2013年12月の読書メーター

遅ればせながら12月の読書メーターのまとめ。

やはり守り人シリーズの完結が感慨深いですが、サクリファイス~エデンも印象的。それと光に打ちのめされたのが忘れられない。

2013年12月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:6959ページ
ナイス数:997ナイス

エデンエデン感想
サクリファイスの続編。石尾の死を背負ってロードの本場に渡った白石誓、チカがツールドフランスを走り抜ける。今回はミステリ要素は無かったものの、三週間もの長きに渡るレースの展開とともに、フランスの山々の風景を背景とした勝負の駆け引きが楽しめる。そして、いつの時代もアスリート達を苦しめるドーピング問題が本作のもう一つのテーマとなっている。やはりミッコのアシストに徹するチカの選んだ過酷な楽園にニコルが再び戻ってくることを願う。あの人もそう願うであろうし、それがドニのためにもなると信じている。
読了日:12月30日 著者:近藤史恵
謎解きはディナーのあとで 2 (小学館文庫)謎解きはディナーのあとで 2 (小学館文庫)感想
お嬢様刑事の麗子と風祭モータースの御曹司でジャガーがよく似合う?風祭警部のドタバタコンビが遭遇する数々の事件を宝生家の毒舌執事の執事の影山が颯爽と解明する展開は、もはや間違いの無い安心感とお家芸の安定感すら漂わせるシリーズ第2弾。アリバイ崩しや小物の活用、人物の入れ替えから密室までミステリとしての骨格はしっかりと保ちながら、あくまでユーモアに徹した読みやすさに拘っているのは好感が持てます。それぞれのキャラが活きているため、お約束のコントのような掛け合いも面白く、誰でも楽しめる非常に間口の広い作品ですね。
読了日:12月30日 著者:東川篤哉
ALONE TOGETHER (双葉文庫)ALONE TOGETHER (双葉文庫)感想
人の心の波長を感じ取ることができる特殊能力(代々受け継がれるその能力をこの親子は呪いと呼ぶ)を持った主人公の柳瀬君が、社会に不適合感を感じている若者たちや悩みを抱える人々に向き合い、寄り添いながら自らの心の内にも対峙していく物語。とても感想が難しいお話でしたが、悪魔の合わせ鏡のようなその能力に見つめられたとき、良二くんとその母親や、ミカの父親や渡さんのように、自分の中の醜さや空虚さに嫌でも気が付かされてしまいそうで怖くなる。静かな雰囲気で淡々としたなかにも、心の奥底に鋭く食い込む柳瀬君の言葉が胸に残る。
読了日:12月28日 著者:本多孝好
ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)感想
編集者の真也と同僚のカオル、カオルの父を中心に、登場人物やある程度の設定を共通する二つのパラレルな物語から構成される。いずれもキーになるのは、手に触れた物から人の感情や記憶を感じ取ることができる真也の特殊能力と、20年もの長い間閉ざされていたカオルと父との間の確執とその裏に隠された確かな愛情。どちらの物語も登場人物が魅力的で、印象的に残る素敵な台詞も多いですが、人の格好悪さを許容し、そのうえで尊重し合おうとする後半の話の方が好みかな。非常にスッキリと読後感も良い作品です。
読了日:12月26日 著者:有川浩
サクリファイス (新潮文庫)サクリファイス (新潮文庫)感想
サイクルロードレースの臨場感と、勝負の世界に生きる男達の息遣いまでが感じられるほどの緊張感がとにかく物凄い。競技ルールを知らない人間でも理解でき、知らずとのめり込ませてしまう構成と、そこにミステリを織り交ぜ最後まで読者を掴んで離さないサスペンスな展開はお見事と言うしかない。プロトンの中の孤独を先に読んだため、石尾と赤城の結末は悲しかった。勝利は自分のものだけじゃないという言葉にストイックに非情までに徹した石尾の思いは尊いものですが、同時にとても哀しくサクリファイス(犠牲)というタイトルが胸に刺さります。
読了日:12月22日 著者:近藤史恵
ふたつめの月ふたつめの月感想
久里子と赤坂の再会はもっと劇的なものかと思っていたが、とても自然であたかもブランクなど無かったかのよう。久里子を見舞った仕事のトラブルや、弓田君との関係、新たに登場した明日香の問題のいずれも赤坂の優しい言葉によって、頑なになりがちな久里子の気持ちがほぐされていく。アンとトモのワンコ達も相変わらず可愛いらしく、最後に明かされるふたつめの月というタイトルの意味とともに、前作と変わらない優しさに包まれている。またもや、姿を消してしまった赤坂だけど、いつかひょっこりと変わらぬ様子で久里子の前に現れると思いたい。
読了日:12月21日 著者:近藤史恵
光 (集英社文庫)光 (集英社文庫)感想
作中で描かれる、有形無形のあらゆる形の人の中に存在する暴力を見せつけられ、同時に誰の中にも同じものが確かに在ることを嫌でも思い知らされる。三浦さんの作品ということで、明るい話を期待していたところを、見事に打ちのめされた感じ。2008年の作品だが、東日本大震災津波被害を思い起こさずにはいられない美浜島の惨状や、生き残った信之、輔、美花のそれぞれの心の闇が痛々しい。そして、それらを信之の妻である南海子の視点を交えて非情なまでに容赦無く抉り出す。南海子自身の闇も深く、信之との狭間に置き去りの椿が居た堪れない。
読了日:12月21日 著者:三浦しをん
塩の街 (角川文庫)塩の街 (角川文庫)感想
今更ながら、有川さんのデビュー作品として電撃文庫から出版された本書を読みました。当然、ラノベレーベルからの発刊ですから、一見ラノベ然とした装いではあります。しかし、突然地球を襲った隕石群に端を発した塩害により世界が壊滅的状態にあるなか、東京を舞台に自衛官の秋庭と女子高生の真奈の、世界を天秤にかけたラブコメを思う存分描いてみせるなんて、後の有川さんの活躍を予感させるに充分な素養たっぷりの荒削りながら全力で振り切ったパワーを感じます。「愛する人が待っている」が、死亡フラグじゃなくて良かったσ(^_^;)
読了日:12月20日 著者:有川浩
賢者はベンチで思索する (文春文庫)賢者はベンチで思索する (文春文庫)感想
フリーターの久里子が勤めるファミレスを舞台に、常連客の不思議な国枝老人を交えて、犬の餌の毒入り事件や食中毒事件、小学生の誘拐事件などの近所で起こる色々な事件を解決するお話。久里子の心情や所々の風景の柔らかな描写が印象に残る。(例えば「夕刻の空気は皮膚にまとわりつかずにすべる皮膚のようだ。」)タイトル通り、ベンチで思索する賢者の国枝氏が鮮やかに事件を解決に導いていくが、最終話の「その人の背負ったもの」では、国枝氏の素姓をめぐる思いもよらぬ展開が待っている。この後に続く物語にも興味がわきました。
読了日:12月18日 著者:近藤史恵
終物語 (上) (講談社BOX)終物語 (上) (講談社BOX)感想
時は少し遡り、今更ではあるが新たな登場人物として”自力で沸騰したと思っている水が嫌いな”老倉育を迎え、忍野扇を中心とした3章から構成される。時系列的な辻褄や記憶への疑問はさらっと流すとして、これまであまり語られることのなかった他のクラスメートや幼少期や親との関係など、扇をナビゲーターとして阿良々木暦のルーツを辿ることにより物語のプロローグとエピローグを語ろうとするお話だが、合わせて明らかにされる老倉の物語はかなりダークで重い。あとがきの著者の宣言も空々しく、既定路線のように折りしも発表された中巻へと続く。
読了日:12月16日 著者:西尾維新,VOFAN
空の中 (角川文庫)空の中 (角川文庫)感想
自衛隊から航空業界、UMA(未確認生物)と人類の邂逅から、果ては古代からの生物の進化、争うことから逃れられない人間の性から、解離性人格障害まで。どう混じり合わせるのかわからないような素材を、堅物の女性パイロットの光稀と一見軽薄ながらちゃっかり者の事故調査員の春名の絶妙の組み合わせと、瞬と佳江の高校生カップルを交えて、しっかりとスケールの大きい話に仕立て上げている。そして、宮じいこと仁淀の神様の深みのある土佐弁の台詞が、荒唐無稽な物語に人間味を与えている。まさに「大人のライトノベル」。面白い。
読了日:12月15日 著者:有川浩
天使はモップを持って (文春文庫)天使はモップを持って (文春文庫)感想
自らの仕事や役割に誇りと自信を持っている人はとても清々しい。一見似つかわしくない格好のオフィス清掃員のキリコと新入社員の大介が、社内で起こるちょっとした事件やいざこざを、キリコの清掃員ならではの観察眼で解き明かしていく。とは言っても、人の心の嫉妬や妬み嫉みの醜さが浮き彫りになり後味のスッキリしない出来事も多い。ゴミは人の心を写す鏡のようなものであり、そこから見えてくる闇と、軽やかに掃除に励むキリコの爽やかさの対比が印象的。最終章のCLEAN8の引っ掛けはちょっとズルい気がしました。
読了日:12月13日 著者:近藤史恵
しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)感想
喧嘩っ早くてお人好しの噺家の今昔亭三つ葉こと達っちゃんに、幼馴染で気の弱い吃音に悩むテニスコーチの良、学校でいじめにあっている阪神タイガースをこよなく愛する小学生の村林、無愛想な美人の十河、引退した元プロ野球選手の湯河原が、落語を教わり発表会を開く過程を描く。とにかくそれぞれの人物描写が巧みで、ストーリーに引き込まれる。特に村林がクラスのボスである宮田に対峙し落語を披露するシーンでは手に汗握って応援してしまう。不器用な5人の絶妙な距離感が心地よく優しい気分になれる。自信を失いかけた時に読み返したい一冊。
読了日:12月10日 著者:佐藤多佳子
真夜中のパン屋さん (ポプラ文庫)真夜中のパン屋さん (ポプラ文庫)感想
午後23時から午前29時までの真夜中だけ開店する不思議なパン屋さんを舞台に、おっとりとしたオーナーの暮林、パン職人の弘基と、そこへ転がり込んできた女子高生の希実が織りなす、ちょっとほろ苦いお話。一見スマートに見えるパン屋の男性二人の関係もまだまだ波乱含みで、登場人物は一癖も二癖もある、覗き魔の斑目、オカマのソフィア、そしてこだまと織江ちゃん。世の中、思うようにならないことが多いけど、悪いことばかりでも無いと、周りの人次第でそう思えるかもしれない。とにかくこだま君が健気過ぎる。続きも読んでみよう。
読了日:12月8日 著者:大沼紀子
風の中のマリア (講談社文庫)風の中のマリア (講談社文庫)感想
読み始めてまず、擬人化の比喩なのかと思っていたら、本当にオオスズメバチのマリアが主人公でビックリ。読み出して暫くは、マリアたちや他の虫達が、自然界の生態系やゲノム遺伝子、虫の生殖本能、命の短さなどに対する極めて人間的な知識、感覚を持って会話がなされることに違和感を感じるものの、ワーカーとしての使命を懸命に最期の時がくるまで全うしようとするマリアの姿とパワーに圧倒される。そして、長い戦いの果てに女王バチとなった妹を見送るマリアの最期の姿は感慨深い。ただし、一応、小説ではあるものの虫が苦手な人は要注意です。
読了日:12月7日 著者:百田尚樹
流れ行く者: 守り人短編集 (新潮文庫)流れ行く者: 守り人短編集 (新潮文庫)感想
王の陰謀によって父を殺され故郷を追われることになったバルサが、追っ手から逃れながら用心棒として生きるジグロと共に生きる少女時代を描く短編集。同じく少年時代のタンダとのほっこりするような交流や、賭事師のアズノの静かだけれども、燃えるような熱い生き様を間近に見るバルサや、老練の護衛士のスマルの悲しい物語を、いつもながらの豊かな描写で鮮やかに描き出す。そして、厳しいながらも暖かいジグロの「そのときがきたら、ためらうな。一瞬もためらうな。」という言葉が印象的。まさに、バルサの生き様の原点がここにある。
読了日:12月5日 著者:上橋菜穂子
天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)感想
守り人シリーズのラストを締めくくる最終章の第三部となる新ヨゴ皇国編。遂に終わったけれども、何だか終わった気がしなくて上手く言葉に出来ない。それは多分、物語の中の人々の生が、本を閉じたあとも続いているせいなのだろう。悲惨な戦と天の災いを越えて国の再建に奔走するチャグムの行く末は決して希望に満ちているわけではなく、苦難はこれからも絶えることはない。それでも人は生きていく強さを持っている。チャグムだけでなく、バルサやタンダ、トロガイ師を始め、生きる力に満ち溢れた人々にこの物語で出会えたことに感謝します。
読了日:12月4日 著者:上橋菜穂子
天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)感想
最終章三部作の第二弾。バルサと共にカンバル王国に辿り着いたチャグムを待っていたのはタルシュの刺客、それとそれを助けようとするシハナたちカシャル。カンバルに潜む陰謀を潜り抜けて、いよいよカンバル王の前に立つチャグムだが、ロタとの同盟に踏み切れないカンバル王を説得するために、自らの誇りを捨てる決断は見事なホイ<捨て荷>でした。南からの侵略と天の災いの二つの板挟みに苛まれながら、バルサの思いを背にロタへの道を歩むチャグムの先に遥かなる希望の道があると信じて、第三部<新ヨゴ皇国編>を手に取ろうと思います。
読了日:12月3日 著者:上橋菜穂子
天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)感想
遂に物語は最終章三部作へ。死者となってまで、ロタ王国と新ヨゴ皇国の同盟を成し遂げることによってタルシュ帝国から新ヨゴを守ろうとするチャグムに、南翼のハザール王子らの刺客が迫る。ようやく辿り着いたバルサとの再会に胸が熱くなる。いよいよ、サグとナユグのように一つに絡み合うことこととなったチャグムとバルサの二つの運命の旅は、新たな目的地として、バルサの故郷であるカンバルを目指すことになった。そこで2人を待ち受けるのは果たして北の大地を救う希望であるのか。そして草兵となったタンダの運命は。第二部カンバル王国編へ。
読了日:12月1日 著者:上橋菜穂子
蒼路の旅人 (新潮文庫)蒼路の旅人 (新潮文庫)感想
チャグムを主人公とする虚空に続く旅人シリーズ第二弾。新ヨゴ皇国に迫るタルシュ帝国の魔の手。サンガルのサルーナ王女からの密使により罠であることを察知しながらも、帝との対立により祖父トーサを救うべく敵地へ赴くチャグム。案の定、敵の手に捕えられることになるも、その道中で始めて見ることになる征服された国の姿と世界の広さに、チャグムが何を感じ、どのように成長の糧とするのか逆にワクワクしてくる。新ヨゴの民を救うための決断がこの後どのような展開を見せ、バルサ達の旅といかに結びつくのか、心して見届けなければならない。
読了日:12月1日 著者:上橋菜穂子

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