだけに、ミステリーという枠に囚われすぎてしまったのかなと思わないでもないです。確かに「このミステリーがすごい」というカテゴリーの舞台に立つ以上、必要な要素だろうとは思います。ですが、そもそもその舞台が適切だったの?と思ってしまうのです。その土俵じゃなくても勝負できたように思えてならない。でも、作者の想いはそこにあるのだから仕方がないのかもしれない。

叙述トリックや最後のどんでん返しもそうです。それが必要だったのか。もっと素直に美星さんを活かした物語を観たかった気がします。

それから、最後の第7章のラストに至るまでのアオヤマの美星さんへの不誠実な行動と気持ちは決して認めることはできず、たとえそれが最終的に美星さんのためであって、美星さんがそれを許したとしても、「お前なんかに美星さんを任せられるか!」と、さながらどこぞの頑固おやじのような気持ちになってしまうのです。