2013年11月の読書メーター

11月の読書メーターです。遅くなりました。

11月は、最初から最後まで上橋さん祭りでした。獣の奏者の完結から、守り人シリーズの完結まで、とにかく上橋ワールドにどっぷりと浸かった1か月でした。

そんななかでも、空飛ぶタイヤとか、WILL~MEMORYの流れ、儚い羊たちの祝宴、植物図鑑など印象に残るものも多く、充実した読書月間になりました。

2013年11月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:7732ページ
ナイス数:886ナイス

神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)感想
バルサの願い、チキサの想い、様々な積み重ねがあって最後のアスラの決断があるのだろう。これまでの歴史の中の偶然とは言い切れない一致ともいえる大きな流れが、時代の徒花のようにシハナの謀略を生むことになったのは、長く虐げられたタルの民や影に潜んできたカシャルやタル・クマーダにとって、元々は、自らを守る為であったはずの古い盟約を打ち破ろうとする希望であったのは皮肉なのか必然だったのか。最後までアスラを守り抜いた強さと、チキサに短剣を渡す際に見せた父親のような暖かい姿、改めてバルサの魅力が一杯詰まった作品でした。
読了日:11月30日 著者:上橋菜穂子
神の守り人〈上〉来訪編 (新潮文庫)神の守り人〈上〉来訪編 (新潮文庫)感想
女用心棒のバルサが、今度はロタ王国を舞台に、古に封印されし<神>であるタルハマヤ神の力を持つチャマウ<神を招く者>であるアスラと、その兄チキサを助けたことから、神の守り人としての逃避行が始まる。ロタ王国建国の秘密に関わる、バルサを追うスファル達カシャル<猟犬>と、異能の力を司るタル・クマーダ<陰の司祭>たちに、王のヨーサムや王弟のイーハンが複雑に絡み合ってどのようにこの後展開していくのか、ワクワクしながら下巻へ。人を助けることを躊躇わないバルサの強さと、タンダとの絆がこの闇をきっと晴らすと信じている。
読了日:11月30日 著者:上橋菜穂子
ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)感想
これはとても不思議でヘンな物語。大人びた喋り方と考え方の持ち主の小学四年生のアオヤマ君が、ウチダ君やハマモトさんと共に、ペンギンを生み出す歯科医院のお姉さんの謎の力と、森の草原に出現した<海>の謎を解き明かすべく、ノートにメモを取りながら研究を続けるひと夏の経験を描く。ヘンテコな話に見えて、少年期の甘酸っぱい思い出を思い起こさせる。いつかきっとペンギンハイウェイの向こうでお姉さんに再会できる日がくることを願わずにいられない。これからはアオヤマ君に倣って怒りそうになったときにはおっぱいの事を考えるとしよう。
読了日:11月27日 著者:森見登美彦
贖罪 (双葉文庫)贖罪 (双葉文庫)感想
田舎町で起こったある少女の殺人事件の目撃者となった4人の同級生の少女達と、被害者の母親との間で交わされた贖罪という名の15年に渡る呪縛を巡る物語。湊さんらしいそれぞれの登場人物達の独白をリレーのように繋いでいく形式で物語を進めつつ、隠された真相と人間の奥深くにある醜い感情を刳り出していく。人を殺すことへ至る心理描写がとても生々しい。元々の事件も重いうえ、悲劇の連鎖も結局止められず、終章にも救いがあるような無いような…読後感は必ずしもスッキリはしません。それにしても湊さんの作品には碌な男が出てきませんね。
読了日:11月24日 著者:湊かなえ
ソロモンの犬 (文春文庫)ソロモンの犬 (文春文庫)感想
後書きで知ったのですが、道尾さんの作品のタイトルにはよく動物が使われていますが、干支シリーズと言われているらしいです。確かに本作は戌、あとは猿や龍、酉、鼠などもありましたね。大学生の男女4人を中心にした、いつもの鬱屈した雰囲気よりはかなり青春もの寄りの作品で、途中まではどうなるのか読めない展開にハラハラしましたが、ラストにかけて真相に辿り着く種明かし部分がやや強引で若干フェアじゃない気もしますが、最後にいろんな伏線が回収されていくのは、さすが道尾作品といったところでしょうか。間宮先生がいいキャラでした。
読了日:11月23日 著者:道尾秀介
狼と香辛料〈3〉 (電撃文庫)狼と香辛料〈3〉 (電撃文庫)感想
シリーズ第三巻。リュビンハイゲンでの危機を脱したロレンスとホロの二人が次に向かうのは冬の町クルスメン。そこで、若い魚商人のアマーティとホロを巡っての男同士のプライドと商人としての意地をかけた決闘?が繰り広げられます。当の争いの元凶であるホロは相変わらず(後から見れば)達観したものですが、そんなこととは知らずオロオロと駆けずり回るロレンスが微笑ましい。アマーティもちょっと気の毒な気もしますが、高い授業料と思えば仕方ないかも。そして、アニメで観たクルスメンの祭りの幻想的で素敵な風景が思い出されました。
読了日:11月23日 著者:支倉凍砂
狼と香辛料〈2〉 (電撃文庫)狼と香辛料〈2〉 (電撃文庫)感想
シリーズ第二巻。第一巻でのピンチをくぐり抜け、再びホロとロレンスの二人の旅が始まる。段々と二人の距離が近づいていくのを微笑ましく見ていた矢先にやはりピンチが。この辺りはアニメでも観ていた筈ですが、結構うろ覚えです。ホロの機転によりラトペアロン商会の裏をかいたつもりが、逆に欲をかいて絶体絶命の大ピンチに陥る。そこでもまた、ホロの知恵と諦めないロレンスの粘りにより、羊飼いのノーラの協力を得て逆転の一手に打ってでるも、またもや待っていたのはレメリオ商会の裏切り。しかし、最後まで商人魂を忘れないロレンスに拍手。
読了日:11月23日 著者:支倉凍砂
獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)感想
全4巻で完結した獣の奏者シリーズの外伝。まだ幼いエリンを優しく見つめるソヨンを描いた「綿毛」。エリンとイアルの馴れ初めとジェシの誕生を描いた「刹那」。エサル師の若かりし頃の恋の物語の「秘め事」。そして、ラストの「始めての…」では乳離れに悩むエリン。何れもこれまで描かれていなかったシーンを女性の生と性の視点から、それぞれの幸せの姿形を描き出す。特にユアンとの恋を通して、エサル師が時折エリンに対して見せていた厳しさの裏に隠された熱情を垣間見れた気がする。そして、表紙絵も中江さんの解説も素晴らしいの一言。
読了日:11月21日 著者:上橋菜穂子
獣の奏者 4完結編 (講談社文庫)獣の奏者 4完結編 (講談社文庫)感想
エリンが真摯に追い求め続けた、人は何故争い続けるのか、獣が自然に生きるとはどういうことなのか、何十年もの長きに渡る物語も遂に完結を迎えた。人という獣が群れをなす、そこには醜い争いがあり、多くの間違いを犯す。けれども、人は知ることで考え、たとえ一人では成し遂げられなくても、その心を受け継いで新たな道を探し続ける諦めない強さを持っている。この物語を、そしてエリンの生き様を通して、そのことを強く感じた。そして、その心は確実にジェシへと受け継がれている。最終章のジェシの言葉は哀しくも力強く響く。
読了日:11月16日 著者:上橋菜穂子
獣の奏者 3探求編 (講談社文庫)獣の奏者 3探求編 (講談社文庫)感想
王獣編において、降臨の野で起きた一連の出来事を経て真王と大公が結ばれ、一応の完結となっていたはずの物語のその後を描く。しかしながら、読み進めていくにつれ、これを描かずしてこの物語が終われるはずがなかったのだという確信に似た気持ちになる。何故なら、王獣や闘蛇の謎も、遠い過去の真実の何一つも解き明かされていないのだから。あれから11年経ったエリンとイアルには8歳になる息子のジェシが居るが相変わらず不器用な二人のまま。しかし歪めようとする力に抗おうとする毅さは変わらない。果たしてどのような完結が待っているのか。
読了日:11月16日 著者:上橋菜穂子
MEMORY (集英社文庫)MEMORY (集英社文庫)感想
MOMENTからWILLへ、そしてそれよりも過去からの神田と森野の2人を、同級生や先輩などの第三者の視点から、あぁ〜あの時神田が森野に差し出したティッシュにはそういう意味があったのか、というようなミッシングリンクを繋ぐ物語。まるで三部作のような作りになっているので、是非続けて読むことをお勧めします。これまでの様々なエピソードが一つに嵌っていく感じを味わいます。そして、ラストの「時をつなぐ〜memory」では、とても幸せな二人、いや三人にきっと出会えることでしょう。
読了日:11月13日 著者:本多孝好
空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)感想
上巻から続けて読了。一中小企業の経営者が国を代表する財閥グループの自動車メーカーに闘いを挑み、様々な苦難の末勝利を勝ち取るストーリーには爽快感を覚えないわけではない。しかし、その陰で犠牲になった母が還ることは決してなく、まだ幼い子供の心の傷が癒えることはない。現実に起きた事故のことを思うと、純粋にエンターテイメントと割り切れない読後感で一杯。そして、ある意味、この物語の中心でキャスティングボードを握っていた東京ホープ銀行が無傷で済むというのにも無常さを感じる。そうした問題提起も含めて渾身の力作と思う。
読了日:11月10日 著者:池井戸潤
空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)感想
現実に起きたトレーラーの脱輪事故とそれに纏わるリコール隠しの一連の事件をモチーフにして書かれたであろう作品。上下巻構成となっており、上巻はとにかく事故の犠牲者と家族、その第一当事者となった赤松運送を襲ったあまりにも理不尽な状況に辛くなる。そして、大企業の論理に支配されたホープ自動車と東京ホープ銀行に未来はあるのか。まさに池井戸さんの他のシリーズと同じように、読みながら職業人として、人としての矜恃が問われている気分になります。急ぎ下巻へ。
読了日:11月10日 著者:池井戸潤
WILL (集英社文庫)WILL (集英社文庫)感想
MOMENTから7年後、前作では死を間際に迎えた人の最後の願いを叶える仕事人を演じた文房具屋の息子の神田はアメリカへ渡り、(この間に2人の関係は変化していたようだが)本作では相変らずクールな葬儀屋の森野を中心に、死者への弔いと残された者の想いをテーマとして物語は進む。森野を取り巻く竹井や和尚、桑田たちバンドの面々はいずれも優しさに溢れている。各エピソードに登場する人達の動機には若干違和感を覚えるものの、夫々の結末はとても柔らかな感動を覚える。そしてラストシーンの「未来を迎えに来た」にはやられた!
読了日:11月9日 著者:本多孝好
仙台ぐらし仙台ぐらし感想
先日、仙台へ行くことがあったのですが、その前に読んでいれば良かったかもしれない。前半はほのぼのとしたあるあるネタを中心に伊坂さんの、どこかのんびりとした仙台での生活が綴られています。後半は震災が起きた後の不安な様子や率直な今の心境と共に新しく踏み出す決意を感じられます。震災から2年半が達ち、一見すると震災の跡を感じさせない仙台の街でしたが、バスで行った仙台城では、崩れた石垣が一つ一つ番号を付けて並べられており、運転手さんの「気の遠くなる作業ですが元の通り組み直される予定です」との言葉が力強く印象的でした。
読了日:11月9日 著者:伊坂幸太郎
民王 (文春文庫)民王 (文春文庫)感想
どんな話かと思いきや「俺がアイツで、アイツが俺で」を、親子間でしかも男同士でやっちゃうトンデモ設定のドタバタコメディかよ!しかし、読者にそう思わせておいて、しっかりと現実の政治に対する風刺をきかせつつ、稚拙な議論を繰り返すばかりの政治家とマスコミへの批判や新薬認可にまつわるドラッグラグなどに対する骨太の社会派エンターテイメントの要素を盛り込んでくるあたりが、さすが池井戸さんといったところ。泰山と入れ替わった翔が、スキャンダルの渦中にある官房長官の狩屋を庇うシーンの「オトナになろうぜ、みんな」が格好いい。
読了日:11月9日 著者:池井戸潤
儚い羊たちの祝宴儚い羊たちの祝宴感想
いずれも名家の子女またはその使用人若しくはその両方を中心とした五篇の短篇集で、共通するのはバベルの会というとある大学の読書会が間接的に登場すること。手紙や日記などの独白をメインとした口語体中心の語りを中心とした巧みな文章と、時代がかったどこか後ろ暗い耽美な雰囲気を漂わせるストーリー展開に、猟奇的な狂気と現実の境が曖昧になるかのような感覚を味わう。ストーリーセラーから手に取った一冊でしたが、いつもの日常系の謎解きとは違う、人間の狂気の危うさを切れ味鋭く描いた、とても満足度の高い作品でした。
読了日:11月8日 著者:米澤穂信
植物図鑑 (幻冬舎文庫)植物図鑑 (幻冬舎文庫)感想
いや〜道端に生える草花までラブコメにしてしまうとは、さすが有川さん、恐れ入りました。しかも、四季折々の季節の移ろいを感じさせる料理の数々と共に、揺れ動く感情をリンクするかのように表現してみせます。まさに、女性版リアル落ち物バージョン、イツキの家事全般及び飼い主を咬まない完璧超人ぶりに脱帽です。それと「料る」という動詞は初めて見ましたが、普通に使う言葉なんでしょうかね?それにしても、出てくる料理が美味しそうで、小さい頃にお婆ちゃんの家で、ワラビやフキを山で採って食べさせて貰ったことを懐かしく思い出しました。
読了日:11月6日 著者:有川浩
Story Seller (新潮文庫)Story Seller (新潮文庫)感想
さすがに豪華な7人の作家による短編集だけあって、いずれも読みごたえのある作品でした。なかでも、やはり道尾さんの「光の箱」のラストの仕掛けには見事にしてやられました。興味を引かれたのは佐藤さんの「333のテッペン」。もう少し土江田と赤井にまつわる話を読んでみたいと思いました。米澤さんの「玉野五十鈴の誉れ」も最後の仄暗い雰囲気がとても秀逸。伊坂さんや有川さん、近藤さんや本多さんの作品もそれぞれ個性がはっきりと出ていて、とにかくお得な一冊でした。
読了日:11月4日 著者:
密室の鍵貸します (光文社文庫)密室の鍵貸します (光文社文庫)感想
ユーモア本格ミステリとは言い得て妙ですね。冗談みたいに半分ふざけているかのようや烏賊川市の紹介から始まり、二つの事件を巡って、お約束のアリバイと密室トリックが飄々としたユーモアを交えて展開し、読者を楽しませる。本格ミステリとして一応伏線も回収されていくが、砂川警部が突然明朗に真相を解明したり、茂呂の死の真相とその犯人、そして動機の唐突さは、ちょっと腑に落ちない感が否めないかな。また、戸村と刑事たちの視点の切り替えについての神の目線の解説は、敢えて行っている意図はわかるが、個人的には余計に思える。
読了日:11月2日 著者:東川篤哉

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